事故直後に意識はあったが健忘症状、法廷でも主語と動詞のみの供述等からも28歳男子に5級高次脳機能障害を認めた事案
【判決の要旨】
四輪自動車が、交差点の手前で、右折専用車線から直進車線(対面の信号機の表示は青色)に進路変更しようとして、直進車線を走行していた自動二輪車と衝突した事案で、右折専用車線からの進路変更を考慮して自動二輪車の過失を10%、四輪自動車の過失を90%とした。
東京地裁 平成24年12月18日判決(控訴中)
事件番号 平成23年(ワ)第4985号 損害賠償請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1893号
(平成25年5月9日掲載)
判 決
原告 甲野一郎
同訴訟代理人弁護士 古田兼裕
同 市川謙道
同 城島 聡
同 天野秀孝
同 石橋靖己
同 松田三郎
同訴訟復代理人弁護士 井出法伴
同 知念よしの
同 戸松良太
被告 乙山次郎
同訴訟代理人弁護士 山内一矢
同 野崎康徳
同 小林亮介
【主 文】
1 被告は、原告に対し、1億999万8,038円並びにうち9,317万1,627円に対する平成20年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち974万9,249円に対する平成18年11月18日から支払積みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求の趣旨
被告は、原告に対し、1億3,349万3,669円及びうち1億2,337万8,880円に対する平成20年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
1 本件は、原告が、自己の運転する普通自動二輪車(以下「原告車」という。)と、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間で発生した後記2(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)により損害を被ったとして、被告に対し、民法709条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき、損害賠償金1億2,337万8,880円並びにこれに対する平成18年11月18日(本件事故発生の日)から平成20年11月17日(自賠法16条に基づく損害賠償額の支払を受けた日)までに発生した民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金の残額1,011万4,789円及び上記損害賠償金に対する同月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実等
次の事実等は、当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 本件事故の発生
ア 発生日時 平成18年11月18日午前8時10分ころ
イ 発生場所 東京都西東京市<地番略>先の片側4車線の道路(a街道。以下「本件道路」という。)
ウ 被 告 車 被告が運転する被告所有の普通乗用自動車
エ 原 告 車 原告が運転する原告所有の普通自動二輪車
オ 事故態様 本件道路を走行していた被告車が、交差点手前の右折専用車線である第4車線(以下、車線は、本件道路の原告車と被告車が走行していた方向の車線を指すものとする。)に誤って進入したため、同車線から直進車線である第3車線に進路を変更しようとしたところ、第3車線を直進してきた原告車と衝突し、原告車が転倒した。
(2) 原告の受傷内容
原告は、本件事故により、頭部外傷、頸椎捻挫、全身打撲、頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の各傷害(以下「本件傷害」という。)を負った。
(3) 原告の入通院経過
ア 原告は、平成18年11月18日から同年12月2日までの15日間、本件傷害の治療のため、特別医療法人B病院(以下「B病院」という。)に入院した。
イ 原告は、B病院を退院した後、次のとおり、同病院を含む複数の病院に通院し、診察等を受け、平成20年2月22日にB病院において症状固定の診断を受けた。
(ア) B病院
a 期間 平成18年12月5日から平成20年2月22日までの間(実通院日数18日)
b 傷病名 頭部外傷後高次脳機能障害、脳挫傷、頭蓋骨骨折
(イ) 医療法人C病院(以下「C病院」という。)
a 期間 平成20年1月24日から同年2月19日までの間(実通院日数4日)
b 傷病名 頭部外傷後高次脳機能障害
(ウ) D病院(眼科)
a 期間 平成19年2月6日から平成20年2月20日までの間(実通院日数9日)
b 傷病名 網膜震盪症、硝子体混濁
