【判決要旨】
①原告Xが父親所有の乗用車を被告Yに運転させて同乗中に大型二輪と衝突した交通事故について、父親はXが友人とドライブに出かける事を認めていたこと、XとYは複数回ドライブに行く友達関係であり、YがXの運転を助言する関係にあった等から、原告Xを、原告車の運行を支配・制御しうる共同運行供用者(好意同乗者)だと認め、原告Xの損害について15%を減額した。
東京地裁 平成25年10月23日判決
事件番号 平成24年(ワ)第24475号 損害賠償請求事件
<出典> 交民集46巻5号1376頁
【主 文】
1 被告は、原告一郎に対し、71万2,917円及びこれに対する平成22年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告花子に対し、58万6,630円及びこれに対する平成22年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
1 被告は、原告一郎に対し、83万9,775円及びこれに対する平成22年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告花子に対し、101万2,101円及びこれに対する平成22年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告一郎が所有し、被告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と、丙川三郎が運転する大型自動二輪車(以下「丙川車」という。)が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告一郎が、被告に対し、民法709条に基づき、物的損害83万9,775円及びこれに対する本件事故発生日である平成22年5月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告車の同乗者であり、原告一郎の子である原告花子が、被告に対し、同法709条に基づき、人的損害101万2,101円及びこれに対する上記同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
(1) 被告は、平成22年5月22日午前10時55分頃、静岡県a市bスカイライン6.9キロポスト付近において、自己の運転する原告車を、追越しのため反対車線にはみ出させ、反対車線を走行してきた丙川車に正面衝突させる本件事故を起こした。
原告花子は、本件事故当時、原告車に同乗していた。
(2) 原告車は、原告花子の父親である原告一郎が所有していた。
2 争点及びこれについての当事者の主張
(1) 原告一郎の損害及び損害額
(原告一郎の主張)
原告一郎は、本件事故により原告車を損傷し、これによって発生した損害は、次のとおり合計83万9,775円である。
ア 車両損害(時価相当額) 69万円
イ レッカー費用 5万3,812円
ウ 廃車処理手数料 1万5,750円
エ 廃車処理に係る印鑑登録証明書取得費用 300円
オ 廃車処理に係る郵送費用 3,030円
カ 事故証明書取得費用 540円
キ 弁護士費用 7万6,343円
(被告の主張)
原告一郎の主張は不知。
(2) 原告花子の損害及び損害額
(原告花子の主張)
原告花子は、本件事故により胸背部打撲、右手打撲の傷害を負い、これによって発生した損害は、次のとおり合計101万2,101円である。
ア 治療費等 12万7,800円
イ 実況見分立会いのための交通費 2,292円
ウ 慰謝料 79万円
エ 弁護士費用 9万2,009円
(被告の主張)
原告花子の主張は不知ないし争う。
(3) 共同運行供用者(好意同乗者)としての減額
(被告の主張)
原告花子は、被告による原告車の運行について、被告と共に運行共用者に当たり、原告花子の損害について好意同乗者として相当の減額がされるべきである。
また、原告車の所有者であり運行供用者である原告一郎は、子である原告花子が原告車をドライブ等に日常使用することを認めていたのであるから、原告一郎の損害についても相当の減額がされるべきである。
(原告らの主張)
被告の主張は争う。
好意同乗者として減額することができるのは、同乗者が危険な運転状態の作出に関与若しくは容認し、又は危険を予見することができたのにあえて同乗したなどの帰責事由がある場合に限られ、共同運行供用者であることから直ちに減額すべきではない。
第三 争点に対する判断
1 争点(1)(原告一郎の損害及び損害額)について
証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告車は本件事故により全損となり、本件事故時における時価額は69万円であることが認められ、これとレッカー費用5万3,812円、廃車処理手数料1万5,750円、廃車処理に係る印鑑登録証明書取得費用300円、廃車処理に係る郵送費用3,030円及び事故証明書取得費用540円との合計76万3,432円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
2 争点(2)(原告花子の損害及び損害額)について
(1)ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告花子は、本件事故により胸背部打撲、右手・打撲の傷害を負い、本件事故発生日である平成22年5月22日、静岡県a市内のB病院を受診し、全治約10日間と診断され、治療費6,360円及び薬代2,330円を負担したこと、同月24日、東京都c区内のC整形外科を受診し、治療費5,110円を負担したこと、同月25日から平成22年9月30日まで、同区内のD整骨院を利用し、施術料11万4,000円を負担したこと、以上の事実が認められ、上記治療費等合計12万7,800円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
