文字サイズ
背景色

メールでのお問い合わせ

0120−524−589

東京都新宿区新宿2-8-1 新宿セブンビル502

ホーム > 記事 > 事故・判例事例 > 55歳男子福祉送迎車の運転手の休業損害についての事例

55歳男子福祉送迎車の運転手の休業損害についての事例

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【判決要旨】
 55歳男子福祉送迎車の運転手の休業損害について,事故による休業後,職務復帰した後は原告に金銭的な減収が直接発生したわけではなかったが,本来は休業等により減収が発生してもおかしくない状況があり,本人の努力や同乗していた同僚の努力や配慮によって弊害が相当程度カバーされていた状況が認められるとして,職務復帰後の休業損害として,実収入の3割を認めた事案。

   大阪地裁 平成25年12月3日判決
   事件番号 平成24年(ワ)第4040号 損害賠償請求事件
   <出典> 交民集46巻6号1543頁

【主 文】
1 被告は原告に対し、245万2,987円及びこれに対する平成12年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は第2項を除き仮に執行することができる。

【事実及び理由】
第一 請求
 被告は原告に対し、2,631万4,290円及びこれに対する平成21年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告と被告との間で発生した交通事故について、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償及びそれに対する事故日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
2 前提事実(いずれも争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。なお、証拠の枝番を省略した場合には、親番号に属する証拠全てを含む趣旨である。)
(1) 原告
事故当時55歳の男性である。
(2) 本件事故の発生
  ア 日  時 平成21年7月31日午後0時15分ころ
  イ 場  所 大阪府東大阪市<地番略>
  ウ 被告車両 被告運転の普通乗用自動車〔ナンバー略〕
  エ 原告車両 原告運転の原動機付自転車〔ナンバー略〕
  オ 態  様 信号による規律がなく、かつ被告側に一時停止標識の付された交差点において、交差道路から進行してきた原告車両と被告車両が出会い頭に衝突した。
(3) 事故後の状況
 ア 原告は、左膝関節打撲、挫創、左膝内側副靱帯挫傷、頸部捻挫等の診断を受け、以下のとおり入通院した。
 (ア) B病院 平成21年8月3日から9月5日まで34日入院
 (イ) 同 平成21年7月31日、9月6日から平成22年2月15日までの間に92日それぞれ通院
 (ウ) C病院 平成22年2月5日通院
 (エ) D病院 平成22年2月8日通院
 (オ) E病院 平成22年2月9日から11月25日まで37日間通院
 (カ) F鍼灸院 平成22年4月6日から7月31日まで73日間通院
 イ 平成22年11月29日、原告は症状固定の診断を受け、平成23年1月4日、原告は自賠責において、左下肢の症状について後遺障害14級9号、頸部・腰部の症状及び関節運動障害について非該当という認定を受け、3度にわたって異議を申し立てたが、そのいずれにおいても同様の判断であった。
3 損害に関する原告の主張
(1) 治療費 302万0,422円
(2) 入院雑費 5万1,000円
(3) 通院交通費 2万8,000円
(4) 休業損害 706万8,805円
(5) 入通院慰謝料 206万円
(6) 逸失利益 982万6,499円
(7) 後遺障害慰謝料 400万円
(8) 銭湯代 18万5,730円
(9) 家屋改造費 243万5,670円
(10) 物損 2万円
(11) 既払い -458万1,836円
(12) 弁護士費用 220万円
 4 争点
(1) 過失割合(原告の停止の有無、両者の速度など)
(2) 腰の症状と本件との因果関係
(3) 基礎収入
(4) 休業損害-休業期間と休業の相当性
(5) 逸失利益
 ア 症状固定時期
 イ 労働能力喪失率、喪失期間
(6) 銭湯代・家屋改造費の相当性
5 争点に関する当事者の主張
(1) 過失割合
 ア 原告の主張
(ア) 原告は、北方向から交差点に進入し、直進しようとしていたところ、被告車両が進行してきたのに気づいて交差点右端で停止したが、そのまま被告車両が徐行することなく進行し、衝突したものである。
(イ) 原告は停止して待機中に被告に衝突されたものであり、過失はない。
 イ 被告の主張
(ア) 被告は本件交差点付近で時速5㌔㍍程度の速度で進行し、本件交差点に進入しようとしたところ、原告車両を発見し、あわてて急ブレーキを踏んだが間に合わず衝突してしまった。
(イ) 原告は本件交差点において徐行義務を怠り、漫然と交差点に進入した結果本件事故を発生させたものであって、その過失は少なくとも25%を下らない。
(2) 腰の症状と本件との因果関係
 ア 原告の主張
(ア) 原告には事故から約半月後の段階で腰痛の症状が出ており、腰痛は本件事故によって生じたものである。