(エ) Eクリニック
a 期間 平成18年12月11日
b 傷病名 脳挫傷後
(オ) F整形外科
a 期間 平成19年4月2日から同年6月30日まで(実通院日数30日)
b 傷病名 頸椎捻挫、腰椎捻挫、右足関節捻挫後
(カ) G接骨院
a 期間 平成18年12月11日からら平成19年3月26日まで(実通院日数84日)
b 傷病名 頸部捻挫、腰部捻挫、右足関節捻挫
(4) 事前認定及び損害賠償額の支払
原告は、被告との間で自動車損害賠償責任保険契約を締結している保険会社に対し、自賠法16条に基づき、損害賠償額の支払を請求した。
損害保険料率算出機構は、上記請求手続において、平成20年11月14日付けで、要旨次のとおりの理由に基づいて、原告には自動車損害賠償保障法施行令2条別表(以下、同別表を「後遺障害等級表」という。)第二の第12級13号に該当する後遺障害が存するとの判断(以下「本件事前認定」という。)を示し、同月17日、原告に対して224万円(以下「本件自賠責てん補金」という。)を支払った。
ア 記憶障害、集中力・注意力低下、遂行能力低下、ふらつき、めまい等の精神・神経症状については、B病院の後遺障害診断書に「頭部外傷後高次脳機能障害」等の傷病名が認められ、神経心理学的検査における検査所見も認められるが、その所見が事故発生から1年以上が経過した後に確認されているにとどまること等からすれば、本件事故との相当因果関係は判然としない。
ただし、ふらつきとめまいについては、受傷当初から症状固定時に至るまで一貫性がうかがわれ、頭部画像上、脳挫傷痕等の残存が認められること等も踏まえると、他覚的に神経系統の障害が証明されていると捉えられるので、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級表第二の第12級13号に該当すると判断する。
イ 味がわからないとの症状、視野狭窄、視力障害、飛蚊症・霧視等の症状については、いずれも自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)における後遺障害として評価することは困難である。
(5) 事前認定に対する異議の申立て及びその結果
被告との間で自動車保険契約を締結している保険会社(以下「任意保険会社」という。)は、原告が本件訴えを提起した後、原告の要請を受けて、本件事前認定に対する異議を申し立てた(以下「本件異議申立て」という。)。
損害保険料率算出機構は、平成24年1月16日付けで、要旨次のとおりの理由に基づき、原告には後遺障害等級表第二の第12級13号に該当する後遺障害が存するとの判断を維持した。
ア 記憶障害、集中力・注意力低下、遂行能力低下等の症状について
(ア) 新たに提出された頭部のCT・MRI画像等を含め、これまでに提出された頭部の画像からは、左の前頭葉及び側頭葉における脳挫傷痕の残存やこれに限局した脳萎縮の所見は認められるものの、脳室の拡大や脳全体に及ぶ明らかな萎縮所見は認められず、脳挫傷痕の範囲、程度等からしても、当該所見をもって重度の認知・情緒・行動障害の残存を裏付けるものと捉えることは困難である。本件事故当初における意識障害の程度等もあわせて勘案すると、本件事故によって重度の高次脳機能障害が生じたことを裏付ける他覚的な医学的所見は乏しい。
(イ) B病院がC病院宛てに発行した診療情報提供書にある集中力低下等の記載から、原告には本件事故の約2週間後にB病院を退院した後に高次脳機能障害を示唆するような症状があったことがうかがわれるが、本件事故の頭部受傷に伴う他覚的な医学的所見と、残存しているとされる障害が明らかに整合しているものとは捉え難い状況からすれば、上記症状を本件事故による高次脳機能障害に伴うものであると評価することは困難である。
イ その他の症状について
(ア) ふらつき、めまいの症状は、後遺障害等級表第二の第12級13号に該当すると判断する。
(イ) 味がわからないとの症状、視野狭窄、視力障害、飛蚊症・霧視等については、自賠責保険における後遺障害として評価することは困難である。
(6) 保険会社による損害のてん補
任意保険会社は、被告が本件事故による原告の人的損害をてん補するため、原告に対し、被告との間の自動車保険契約に基づく保険金として746万9,874円(以下「本件任意保険金」という。)を支払った。
3 争点
(1) 本件事故の態様、被告の責任原因及び過失相殺
(2) 本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無又は程度
(3) 原告の損害
4 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(本件事故の態様、被告の責任原因及び過失相殺)について
(原告)
ア 本件事故の態様
