追突された原告車は駐車禁止場所に駐車しハザードランプ点灯等の措置を取っていなかった等から25%の過失を認定した
【判決要旨】
①深夜、駐車禁止の路上に、原告が普通乗用車を駐車中、被告運転の普通乗用車に追突された過失割合につき、被告は、「前方を注視するという基本的な義務を怠り、駐車中の原告車に追突したものであるから、その過失の程度は大きい」とし、原告は、「駐車禁止の規制がされている路上に駐車し、その際ハザードランプの点灯等の措置を取っていなかったものであること、本件事故が発生した時間、場所、付近の状況に鑑みると、街灯があったことを考慮しても、視認状況はよくなかったことなどの事情を総合考慮すると、本件事故の過失割合は、原告25%、被告75%と認めるのが相当である」と原告の過失を25%と認定した。
東京地裁 平成27年1月27日判決(確定)
事件番号 平成26年(ワ)第2761号 損害賠償請求事件
【事案の概要】
普通乗用車を運転中の原告は、平成23年4月9日午前1時55分頃、神奈川県内の駐車禁止の幅員約4.8メートル道路上に原告車を駐車中、被告運転の普通乗用車に追突され、頸部挫傷等の傷害を負い、950日通院し、休業損害等656万9,686円を求めて訴えを提起した。
裁判所は、駐車中に追突された原告車の過失を、駐車禁止場所に駐車し、ハザードランプ点灯等の措置を取っていなかったと25%認定した。
過失割合につき、被告は、「被告車を運転して本件道路を走行するに当たり、前方を注視するという基本的な義務を怠り、駐車中の原告車に追突したものであるから、その過失の程度は大きい」とし、他方、原告は、「駐車禁止の規制がされている場所に駐車し、その際ハザードランプの点灯等の措置を取っていなかったものであること、本件事故が発生した時間、場所、付近の状況に鑑みると、街灯があったことを考慮しても、視認状況はよくなかったことなどの事情を総合考慮すると、本件事故の過失割合は、原告25%、被告75%と認めるのが相当である」として、原告の過失を25%と認定した。
休業損害につき、「就業の状況や退職に至る状況は明らかでなく、他に原告が本件事故による負傷により休業し、原告主張の損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない」として、「休業損害を認めることはできない」と否認した。
判 決
原告 甲野一郎
同訴訟代理人弁護士 高城昌宏
被告 乙山次郎
同訴訟代理人弁護士 横山真司
同 大西啓文
【主 文】
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする
【事実及び理由】
第一 請求
被告は、原告に対し、656万9,686円及びこれに対する平成23年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
1 本件は、原告の運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)により、原告が損害を被ったと主張して、民法709条に基づき、損害賠償金及びこれに対する本件事故の日である平成23年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める事案である。
2 前提事実
次の事実は、当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 本件事故の発生
ア 発生日時 平成23年4月9日午前1時55分頃
イ 発生場所 川崎市多摩区<地番略>路上(以下「本件道路」という。)
ウ 原告車 原告が運転する普通乗用自動車
エ 被告車 被告が運転する普通乗用自動車
オ 事故状況 路上に駐車中の原告車に被告車が追突した。
(2) 原告の負傷及び治療
原告は、本件事故により頸部挫傷、腰部挫傷等の傷害を負い治療を受けた。
(3) 被告の責任
被告は、前方不注視の過失により本件事故を発生させ、原告に損害を及ぼしたものであるから、民法709条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
(4) 損害の填補
被告は、原告に対し、本件事故による人身損害の填補として、平成23年4月9日に11万2,010円、同月16日に10万円を、それぞれ支払った。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 過失相殺
(被告の主張)
本件事故は被告車が路上駐車中の原告車に追突したというものであるが、本件事故現場は駐車禁止であること、本件道路側方の一方は茂み、他方は小学校のグラウンドとなっており、街灯もなく、夜間は真っ暗となること、原告車は坂の上に駐車していたことから、坂を上ってきた被告車からの見通しは極めて悪かったこと、原告車はハザードランプ等を点灯していなかったことという事情があり、少なくとも40%の過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
本件道路周辺には街灯が何ヶ所か存在し、真っ暗という程ではない。現場の坂は極めてなだらかであり、坂を上ってくる車両の見通しも悪くない。原告はハザードランプを点灯して停車していた。
(2) 原告の損害及び損害額
(原告の主張)
ア 治療費等 16万4,840円
原告は、本件事故による負傷の治療のため、以下のとおり、通院治療した。本件事故当時、就業場所において責任ある地位を任されていたことから、治療を我慢して勤務しており、十分な治療ができなかった。
(ア) B病院
平成23年4月9日 合計12万6,460円
同月16日 合計1,620円
同年8月17日 合計1,620円
同年12月26日 合計5,820円
平成24年1月14日 410円
同年5月21日 210円
同月26日 960円
(イ) C大学病院
平成24年7月17日 1万4,910円
同年8月13日 1,400円
同月27日 6,240円
同年9月10日 3,360円
同月25日 1,830円
イ 文書費等 7,602円
B病院(平成24年8月25日) 4,452円
C大学病院(同年9月10日) 3,150円
ウ 休業損害 450万円