(イ) また、原告の腰痛はヘルニアという形で他覚的所見の裏付けがあり、仮にヘルニアが外傷性でないとしても、症状としての証明は十分になされているし、また腰痛自体が事故によって直接生じていないとしても、治療過程で腰に負担がかかって生じた腰痛については、本件事故との相当因果関係を認めるべきである。
 イ 被告の主張
(ア) 外傷は事故直後から症状を現すものであり、事故から数週間後になって出た腰痛に本件との因果関係はない。
(イ) ヘルニアについては外傷性であるとの証明がなく、本件と関係があるとはいえない。
 (3) 基礎収入
 ア 原告の主張
(ア) 原告の事故当時の収入はG福祉会での1日3,180円というものであったが、原告は事故の5ヶ月前までは月40万円の収入を得ており、事故当時は求職中であった。
(イ) したがって、原告は平均賃金年間529万8,200円を得られた蓋然性があったので、これを基礎収入とすべきである。
 イ 被告の主張
 原告の直近の収入は1日3,180円であったのであるから、仮に休業損害が認められるとしても、基礎収入はこの金額にとどまる。
(4) 休業損害
 ア 原告の主張
(ア) 原告は事故から症状固定までの間、G福祉会の仕事に復帰した他は、全く仕事ができなかった。したがって、症状固定までの全期間について休業の相当性が認められるべきである。
(イ) G福祉会に復帰したのは、本件事故により左足が不自由になり、他の就職先を見つけることが不可能になったからである。したがって、復帰したことは休業損害を否定する事情にはならないし、原告は本来平均賃金を得る蓋然性があった以上、G福祉会に復帰することしかできず、同会からの低廉な収入しか得られなかった時期については、平均賃金との差額が休業損害として認められるべきである。
 イ 被告の主張
(ア) 原告は平成22年1月にG福祉会の仕事に復帰している。
(イ) したがって、それ以後の休業損害は認められないし、また仮に認められる場合、G福祉会で得ていた金額は控除されるべきである。
(5) 後遺障害
 ア 症状固定時期
(ア) 原告の主張
 a 平成22年11月に症状固定したというのは医師の診断である。
 b 平成22年4月以降に実通院が減少しているのは、外科的傷害の場合には通常のことであり、症状固定までの経過観察が行われている期間は症状固定にはならない。
(イ) 被告の主張
 a 原告に対する積極的な治療は平成22年4月3日をもって終了しており、それ以降の時期には原告の通院日数が大きく減少している上、その後は原告の症状に大きな変化はない。
 b したがって、原告の症状は平成22年4月3日に固定したものと見るべきである。
 イ 労働能力喪失率、喪失期間
(ア) 原告の主張
 a 原告の左膝には可動域制限が生じ、また痛みがあるところ、これは皮下組織の断裂及びその遺残によるものである。本来神経症状が頑固であることや可動域制限があることについて、他覚的所見による証明を要求すること自体不当であるが、仮にこれが必要であるとしても、皮下組織の断裂は関節外の軟部組織の変化に当たるものであり、それによって生じた症状には他覚的所見があるものであるし、また器質的な可動域制限であると評価されるべきである。したがって、左膝の症状については、12級7号ないし13号と評価されるべきものである。
 b 原告の腰部の症状はヘルニアによるものであるところ、上記のとおり外傷性であるかどうかは断言できないものの、仮に外傷性でないとしても、症状に他覚的所見を伴っていることは明らかである。したがって、これについては12級13号と評価された上で、万一外傷性でない場合には素因減額による調整を施せば足りる。
 c 以上によれば、原告の症状は併合11級に該当するものであり、また原告の症状は神経症状・可動域制限とも全く快方に向かうことはなく、左膝を曲げることはできず、腫れたままである。したがって、その労働能力喪失率は少なくとも20%と評価されるべきであり、また就労年限までの喪失期間が認められるべきである。
(イ) 被告の主張
 a 左膝の可動域制限については、可動域制限の医学的原因が明らかになっておらず、神経症状という以上の評価はされるべきでない。また、皮下組織の断裂遺残は骨、筋、腱の異常でもなければ神経系の障害でもなく、他に可動域制限をもたらす医学的要因はない。
 b 腰痛については本件との因果関係がない。
 c したがって、原告については、左膝の症状について他覚的所見に基づかない神経症状があるものとして、14級9号と評価されるべきである。
(6) 銭湯代・家屋改造費
 ア 原告の主張
(ア) 原告は本件事故により左膝を大きく曲げることができなくなっており、浴槽につかって入浴することが困難になった。しかし、原告の自宅浴室にはシャワーがないため、原告は入浴のために銭湯に通わざるを得ない。したがって、症状固定までの453日間の入浴料金が損害として認められるべきである。
(イ) また、原告が自宅で支障なく生活するためには、玄関前のスロープや玄関の段差、手洗い、浴室の改修が必要であり、そのために243万5,670円の費用を掛けて改修工事を行う必要がある。
 イ 被告の主張
(ア) 原告は平成22年1月の段階で仕事に復帰しており、この段階で原告の仕事であった送迎車の運転ができるまで症状が回復していることが認められる。
(イ) そうすると、職業ドライバーとしての仕事ができる原告が生活するために、主張するような銭湯代や家屋改造費を必要とするとは認められない。