(ア) 被告車は、原告車が被告車とほぼ並進する位置まで接近していたにもかかわらず、進路変更を開始し、本件事故を発生させた。
(イ) 被告が事前に左折合図や安全確認をしたとの点は、否認する。実況見分の際の被告の指示説明を記載した実況見分調書に、被告の主張を裏付ける記述はない。
イ 責任原因
被告は、本件事故当時、被告車を保有していたのであるから、被告車の運行供用者として、自賠法3条に基づき、原告の人的損害を賠償する義務を負う。
また、被告は、進路変更をする際に進路変更先の第3車線の安全確認を怠った過失により本件事故を発生させたのであるから、民法709条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する義務を負う。
ウ 過失相殺について
本件事故の態様は前記アのとおりであり、原告が本件事故を回避するのは不可能であった。したがって、原告に過失相殺の原因となる過失はない。
(被告)
ア 本件事故の態様
(ア) 被告は、本件事故発生場所の先の交差点を直進するつもりであったところ、誤って右折専用車線である第4車線に進入してしまい、第4車線に停止していたバスの後ろに被告車をいったん停止させた。そして、被告は、あらかじめ左折合図をし、直進車線である第3車線を2、3台の車両が通過するのを待ってから、ミラーで後方の安全を確認した上で、2~3㌔㍍毎時の速度で被告車を第3車線に進入させた。
(イ) 原告車が被告車とほぼ並進する位置まで接近していたとの点は、否認する。原告車は、被告車が進路変更を開始したときは被告車の後方に位置していた。原告車は、被告車の後方から被告車を大幅に上回る速度で進行してきたため、被告車と
衝突した。
イ 責任原因
本件事故は、原告の前方不注視の過失により発生したものである。被告に過失はない。
ウ 過失相殺について
本件事故の態様は前記アのとおりであり、原告にも前方不注視の過失がある。被告に責任原因があるとしても、原告の損害に対しては相当程度の過失相殺をすべきである。
(2) 争点(2)(本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無又は程度)について
(原告)
ア 本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無
脳外傷による高次脳機能障害の有無は、①受傷直後の意識障害の有無ないし程度、②画像所見、③診察した医師による具体的な所見、④家族の具体的な報告及び⑤神経心理学的検査の結果等から判断すべきところ、これらの点に関する以下の事情によれば、原告に平成20年2月22日を症状固定日として高次脳機能障害が残存したことは明らかである。
(ア) 受傷直後に意識障害がみられたこと
原告には、本件事故で受傷した平成18年11月18日から同月20日までの間、軽度の意識障害がみられた。
なお、自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会が平成23年に作成した「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」と題す
る報告書(以下「平成23年報告書」という。)では、健忘又は軽度の意識障害が少なくとも1週間以上続く症例において高次脳機能障害の調査を慎重に行うべきことが述べられているが、事故直後の意識障害が上記の程度に至っていないからといって、高次脳機能障害の残存を否定することはできないのであり、意識障害が上記の程度に至らない症例において高次脳機能障害の残存が確認された例は相当数ある。原告の軽度の意識障害が3日間にとどまったことは、原告に高次脳機能障害が残存したことを否定する事情にはならず、むしろ、高次脳機能障害の残存を疑うべき事情として積極的に評価すべきである。
(イ) 画像所見があること
a 平成18年11月18日に行われた頭部X線検査では、原告の右側頭部に、本件事故によるものと考えられる線状骨折が認められた。
B病院においては、平成18年11月18日、同月20日、平成21年7月14日に、それぞれ原告の頭部のCT検査が行われている。その検査画像を比較すると、平成21年7月14日の検査画像において、軽度の脳室の拡大が確認できる。
また、同病院においては、平成18年11月27日及び平成19年4月20日に原告の頭部のMRI検査が行われたが、平成18年11月27日の検査画像では、左前頭葉底部及び左側頭葉先端部の脳挫傷を確認することができ、平成19年4月20日の検査画像では、軽度の脳室の拡大を確認することができる。C病院において平成20年1月31日に行われたMRI検査の画像においても、脳萎縮が認められる。
以上のとおり、本件事故後の原告の頭部については、高次脳機能障害の残存を裏付ける脳室拡大ないし脳萎縮の画像所見がみられる。
