死亡事故の難しさは、後遺障害、後遺症案件と違って、本人が事故の状況を説明できないことから、事故状況が相手方の説明どおりとなってしまう可能性があるということです。
本来、車両が赤信号を無視して、横断歩行者を死亡させた事例であるにもかかわらず、誰も目撃者がいなことをいいことに、歩行者が赤信号を無視して横断してきて衝突したとの嘘がまかり通ってしまう可能性があることです。警察も誰も見ていないとなると、それを信用せざるを得ないということになります。
そこで、そのような場合は、早期に専門の弁護士に相談してもらいたいと思います。専門の弁護士はそのようなときに、警察とどう交渉するか、経験があります。
また、死亡案件の場合は、事故としては同様に重大で、親族を失った悲しみは大きいにもかかわらず、重度の後遺障害、後遺症案件に比べて、損害額が低くなります。逸失利益について、生活費控除がなされ、介護費が不要だからですが、その分、逸失利益総額、慰謝料をできるだけ多く獲得できないか、知恵を絞らなければなりません。
死亡案件の場合の損害賠償費目は概ね以下のとおりです。
1. 自賠責保険の場合
死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料とされます。後遺障害による損害に対する保険金等の支払の後、被害者が死亡した場合の死亡による損害について、事故と死亡との間に因果関係が認められるときには、その差額が認められます。
(1)葬儀費
①葬儀費は、60万円。
②60万円を超えることが、立証資料等で明らかな場合は、100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費。
(2)逸失利益
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- 逸失利益
- 年収から本人の生活費を控除し、就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出されます。ただし、別表IIIの額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでないとされます。
死亡 逸失利益 別表III,IV.pdf
有職者 事故前1年間の収入額と死亡時の別表IVの額のいずれか高い額を収入額とされます。ただし、次に掲げる者については、それぞれに掲げる額を収入額とされます。 -
- 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者
- 事故前1年間の収入額、別表IIIの額及び死亡時の別表IVの額のいずれか高い額。
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- 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者
- 1)35歳未満の者
別表IIIの額又は死亡時の別表IVの額のいずれか高い額。
2)35歳以上の者
別表IVの額。
- 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
以上の基準が準用されます。
この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとされます。幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 別表IIIの額とされます。ただし、58歳以上の者で死亡時のIVの額が別表IIIの額を下回る場合は、前者とされます。 その他働く意思と能力を有する者 死亡時の別表IVの額とされます。ただし、別表IIIの額を上限とします。 -
- なお、年金等を受給していた場合は、この分が加算されますが、別表IIIの額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでないとされます。
年金等の受給者とは、受給権者本人が拠出性のある年金等を現に受給していた場合であり、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まれません。有職者 事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時の別表IVの額のいずれか高い額 とされます。
ただし、35歳未満の者については、これらの比較のほか、別表IIIの額とも比較して、いずれか高い額とされます。幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 年金等の額と別表IIIの額のいずれか高い額とされます。
ただし、58歳以上の者で事故時の別表IVの額が別表IIIの額を下回る場合は、前者と年金等の額のいずれか高い額とされます。その他働く意思と能力を有する者 年金等の額と死亡時の別表IVの額のいずれか高い額とされます。ただし、死亡時の別表IVの額が別表IIIの額を上回る場合は、別表IIIの額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とされます。 - 生活費控除率は、その立証が困難な場合、被扶養者がいるときは35%、被扶養者がいないときは50%を生活費として控除します。
(3)死亡本人の慰謝料
死亡本人の慰謝料は350万円とされます。
(4)遺族の慰謝料
慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人以上の場合には750万円とされます。なお、被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算されます。
2. 弁護士による場合
(1)葬儀費用
原則として150万円とされますが、それ以上の賠償を認めた例もあります。
(2)逸失利益
=基礎収入 (1)
× 基本67歳までのライプニッツ係数 (2)
×(1-生活費控除率)(3)
+年金逸失利益
= 年金額 (4)
× 平均余命までのライプニッツ係数 (5)
×(1-生活費控除率)(6)
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- 基礎収入
- 以下、表をご参照ください。
分類 基礎収入の取り方(原則) 給与所得者
(会社員など)事故前年の収入(年収) 事業所得者
(個人事業主など)- 原則は、確定申告所得額
- 確定申告額と実収入額が異なる場合で、実収入額を証明できれば、実収入額
家事従事者 原則:女子全年齢賃金センサス(賃セ)額
例外:賃セ<実収入のとき ⇒ 実収入学生など 男女全年齢賃金センサス額 失業者 賃金センサス額から相当額減額する例が多い 高齢者 60歳~64歳または65歳~69歳の年齢別賃金センサスを参考にする。
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- 基本67歳までのライプニッツ係数
- 就業可能期間は、67歳までを就業可能年齢としていますので、死亡時の年齢から67歳までとなります。なお、高齢の就業者の場合、平均余命の2分の1を就業可能期間とすることもあります。そして、その期間に応じたライプニッツ係数(将来得られる金額を現在の一時金でもらうため、金利分が減額されます)を選択します。
期間(年) 係数 期間(年) 係数 1 0.9524 35 16.3742 2 1.8594 36 16.5469 3 2.7232 37 16.7113 4 3.546 38 16.8679 5 4.3295 39 17.017 6 5.0757 40 17.1591 7 5.7864 41 17.2944 8 6.4632 42 17.4232 9 7.1078 43 17.5459 10 7.7217 44 17.6628 11 8.3064 45 17.7741
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- 生活費控除
- 生活費控除率は生存していたらかかる費用を控除するためのものです。一家の支柱で被扶養者1人は40%、被扶養者が2人以上は30%、女子(主婦、独身、幼児を含む)30%、男子(独身、幼児を含む)50%
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- 年金
- 年金受給者だけでなく、未受給であっても受給資格が確定している者も含みます。
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- 平均余命までのライプニッツ係数
- 厚生労働省大臣官房統計情報部から「簡易生命表」が毎年公表され、前年度までの男女の平均余命が記載されています。そこから当該死亡者の余命を確認して、②のライプニッツ係数を選択します。
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- 生活費控除
- 年金しか収入がない方の場合、生活費控除を比較的高い割合(50%程度)で認める例があります。
(3)死亡慰謝料
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- 本人分として
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- 一家の支柱 2800万円
- 母親、配偶者 2400万円
- 独身の男女、子供、幼児 2000~2200万円
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- 親族分として
- 配偶者、子、両親、兄弟に認めた例があります。
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- 増額事由
- 事故態様、相手方の対応等で増額した例があります。