この点、被告は、整骨院の施術料と本件事故との相当因果関係を争うが、証拠(略)によれば、原告車は、本件事故によりエアバッグが作動し、車両前部が凹損し、フロントガラスが破損したことが認められ、このような本件事故の内容と上記認定の原告花子の受傷内容・程度に照らすと、整骨院における施術の必要性が認められ、施術期間(約4ヶ月)及び施術料の額(11万4,000円)に照らし、上記施術料も本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
イ 原告主張の実況見分立会いのための交通費については、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(2) 慰謝料(傷害慰謝料)については、本件事故の態様、傷害の内容、治療等の経過等に照らし、50万円と認めるのが相当である。
3 争点(3)(共同運行供用者(好意同乗者)としての減額)について
(1) 前提事実と証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告花子(昭和59年2月生)は、平成20年4月頃、職場の同僚であった被告と知り合い、被告が同年11月頃に仕事を辞めた後も被告と月に1、2回遊んでいた。
原告花子は、平成21年6月頃、運転免許を取得した後、レンタカーを借り、原告花子の運転で被告とドライブに行ったことがあった。
イ 原告花子の父親である原告一郎は、原告花子と同居し、平成21年9月、オートマチック車限定運転免許であった原告花子のために原告車を購入し、原告花子が友人とのドライブ等に原告車を使用することを認めていた。
ウ 原告花子は、本件事故当日までに、原告車を運転して被告とドライブに行ったことが数回あったが、その際は、原告花子が主として運転し、原告花子より運転経験の長い被告は、原告花子に運転を助言し、難しい運転は被告が代わっていた。
エ 原告花子は、平成22年5月22日、被告とドライブをして富士山を見に行くため、自宅から原告車を運転し、途中で被告を乗せ、E高速道路のdサービスエリアまで行き、そこで被告と運転を交代し、原告花子は助手席に乗った。
オ 被告は、原告車を運転し、片側1車線の道路であるeスカイラインを走行中、速度の遅い先行車があったが、中央線が黄色の実線のカーブが続く道路であったため追越しを控えていたところ、中央線が白色の破線になったことから、「追い越そうかな」などと言いながら追越しの機会をうかがっていた。
原告花子は、原告車の助手席で被告の上記の様子を見ており、被告が先行車を追い越そうとしていることを知っていた。
カ 被告は、先行車を追い越すため、速度を上げて反対車線に出たところ、丙川車と正面衝突した。
(2) 上記認定事実を前提として検討するに、原告花子と原告一郎は同居の親子関係にあり、原告車は原告一郎の所有するものであったが、原告花子は友人とドライブのため原告車を運転することを原告一郎から認められていたこと、原告花子と被告は二人で複数回にわたりドライブに行く程度の交友関係があり、被告は原告花子の運転を助言する関係にあったこと、本件事故当日の原告車の運行の目的も二人でドライブに行くことにあり、当初は原告花子が運転し、その後、被告が運転を交代したこと、以上の事実に照らすと、本件事故当日の被告による原告車の運行について、原告花子の運行支配及び運行利益の程度は被告と同等程度であったということができる。
そうであるとすれば、原告花子は、単に助手席に同乗するだけではなく、原告車の運行を支配・制御しうる共同運行供用者であったというべきであり、そのような立場にあったことは、不法行為責任においても、原告花子の損害を減額しうる根拠の一つとなるというべきである。そして、上記認定の原告花子と被告との関係、本件事故発生の経緯、被告の追越し行為の危険性及びこれについての原告花子の認識の有無・程度等を併せ考慮すると、原告花子の損害について、15%の割合による減額をするのが相当である。
また、上記認定事実によれば、原告一郎と原告花子とは、身分上、生活関係上一体を成す関係にあったということができるから、原告一郎の損害についても、原告花子についての上記事情を斟酌して、上記と同一の割合による減額をするのが相当である。
4 原告らの損害及び損害額
(1) 原告一郎
ア 上記認定の損害76万3,432円について、15%の割合による減額をすると、76万3,432円×(1-0.15)=64万8,917円(円未満切捨て)となる。
イ 本件事案の内容、審理の経過等の諸事情を考慮すると、原告一郎に生じた弁護士費用のうち6万4,000円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(2) 原告花子
ア 上記認定の損害合計62万7,800円について、15%の割合による減額をすると、62万7,800円×(1-0.15)=53万3,630円となる。
イ 本件事案の内容、審理の経過等の諸事情を考慮すると、原告花子に生じた弁護士費用のうち5万3,000円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
5 よって、原告らの請求は、被告に対し、民法709条に基づき、原告一郎については物的損害71万2,917円(弁護士費用相当額6万4,000円を含む。)、原告花子については人的損害58万6,630円(弁護士費用相当額5万3,000円を含む。)及びこれらに対する本件事故発生日である平成22年5月22日から各支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所
裁判官 有冨正剛