b また、脳における血流やエネルギー代謝などの機能の変化を検査する方法として、PETやSPECTによる脳機能画像診断があるが、原告に対して行われたSPECTによる画像診断においては、原告の左前頭葉底部、左側頭葉先端部、両側前部帯状回、両側小脳半球などで脳血流の低下がみられ、PETによる画像診断においては、左前頭葉底部、左側頭葉先端部、右視床、両側小脳半球で局所糖代謝低下が認められた。
c これらの画像所見は、原告の脳実質に、頭部に加えられた高エネルギーの衝撃によって、局在性脳損傷だけではなく、びまん性脳損傷又はびまん性軸索損傷の広範囲にわたる脳外傷が生じたことを示している。
(ウ) 診察した医師による具体的な所見があること
原告を診察したB病院脳外科の丙川三郎医師(以下「丙川医師」という。)、症状固定後に原告を診察したJリハビリテーションセンター病院精神科の丁山春子医師(以下「丁山医師」という。)及びH大学医学部脳神経外科の己川四郎教授(以下「己川教授」という。)は、いずれも、原告に高次脳機能障害があるとの診断をしている。
(エ) 家族の具体的な報告があること
原告の妻甲野夏子(以下「夏子」という。)は、原告の日常生活の状況について、単語のみの発語が多く会話が成り立たない、自身の行動や他人の指示をすぐに忘れるなどの認知障害を疑わせる事実や、易怒性、興味や関心の欠如、協調性の欠如等の人格変化を示す事実を報告している。
(オ) 神経心理学的検査において重篤な認知障害等を示唆する結果が示されたこと
C病院で行われた長谷川式簡易知能評価スケール、ウェクスラー成人知能検査(以下「WAIS-Ⅲ」という。)などの神経心理学的検査の結果は、原告に認知障害及び記憶障害があることを示すものであった。
(カ) 被告の主張について
被告は、本件事故直後の急性期において、原告に高次脳機能障害を疑わせる所見がみられないことを主張する。
しかし、脳外傷による高次脳機能障害が診察等の場面で看過されやすいことは専門家が繰り返し指摘しており、平成23年報告書も、急性期において、外傷が合併していることや、症状は一時的なものであろうとの周囲の思い込み、被害者自身の自己洞察力の低下などによって高次脳機能障害が見過ごされやすいことを指摘している。原告についても、本人に病態の認識が乏しかったこと等から、本件事故直後の急性期において高次脳機能障害の症状が看過されていた可能性は高い。
なお、丙川医師がC病院に宛てて作成した紹介状等には、原告について平成18年12月2日の退院後まもなく集中力の低下がみられたこと等を示す記述がある。これらの記述は、原告に、本件事故による受傷の直後から、高次脳機能障害による認知障害等の症状が現れていたことを示している。
イ 後遺障害の程度
丙川医師は、原告の今後の日常生活において、家族の声かけや手助けが必要であるとの見解を示している。
丁山医師は、原告の意思疎通能力及び持続力・持久力について困難が著しいこと、原告の問題解決能力及び社会行動能力は失われていることを指摘し、原告については、日常生活において常時援助を必要とし、単身での生活や就労は不可能であるとの見解を示している。
また、己川教授は、原告の意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力のいずれについても高度の障害が認められることを指摘し、原告の後遺障害は後遺障害等級表第一の第2級1号に該当するとの見解を示している。
これらの医学的見解に加えて、家族が報告した原告の状況(前記ア(エ))も併せると、原告は、前記アの後遺障害のため、通常の労務に服することはできず、家族からの声かけや看視がなければ生活することができないといえるので、前記アの後遺障害の程度は後遺障害等級表第二の第5級(神経系統の機能又は精神に著しい傷害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に相当するというべきである。
(被告)
ア 本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無
原告には、本件事故を原因とする高次脳機能障害は残存していない。
一般的に、高次脳機能障害には、局所的脳損傷を原因とするものと、びまん性軸索損傷を原因とするものとがある。
しかし、原告が指摘する種々の検査結果の画像で確認できる脳挫傷痕は、いずれも微小であり、神経学的脱落症状を呈しにくい部位にみられる。したがって、原告に局所的脳損傷を原因とする高次脳機能障害が残存しているとみることはできない。