第三 当裁判所の判断
1 前提事実について
上記前提事実については、いずれも問題なく認められる。
2 事故態様及び過失割合について
(1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
 ア 本件現場の状況(原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 本件現場は東西方向と南北方向の道路が交差する交差点である。南北方向の道路の幅は約5.9メートル、東西方向の道路の幅は約4メートルである。
(イ) 東西方向の本件交差点入口には一時停止の規制がある。
(ウ) 本件交差点に信号はなく、交差点西側にカーブミラーがある。また、交差点の北東角には電柱がある。
 イ 両車両の走行経緯(原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 被告車両は本件交差点に向けて東側から西側に走行し、本件交差点付近にさしかかった。交差点付近で被告車両は時速10キロメートル前後まで減速し、被告は停止しないまま進行しつつ左右を確認したが、車両は確認できなかった。
(イ) 原告車両は本件交差点に向けて北から南に進行し、本件交差点に時速5キトメートル前後で進行した。そして、前方の横断歩行者の前で一旦停止した後、原告が発進しようと思ったところ、被告車両と衝突した。原告は衝突直前まで被告車両を確認していない。
(ウ) 衝突場所は、南北道路の東端から約1.6メートル前後、東西道路の北端から約1.7メートル前後離れた場所である。
 ウ 衝突後の両車両の状況(原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 原告車両は衝突後右側に転倒した。被告車両が原告車両に乗り上げるようなことはなかった。衝突により原告の左側フロントフェンダとフロントホイールが損傷し、右側への転倒によりハンドルカバーや右側面カバー等が損傷した。
(イ) 被告車両には、衝突により、その右前ライトの周辺に傷が生じた。被告はタイヤの損傷については記憶していない。
 エ 診療録の内容
 平成21年7月31日の診療録に、「本人単車で直進中、一旦停止しなかった軽自動車と衝突」「主訴 原付走行中左側から車がぶつかった」との記載がある。
(2) 以上によると、①原告は衝突直前まで被告の存在を認識しておらず、交差点内で一旦停止した後発進しようとする際に、被告の存在を意識して発進するかどうかを判断している様子がないこと、②カーブミラーもある状況で、原告が長時間交差点内に停止していたのであれば、衝突直前まで被告の存在を認識しなかったとは考え難いこと(この点、原告は陳述書において、被告車両の接近を見て停止していた旨述べるが、原告本人尋問の内容と全く異なるものであり、採用できない。)、③被告は本件交差点に進入した際に、特に致命的な脇見運転をしていたわけではなく、原告が長時間交差点にとどまっているのであれば、その存在を全く認識しないとは考えられないこと、④原告からの聞き取りによって記録されたとうかがわれる診療録にも、原告が停止中であったことを前提とした記載がないこと等の事情が認められる。これらの事情に照らすと、本件において、原告が長時間にわたって交差点で待機していたとは認められず、原告は走行中であったか、仮に交差点内で停止したとしても、それは走行の流れの中でごく僅かな時間停止したというにすぎないものと認められる。
(3) この内容を前提として双方の過失を検討する。
 ア 被告は一時停止規制のある交差点において、一時停止に従わずに交差点に進入し、原告車両と衝突している。また、被告はカーブミラーの確認もしておらず、被告において一時停止に従い、目視だけでなくカーブミラー等も含めた多角的な安全確認をしていれば事故を回避できたといえ、その責任は大きい。
 イ 他方、原告の停止はあったとしてもごく僅かな時間であり、駐停車車両と同視することはできず、ほぼ走行中と同様に考えるべきものである。また、原告も交差点において十分な注意を払っていれば被告車両の接近を認識して衝突を回避し、あるいはより余裕のある位置まで後退することができたはずである。また、そもそも十分な注意を事前に払っていれば、原告が述べるところの歩行者をより早く発見し、交差点手前で待機することができたものと考えられ、それをしないで、再発進時に交差道路を進行してきた車両との衝突を避けにくい位置まで交差点内に安易に進入した点もあり、一定の過失は認めざるを得ない。
 ウ 以上を総合し、本件における双方の過失は、原告15、被告85とするのが相当である。