原告は、本件事故により就労が困難となり、現在も休業中である。上記のとおり、本件事故当時、責任ある地位を任されていたことから、治療を我慢して就業したため、症状が改善せず、平成24年以降は完全に休職せざるを得ない状況となった。原告は有給休暇を取りながら休業したが、十分に改善せず、退職を余儀なくされた。
本件事故当日から平成25年12月31日までの約950日間を治療期間としても、少なくとも、およそ半数の480日間は休業を余儀なくされており、原告の年齢、稼働能力によれば、1日1万円の収入を得ることができるから、休業損害は少なくとも450万円に上る。
エ 傷害慰謝料 130万円
通院期間を平成25年12月31日までと見ても、およそ950日間となるから、傷害慰謝料は少なくとも130万円を下らない。
オ 弁護士報酬 59万7,244円
(被告の主張)
ア 治療費等
平成23年4月9日(合計12万6,460円)及び同月16日(合計1,620円)の通院治療は認める。その余の治療については、本件事故との相当因果関係がない。
イ 文書費等
否認ないし争う。
ウ 休業損害
否認する。
被告訴訟代理人は、平成23年4月16日、原告と病院で待ち合わせをして賠償内金10万円を渡したが、その際、原告は仕事の作業着姿であり、この時点で休業していない。
エ 傷害慰謝料
否認ないし争う。
オ 弁護士報酬
否認ないし争う。
第三 争点に対する判断
1 争点(1)(過失相殺)について
(1) 前記前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件道路は、a方面からb方面に向かってほぼ南北に延びる市道である。車道幅員は約4.8メートルであり、駐車禁止の規制がされている。
本件道路をb方面から進行すると、本件事故発生場所付近は坂を上って平坦となった場所にあり、その先は下りとなる。左方はD小学校のグラウンド、右方は茂みやマンションの駐車場がある。道路右側には、本件事故発生場所から約8.1メートル手前と、約10.2メートル先に街灯が設置されている。
イ 原告は、平成23年4月9日午前1時55分頃当時、本件事故発生場所に、原告車をハザードランプ等の灯火を点灯せずに駐車していた。
ウ 被告は、その頃、被告車を運転して本件道路をb方面からa方面に向かって走行し、坂を上りきって約8メートル進行した地点で右方に脇見をし、約15.4メートル進行した地点で約8㍍先に原告車を発見し、ブレーキを掛けたが間に合わず、原告車に追突した。
(2) 原告は、本件事故当時、ハザードランプを点灯していたと主張し、陳述書においてもその旨供述している。
しかし、上記陳述書は、駐車当時の事情が明らかでなく、かえって、現場の見分状況書によれば、原告が何らかの灯火を点灯していたことをうかがわせる記載はないことに照らすと、原告がハザードランプを点灯していたとの供述はにわかに信用し難い。
したがって、原告の供述は採用できない。
(3) 以上の認定事実をもとに検討すると、被告は、被告車を運転して本件道路を走行するに当たり、前方を注視するという基本的な義務を怠り、駐車中の原告車に追突したものであるから、その過失の程度は大きい。
他方、原告は、駐車禁止の規制がされている場所に駐車し、その際ハザードランプの点灯等の措置を取っていなかったものであること、本件事故が発生した時間、場所、付近の状況に鑑みると、街灯があったことを考慮しても、視認状況はよくなかったことなどの事情を総合考慮すると、本件事故の過失割合は、原告25%、被告75%と認めるのが相当である。
2 争点(2)(原告の損害及び損害額)について
(1) 治療費等 12万8,080円
ア 平成23年4月9日の合計12万6,460円、同月16日の合計1,620円については、当事者間に争いがない。
イ 平成23年8月17日以降の治療について検討すると、前記前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により頸部挫傷、腰部挫傷等の傷害を負い、同年4月9日、B病院を受診し、約14日間の加療を要する見込みと診断されたこと、同月16日にも同病院を受診したが、その後の通院は同年8月17日、その次は同年12月26日であり、相当期間が経過していることが認められ、これらの事実に照らすと、同年8月17日以降の通院については、本件事故との相当因果関係が認められない。
原告は、本件事故当時、就業場所において責任ある地位を任されていたことから、治療を我慢して勤務しており、十分な治療ができなかったと主張するが、就業状況を明らかにする証拠はなく、原告の主張は採用できない。
(2) 文書費等 4,452円
原告は、B病院の医療記録及びレントゲンの謄写を行い4,452円を支払ったことが認められるところ、これらの費用は本件事故と相当因果関係のある支出と認められる。
C大学病院に関して支出した費用については、何に要した費用か明らかでなく、認められない。
(3) 休業損害 0円
原告は、当初治療を我慢して就業し、平成24年以降は完全に休職したこと、その後退職を余儀なくされたことを主張し、これに沿う陳述書を提出するが、同陳述書においても、就業の状況や退職に至る状況は明らかでなく、他に原告が本件事故による負傷により休業し、原告主張の損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、休業損害を認めることはできない。
(4) 傷害慰謝料 9万円
本件事故による原告の傷害の内容、通院治療の状況を考慮すると、本件傷害に対する慰謝料は9万円が相当である。
(5) (1)から(4)までの合計 22万2,532円
(6) 過失相殺後の残額 16万6,899円
前記1の認定及び判断を前提とすると、本件事故の発生について原告に25%の過失が認められるから、これを上記金額から控除した残額は、16万6,899円である。
(7) 損害の填補後の残額 0円
前記前提事実(4)のとおり、被告は、原告に対し、本件事故により生じた人身損害の填補として、合計21万2,010円を支払っているから、これを上記過失相殺後の残額16万6,899円から控除すると、損害の全額が填補済みとなる。
(8) 弁護士費用 0円
上記のとおりであるから、弁護士費用の損害は認められない。
第四 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決
する。
(口頭弁論終結日 平成26年11月14日)
東京地方裁判所民事第27部
裁判官 家入美香