また、びまん性軸索損傷を原因とする高次脳機能障害が残存する場合は、急性期に画像上の異常所見がみられない場合であっても、通常、広範囲にわたって脳の神経線維が剪断されることにより、急性期においては数日以上にわたる重度の意識障害がみられ、その後においては広範囲にわたる脳萎縮がみられる。しかし、原告については、上記のような急性期における重度の意識障害やその後の広範囲にわたる脳萎縮はみられない。原告は、急性期における原告の症状が看過されていると主張するが、入院中に、医療関係者が脳損傷に起因する異常所見を看過するはずはない。原告が指摘するB病院作成の紹介状等の記載も、退院後における集中力の低下を示唆するものであって、本件事故との関連性を示すものではなく、集中力の低下をいう記述の内容自体も、高次脳機能障害に起因する重度の障害を示唆する内容とはいえない。以上によれば、原告にびまん性軸索損傷を原因とする高次脳機能障害が残存したと認める根拠もない。
よって、原告に本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存したことを認めるべき証拠はない。
なお、原告には、後記イで述べる後遺障害が残存したものと考えられるが、一般的に脳損傷の臨床経過を見ると受傷後12ヶ月で症状固定となるのが通常であることから、原告についても、平成19年11月ころに症状固定に至ったものと考えられる。
イ 後遺障害の程度
原告には、本件事前認定及び本件異議申立てにおいて示されたとおり、後遺障害等級表第二の第12級13号に該当するめまい、ふらつきの後遺障害が残存するにとどまる。
自賠責保険の後遺障害等級認定において高次脳機能障害が主張される事案は、高度の専門的知識が必要となることから、外部の専門家が参加する自賠責保険審査会が審査をすることとなっており、異議の申立てがあった場合は、脳神経外科の専門家や弁護士等によって構成される専門部会が、基礎資料を十分に精査した上で、高度の専門的知見に基づいた判断をしている。本件事前認定や本件異議申立てにおいても、上記と同様に慎重かつ高度に専門的な判断を経た上で、原告の後遺障害は後遺障害等級表第二の第12級13号に該当するとの判断が示されているところであり、その判断を否定する理由はない。
また、原告には、急性期における数日以上の昏睡状態や広範囲にわたる脳損傷又は脳萎縮はみられず、B病院を退院する際は、明らかな神経学的異常所見を指摘されないまま独歩で退院していることが認められるが、これらの事実は、いずれも重度の高次脳機能障害が残存する例ではみられないものである。具体的な事実に即してみても、原告に重度の後遺障害が残存していることを疑うべき理由はない。B病院作成の紹介状の記載が高次脳機能障害の残存を疑う根拠にならないことは、前記アで述べたとおりである。
(3) 争点(3)(原告の損害)について
(原告)
原告は、本件事故により、以下のア~サの合計1億2,337万8,880円の損害を被った。
本件自賠責てん補金は、後記シのとおり、その全額が確定遅延損害金に充当されるから、原告は、被告に対し、上記金額の賠償を求めることができる。なお、本件自賠責てん補金をてん補した後の確定遅延損害金の残額は、後記シのとおり、1,011
万4,789円である。
ア 治療費関係費用 229万1,429円
次の(ア)と(イ)の合計額である。
(ア) 任意保険会社からてん補を受けた分 221万4,419円
原告は、本件傷害の治療のため、少なくとも、治療費194万6,459円、通院のための交通費26万5,960円及びその他の費用2,000円を合計した標記金額の損害を被った。
(イ) 任意保険会社からてん補を受けていない分 7万7,010円
原告は、前記(ア)の他に、平成19年5月29日のB病院における診察料及び投薬料1,470円、平成20年2月1日のC病院におけるファミリーホーム利用料2,500円、同月19日の同病院における診断書料及び切手代6,380円、同病院への3回の通院に要した交通費6万6,660円を合計した標記金額の損害を被った。これらの損害も、本件事故と相当因果関係を有する損害に当たる。
イ 入院雑費 2万2,500円
B病院における15日間の入院(前記2(3)ア)に要した雑費として、1日当たり1,500円の15日分に相当する標記金額を請求する。
ウ 症状固定前の付添看護料 134万1,000円
原告に残存した後遺障害の内容及び程度は前記(2)で主張したとおりであり、原告は、本件事故が発生した平成18年11月18日から症状固定日である平成20年2月22日までの462日間のうち、B病院に入院していた15日間を除く447日間において、家族による看視、声かけ等の介護を必要とした。
上記介護に要した費用は本件事故と相当因果関係を有するものであり、その金額は1日当たり3,000円を下回らないから、同金額の447日分に相当する標記金額を請求する。
エ 休業損害 737万5,368円
原告は、本件事故前の3ヶ月間に143万6,810円の収入を得ていたところ、本件事故によって、本件事故の発生から症状固定に至るまでの462日間、上記と同様の収入を得ることができなくなった。これによる損害は、143万6,810円を90日で除して得られる日額1万5,964円に462日を乗じて得られる標記金額となる。