 3 損害論について
(1) 証拠(略)及び関係各証拠によれば、以下のとおりの事実が認められる。
 ア 原告の平成21年2月までの勤務歴(原告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は以前友人の食料会社で働いており、その際の給料は月収40万円を下回っていて、友人から援助を受ける生活であった。
(イ) その後、原告は平成16年頃から約1年半ほど製麺会社で勤務し、その際の給料が月24万ないし25万円程度であった。
(ウ) その後、原告はコンビニでアルバイトをし、月収15万円、酒屋からのポケットマネーを含めて月20万円程度の収入であった。
(エ) 平成19年2月から平成21年2月まで、原告はH会社という会社で生産ロボットの加工、配達等に従事し、月額40万円ほどを得ていたが、平成21年2月に同社が廃業し、無職となった。
 イ 平成12年2月から事故までの原告の勤務状況(原告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 原告はその後求職活動を行い、コンビニの店長や運送業として勤務する交渉をしていたが、いずれも成約には至らなかった。また、原告は自動車関係の仕事を起業しようとしていたが、元手を用意できなかったため断念した。
(イ) 原告は、平成21年4月1日からG福祉会で運転手として勤務しており、平成21年5月から7月の3ヶ月間における支給総額は28万5,110円、所得税は1,090円であった。
 ウ B病院における治療経過
(ア) 平成21年7月31日、原告はB病院に行き、頸部右側痛、右肘擦り傷、左膝擦り傷、擦過傷+皮下出血、左足母趾爪下出血の所見が記録され、レントゲンいずれも骨折なしとの所見が記録された。同日夜、右膝の腫脹疼痛がひどくなったとして再び同病院を訪れた。8月3日、原告に左側内側側副靱帯損傷、項部硬直が見られ、入院となった。
(イ) 入院中、原告には膝の装具が付され、安静として経過観察され、8月17日から装具を解除し、訓練を始めた。9月5日、原告は退院した。
(ウ) 9月7日、原告は同病院に通院し、足や膝に浮腫があり、リハビリ継続とされた。12月17日、原告の下腿に色調変化が見られた。12月28日、「9人乗りの送迎車のドライバー(介助、介護施設)1月末まで休む」との記載がされた。また、同日、腰痛の記載が診療録になされ、腰痛については「二次性」とされた。
(エ) 平成22年1月13日、原告について下肢静脈造影がなされ、特段の異常は見られなかった。
(オ) 2月15日、原告は転院を希望した。
 エ E病院における治療経過
(ア) 平成22年2月9日から原告はE病院で治療を受け、2月12日、MRIの結果、半月板及び靱帯には問題なく、内側の皮下組織の破裂瘢痕あり、正座不可、関節可動域障害との記載がされた。
(イ) 平成22年4月6日、原告に腰椎椎間板ヘルニアがあるとの記載がなされた。
(ウ) 9月17日、MRI検査において、膝蓋大腿関節、大腿脛骨関節腔に液体貯留を認め、膝蓋上関節滑膜に不整と肥厚を認める、十字靱帯、内側側副靱帯に異常信号域を認めない、脛骨骨端部レベルの内側に側副靱帯付近まで皮下より連続するT1、T2WIで低信号域を認めるとの所見がなされ、内側側副靱帯直上皮下脂肪織瘢痕性変化疑いとの診断がなされた。
(エ) 10月28日、左右下肢筋の最大収縮を測定したところ、右側は全筋収縮良好、左は下腿直筋、腓腹筋の収縮が弱く、前脛骨筋に持続的な収縮が生じていないとの判断がなされた。また、重心動揺検査において、非常に不安定であるとの判断がされた。
(オ) 平成22年11月29日、後遺障害診断書が作成され、X線上左膝に異常認めず、MRI上腰椎はL5/S1に椎間板ヘルニアがあり中心性圧迫を認める、膝では膝の皮下組織の断裂の遺残を認める、ジャクソン-、スパーリングテスト左側±、サーモグラフィーで明らかな左右差あり、との記載がされた。
 オ 事故後における原告のG福祉会における勤務状況(原告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、平成22年1月21日からG福祉会の勤務に復帰し、運転手として勤務した。原告は月額8万7,800円から11万1,720円の収入を得ており、これは事故前と概ね変わらないものであった。
(イ) 原告は福祉施設の送迎キャラバンの運転手をしていたが、送迎対象である子供たちが運転中にパニックを起こした際、事故前と違って対応が困難となり、一緒に乗っていた職員に大きな負担をかけることになった。
(ウ) 平成23年1月、原告はG福祉会を退職した。
 カ その他原告の生活状況(原告本人、弁論の全趣旨)
(ア) 原告は、G福祉会を退職後、勤務をしていない。
(イ) 原告は、自宅において浴槽に入ることが難しくなり、銭湯に通っている。
(2) 腰の症状と本件との因果関係
 ア 以上によれば、①原告の腰の症状は事故から5ヶ月経過した平成21年12月末に初めて記録されていること、②B病院においても腰痛については「二次性」との診断がなされていること、③原告の腰にはヘルニアが見られるものの、それが外傷性であるとの証明がないこと等の事情が認められる。
 イ そうすると、原告の腰に関する症状が本件事故による衝撃によって生じた、あるいは直接に悪化したものとは認められず、原告の腰痛については、事故と関係があるとしても、事故によって負傷した膝をかばう中で負担増が生じて悪化した、という範囲に限られるというべきである。したがって、原告の腰痛は本件事故による直接の傷害、あるいは後遺障害としては認められない。
 ウ もっとも、原告の治療の大半は膝の治療に充てられており、治療の中でもっぱら腰の症状のために行われた部分は少なく、治療内容を膝の治療と腰の治療とに明確に分別することは実際上困難である。また、原告の腰痛の悪化の原因の一つに原告の膝の症状があることは確かであって、原告の膝の症状が派生的にもたらした一つの結果という理解は可能である。そうすると、原告の腰痛については、膝に関する症状と事実上一体としてとらえるべきものである。したがって、腰痛について直接の因果関係が認められず、独立の傷害ないし後遺障害と見ることができないからといって、治療費、休業損害等各種損害項目の認定に際して、そのことを理由に特段除外される部分が出てくるものではない。
(3) 基礎収入
 ア 休業損害期間における基礎収入について
(ア) 上記によれば、①原告は事故から5ヶ月前に前職であるH会社を退職し、その後しばらく職につかず、求職活動をしたが成約に至らないまま、平成21年4月からG福祉会で運転手として勤務していたこと、②原告がH会社退職から事故までに検討した就職先はG福祉会の他に2カ所のみであること、③それ以外に原告は自動車関係の起業も検討したが、元手資金が足りずに断念したこと、④原告がG福祉会の勤務に復帰した後、原告は特段他の仕事をしようという検討をした形跡がないこと等の事情が認められる。
(イ) これらの事情を考慮すると、原告が事故から症状固定日である平成22年11月末までという短い期間において、G福祉会での運転手の仕事以外の勤務をしていたという具体的蓋然性を認めることはできず、少なくとも休業期間中については、原告の基礎収入はG福祉会における収入、すなわち事故前3ヶ月における支給総額28万5,110円に所得税1,090円を足した28万6,200円を3ヶ月90日で割った3,180円を1日あたり(休日を含め)の基礎収入とすべきである。
 イ 労働能力喪失期間における基礎収入について
(ア) 労働能力喪失期間は休業期間よりも長期間であり、かつ不確実な将来予測であることを踏まえ、その基礎収入の算定に際しては、これまでの勤務歴や収入推移等を総合考慮し、将来的な増収の可能性について、ある程度柔軟に考慮すべきである。
(イ) このような観点から上記事実を検討すると、①原告は前職において月収40万円を得ていたものの、その期間は2年間に過ぎなかったこと、②原告はそれ以前にはコンビニや製麺会社で勤務していたものの、その際の収入は月収で20万円ないし25万円程度にとどまっていたこと、③原告は前職以外で月収40万円に達する収入を得ていたことはなく、製麺会社より前の勤務においても、勤務先の社長から子育て等について援助を受ける経済状態であったこと等の事情が認められる。
(ウ) これらの事情に照らすと、原告が平均賃金相当の収入を得ることができた蓋然性を認めることはできないが、さりとて原告の収入が今後長期間にわたって日額3,180円相当にとどまっていたとすることも相当ではなく、原告は将来にわたって、概ね月収25万円程度、年収にして300万円程度の職を得ることができた蓋然性を認めることができる。そうすると、逸失利益における基礎収入については、年額300万円とするのが相当である。
(4) 休業損害-休業期間と休業の相当性、減収との関係
 ア 平成22年1月20日まで
(ア) 原告は、事故日から平成22年1月20日までの間、G福祉会の仕事を休んでおり、その間休業損害が発生していたことが認められる。