オ 後遺障害逸失利益 7,266万2,086円
(ア) 基礎収入
原告は、本件事故当時、満28歳であり、平成18年には456万6,810円の収入を得ていたことから、原告の後遺障害逸失利益算定の基礎収入は、賃金センサス平成20年第1巻・第1表男子学歴計平均賃金である年額550万3,900円とすべきである。
(イ) 労働能力喪失率及び労働能力喪失期間
原告は、前記(2)で主張した後遺障害により、症状固定日(当時30歳)から67歳に至るまでの37年間にわたり、79%の労働能力を喪失した。
(ウ) 逸失利益の額
以上によれば、原告の後遺障害による逸失利益は、基礎収入550万3,900円(上記(ア))に0.79(同(イ))及び37年間の利率年5%の複利計算に対応するライプニッツ係数16.7113(前同)を乗じて得られる標記金額となる。
カ 将来介護料 1,921万2,760円
原告は、前記(2)の後遺障害があるため、症状固定日から30歳男子の平均余命である43年間にわたり、家族による看視、声かけを中心とする介護を必要とする。
上記介護に要する費用も本件事故と相当因果関係を有するものであるところ、その金額は1日当たり3,000円を下回らないから、同金額に1年の日数365日及び43年間の利率年5%の複利計算に対応するライプニッツ係数17.5459を乗じて得られる標記金額を請求する。
キ 慰謝料 1,650万円
(ア) 傷害慰謝料 250万円
本件傷害の内容及びこれに対する治療の経過等にかんがみれば、本件傷害に伴う原告の苦痛に対しては、標記金額をもって慰謝するのが相当である。
(イ) 後遺障害慰謝料 1,400万円
前記(2)で主張した後遺障害の内容及びその程度等にかんがみれば、後遺障害に伴う原告の苦痛に対しては、標記金額をもって慰謝するのが相当である。
ク 物損 44万3,611円
原告は、本件事故で原告車が損傷したことにより、標記金額の損害を被った。
ケ 本件任意保険金のてん補 損害残額
1億1,237万8,880円
上記ア~クの損害は合計1億1,984万8,754円であるところ、本件任意保険金746万9,874円は、上記の損害にてん補される。
てん補後の損害残額は、1億1,237万8,880円である。
コ 弁護士費用 1,100万円
原告は、本件訴えの提起及び訴訟行為を弁護士である原告代理人らに委任したところ、その費用も本件事故と相当因果関係を有する損害に当たる。その金額は、上記ケのてん補後の損害残額1億1,237万8,880円の約1割に相当する標記金額を下
回らない。
サ 上記ケ及びコの損害総額 1億2,337万8,880円
シ 本件自賠責てん補金のてん補
本件自賠責てん補金は、まず上記ケのてん補後の損害残額1億1,237万8,880円に対する遅延損害金に充当すべきである。
本件事故が発生した平成18年11月18日から原告が本件自賠責てん補金を受領した平成20年11月17日までの731日間に生じた上記損害残額に対する確定遅延損害金は1,235万4,789円であり、本件自賠責てん補金224万円は、その
全額が上記確定遅延損害金に充当される。
充当後の確定遅延損害金の残額は、1,011万4,789円である。
(被告)
原告の主張のうち、前記ア(ア)の治療関係費用の損害が生じたこと及び本件任意保険金が原告の損害にてん補されるべきことは認め、その余はいずれも否認ないし争う。
なお、前記(2)で述べたとおり、原告には後遺障害等級表第二の第12級13号に該当する後遺障害が残存すると考えるが、これによる労働能力の制限は、10年間の限度で14%にとどまると考えられるから、原告の逸失利益はその限度で認められるべきである。
第三 争点に対する判断
1 争点(1)(本件事故の態様、被告の責任原因及び過失相殺)について
(1) 本件事故の態様について
ア 認定事実
前記前提となる事実等のほか、証拠(略)によれば、平成18年11月18日午前8時10分ころ、①被告は、本件事故発生場所の先の交差点(前記第二の2(1)オ)を直進するつもりであったところ、誤って右折専用車線である第4車線に進入してしまったため、直進車線である第3車線に車線変更しようと考えたこと、②被告は、第4車線で後方の安全確認をして左ウィンカーを点灯させた後、数キロメートル毎時の速度で第3車線への進路変更を開始したこと、③そのころ、原告車は、被告車の後方の第3車線上を相当程度の速度で進行しており、第3車線の中央付近(以下「本件衝突地点」という。)において、進路変更中の被告車の左側面と衝突したこと、④上記②、③の当時、上記交差点にある原告車の対面信号機は青色灯火の信号を表示していたこと、以上の事実を認めることができる。
イ 事実認定の補足説明
(ア) 衝突の位置及び態様に関する被告の供述について