(イ) そして、①当該期間中に原告は1ヶ月入院しており、その後も通院を続けていた上、その後症状固定までなお10ヶ月以上を要していること、②原告の職種が運転手であり膝の症状の影響は小さくなかったと思われること、③原告がG福祉会以外で勤務する蓋然性が認められない状況であったこと、④平均賃金で基礎収入を認定しているのであればともかく、本件では認定できる基礎収入が日額3,180円と低額であり、全額について休業損害として認定しても損害規模としての不均衡があるとは考え難いこと等を総合すると、当該期間の休業損害について割合的な認定をすることは本件に関しては相当ではなく、当該期間の休業全体について、100%の休業損害を認めることが相当である。
 イ 平成22年1月21日から症状固定まで
(ア) この時期には原告はG福祉会の仕事に復帰しており、かつその後症状固定までの間、原告は事故前とさほど変わらない給料を得ていたものと認められる。そうすると、当該期間について原告に金銭的な減収が直接発生していたとはいえない。
(イ) しかしながら、本来は休業等により減収が発生してもおかしくない状況において、本人や同僚の特段の努力によって減収を回避した場合には、一定の割合で休業損害の発生を認めるのが公平に資するものであるところ、原告は福祉施設の送迎運転手であり、その運転や車内管理を慎重に行う必要があったが、職務復帰後、特に車内管理について相当な問題が生じ、本人の努力や同乗していた同僚の努力や配慮によって弊害が相当程度カバーされていた状況が認められる。そうすると、原告については一定の範囲で休業損害に準ずる損害の発生を認めるべきであり、その割合は諸般の事情に照らして30%を相当とする。
(ウ) したがって、上記のとおり認定した基礎収入の30%に期間を乗じた分について、本件事故によって損害が生じていたものと認める。
(5) 労働能力喪失
 ア 症状固定時期
(ア) E病院の後遺障害診断書によれば、症状固定日は平成22年11月29日とされており、上記治療経過に照らしても、事故から同日までの間に、医学的に不相当、ないしは無価値な治療が行われて治療期間が遷延していたような事情があるとはいえない。被告は平成22年4月での症状固定を主張するが、同日頃に特段症状固定をうかがわせるような特別な出来事があったわけでもないし、また上記治療経過によれば、平成22年9月以降に様々な検査が行われている状況もあり、これらの検査等が不必要であるとは到底いえず、平成22年4月以降の治療行為を不相当とすべき理由はない。
(イ) したがって、症状固定時期は平成22年11月29日であると認める。
 イ 労働能力喪失率、喪失期間
(ア) 上記によれば、①原告の左膝に直接生じた傷害内容は内側側副靱帯損傷であるところ、これ自体は軽微なものではないが、少なくとも症状固定時において、靱帯損傷自体が残存している形跡はなく、またMRIでも靱帯自体に異常信号が出ているわけではないこと、②原告の左膝周辺の骨に変形や異常癒合、骨棘等の異常が生じているわけでもないこと、③原告の左膝において、膝蓋大腿関節や大腿脛骨関節腔に液体貯留、膝蓋上関節滑膜に不整と肥厚があり、軟骨の一部に信号変化が見られるものの、これらの症状は事故直後から必ずしも見られたものではなく、また靱帯損傷による直接的な影響といえるかどうかも難しいところであり、事故による外傷との明確な結びつき、またこれらの検査結果と原告の現在の症状との結びつきについて、医学的に一定の説明は可能であると思われるにせよ、それらの関係について疑いの余地なく証明されているとまではいえないこと、等の事情が認められる。
(イ) そうすると、原告の症状が器質的な原因に基づくものであるということに関する医学的な証明はなされておらず、原告の症状については器質的な可動域制限ではなく、神経症状及びその付随としての可動域制限として捉えざるを得ない。そして、上記のような状況に照らすと、原告の後遺障害について今後全面的に永続不変であるということが証明されているともいえない。
(ウ) 以上によれば、原告の症状が医学的な証明を伴う頑固な神経症状であるということはできず、その内容は医学的に説明可能な神経症状という以上のものであるとすることはできない。そうすると、原告の労働能力喪失率については5%と認定すべきであり、また口頭弁論終結時において原告に相当程度の症状が残っていることを考慮しても、原告の労働能力喪失の総量は、最大でも、喪失率5%に、期間5年を乗じた範囲であると認められる。
(6) 銭湯代・家屋改造費の相当性
 ア 上記によれば、原告が入浴について一定の困難を生じていたということは認められる。
 イ しかし、原告が事故から約5ヶ月後に運転手としての仕事を再開していることや、その他の診療経過等に照らすと、原告の銭湯代が事故によって避けがたい損害として生じたと認めることは困難であるし、また原告が今後自宅に住み続けるために家屋改造が必要であると認めることはできない。
(7) 慰謝料の金額
 ア 入通院慰謝料については、原告の通院経過や症状経過、その症状内容が神経症状であること等を考慮すると、一般的には原告主張の金額よりも相当程度低い水準で考えることになる。また、後遺障害慰謝料についてはその後遺障害が14級に該当するものであることが基本となる。
 イ しかし、上記のとおり原告の症状が医学的な証明を伴う器質的なものであるとは認められないものの、軟部組織の一部について一定の変化があること、症状内容が神経症状としてはある程度強度のものに属すること、原告の実際の生活上相当な不便が生じていること、派生症状として腰痛を伴っていることも原告のおかれた生活状況を物語っていることなど、様々な事情があり、これらは十分に考慮すべきである。これらの事情を考慮すると、本件においては、これまで認定してきた各種損害項目によって慰謝されない、強度の精神的苦痛が原告に生じているといえ、その点一般的な基準の範囲に収まらない特段の事情があるものとして、慰謝料については基本となる金額に相当程度の増額をすべきである。
 ウ 以上のことを考慮し、原告の入通院慰謝料については190万円、後遺障害慰謝料については150万円を相当とする。
 4 以上を前提に、原告の損害について算定する。
(1) 治療費 302万0,422円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨に照らし相当と認める。
(2) 入院雑費 5万1,000円
 入院日数に照らし相当と認める。
(3) 通院交通費 2万8,000円
 通院経過、通院先等その他弁論の全趣旨に照らし相当と認める。
(4) 休業損害 85万1,922円
  ア 平成22年1月20日まで
 (ア) 基礎収入 3,180円
 (イ) 休業日数 174日
 (ウ) 休業損害額 55万3,320円
  イ 平成22年1月21日以降
 (ア) 基礎収入 3,180円
 (イ) 休業日数 313日
 (ウ) 相当休業割合 30%
 (エ) 休業損害額 29万8,602円
 なお、被告が休業損害の計算方法として主張する、過去3ヶ月分の実収入を過去3ヶ月分の実稼働日数で割り、それに期間中の実休業日数を乗じるという方法も、明らかに不合理というわけではない。しかし、本件においては1月21日以降についても相当休業割合の範囲で休業損害を認めるものであり、かつ同日以降の実稼働日数が必ずしも明確でないことを考慮すると、休業損害全体についてある程度統一的にとらえるという観点から、稼働再開の前後を通じて、平均日給及び休業日数のいずれの計算についても、休日も含めた全期間を基準として計算することが、こと本件については相当なものと認める。
(5) 入通院慰謝料 190万円
(6) 逸失利益 64万9,410円
 ア 基礎収入 300万円
 イ 労働能力喪失率 5%
 ウ ライプニッツ係数 4.3294
(7) 後遺障害慰謝料 150万円
(8) 物損 1万6,685円
 ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、各購入価格は以下のとおりであると認める。
(ア) ヘルメット 5,500円
(イ) シャツ 3,800円
(ウ) ズボン 8,500円
(エ) 靴 1,980円
 イ もっとも、これらの事故当時の中古取引価格を算定することは困難であり、民事訴訟法248条の法意に照らし、適宜減価償却等の方法によって事故当時の時価額を算定すべきところ、これらは事故から概ね半年前に購入したものであるというこ
とであり(原告本人)、ヘルメットについて償却期間5年、シャツ・ズボンについて同3年、靴について同2年とし、定額法による減価償却を行うと、ヘルメットについては購入額の90%、シャツ・ズボンについては購入額の6分の5、靴については購入額の75%を事故当時の時価とすることが相当である。
 ウ 以上より、物損については以下のとおりとなる。
(ア) ヘルメット 4,950円
(イ) シャツ 3,167円
(ウ) ズボン 7,083円
(エ) 靴 1,485円
(9) 過失相殺15% -120万2,616円
(10) 既払い -458万1,836円
 なお、この既払金は物損を填補するものではない。
(11) 合計 223万2,987円
(12) 弁護士費用
 22万円を相当とする。
 5 以上より、主文のとおり判決する。

   大阪地方裁判所
       裁判官 長島銀哉

運営者情報

弁護士法人ウィズ代表弁護士
岡崎 秀也

経歴

昭和35年 12月16日生まれ
昭和54年3月 埼玉県立川越高校卒業
昭和60年3月 中央大学法学部卒業
平成2年11月 司法研修所入所 司法研修所期
平成3年4月 司法研修所入所(45期)
平成5年4月 弁護士登録
平成6年4月 卓照法律事務所入所(後に卓照綜合法律事務所に改称)
平成23年2月 弁護士法人ウィズ設立
現在 弁護士法人ウィズ 代表弁護士

所属・職歴

第一東京都弁護士会所属(登録番号23120)

平成6年4月 東京三弁護士会交通事故処理委員会
日弁連交通事故相談センター東京支部委員(現在も同じ)
平成11年5月 同支部嘱託
平成13年5月 同支部副委員長
算定基準部会長を兼務
(「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」
(いわゆる「赤い本」)の編集責任者)
平成18年12月 日本司法支援センター(法テラス)アドバイザリースタッフ
平成22年4月 同支部副委員長
平成23年4月 同委員会委員長
その他
  • 日本賠償科学会
  • 日本交通法学会会員
  • 日弁連交通事故相談センター本部高次脳機能障害相談員
  • 出版委員
  • 第一東京弁護士会医療相談員

ページの先頭へ戻る