被告は、上記アの認定と異なり、被告車が第3車線への進路変更を終えて1、2メートル直進したところで、原告車が被告車に衝突した旨供述する。
しかし、本件事故当日に行われた警察官による実況見分の結果によれば、本件衝突地点の路面はタイヤの擦過痕があったこと、本件衝突地点付近の路面から本件道路左脇の歩道上の原告車の停止位置に至るまで約33.2メートルの転倒滑走痕があったことが認められるから、原告車と被告車は本件衝突地点において衝突したものと認められる。
そして、以上のとおり、原告車と被告車が第3車線の中央付近で衝突したことに加えて、被告車が本件事故により左側面を損傷しており、原告車は被告車の左側面に衝突したものと認められることを考慮すると、本件事故が発生した時点で、被告車は第3車線への進路変更を完了していなかったものと認められる。
被告の上記供述部分は、本件事故が発生した直後における事故発生現場付近の客観的な状況や被告車の客観的な損傷状況及びこれらにより推認される事実と整合しないものであり、採用することができない。
(イ) 被告車が第3車線への進入を開始したときにおける原告車の位置
原告は、上記アの認定と異なり、被告車が進路変更を開始した時点で、原告車は被告車とほぼ並進する位置まで接近していたと主張する。
証拠(略)によれば、原告車は、本件衝突地点で被告車と衝突した後、車体を路面に擦りながら左前方に転倒、滑走し、本件衝突地点から約33.2メートル進行した本件道路左脇の歩道上において停止した事実が認められる。この事実によれば、原告車は、本件衝突地点に至るまで、相当程度の速度で進行していたものと推認される。
そして、被告車が第4車線から急発進したことをうかがわせる証拠は見当たらないことも併せると、本件事故は、上記認定のとおり、数キロメートル毎時の速度で第3車線に進入した被告車に、その左後方から相当程度の速度で直進してきた原告車が衝突して発
生したと認めるのが相当である。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 被告の後方の安全確認及び左折合図の有無
被告が進路変更の前に後方の安全確認及び左折合図をしたか否かについては、争いがある。
そこで検討するに、被告は、本件事故の前に後方の安全確認をしたこと及び被告車の左ウィンカーを点灯させたことを一貫して供述するところ、同供述部分の内容は、当裁判所の本人尋問における反対尋問においても揺るがず、左ウィンカーを点灯させたとの点は、本件事故当日に行われた実況見分においても警察官に対して説明していたことが認められるから、信用することができる。
そして、被告の上記供述部分によれば、被告があらかじめ後方の安全確認をしたこと及び左折合図をしたことが認められる。
(2) 被告の責任原因
ア 自賠法3条に基づく損害賠償義務
前記(1)の認定事実によれば、本件事故が被告車の運行により発生したことは明らかであり、後記イのとおり、被告に被告車の運行について過失がなかったとはいえないから、被告車の保有者であり運行供用者である被告は、原告に対し、自賠法3条に基づき、原告の人的損害を賠償する義務を負う。
イ 民法709条に基づく損害賠償義務
前記(1)の認定事実によれば、被告は、被告車を第4車線から第3車線に進入させるに当たり、原告車が進路後方の第3車線を進行していたのであるから、進路変更により原告車の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路変更を控えるべき注意義務を負っていた(道路交通法26条の2第2項)にもかかわらず、これを怠り、漫然と被告車を第3車線に進入させた過失により本件事故を発生させたというべきである。被告が第3車線への進入に先立ち後方の安全確認をしたこと(前記(1)ア②)は、上記の認定、判断を左右しない。
したがって、被告は、原告に対し、民法709条に基づき、本件事故により原告に生じた人的損害及び物的損害を賠償する義務を負う。
(3) 過失相殺
前記(1)の認定事実によれば、原告にも前方注視を怠った過失があると認められるところ、本件事故の態様、特に、被告車が、交差点の手前において右折専用車線から対面信号機が青色灯火の信号を表示していた直進車線へ進路を変更しようとしたことを踏まえて双方の過失の内容を比較すると、本件事故の発生に対する寄与の程度は、原告の過失が10%、被告の過失が90%と評価するのが相当である。
したがって、本件事故により原告に生じた損害については、10%の過失相殺をするのが相当である。
2 争点(2)(本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無又は程度)について
(1) 事実経過
前記前提となる事実等のほか、証拠(略)によれば、以下の事実経過を認めることができる。
ア 本件事故前における原告の生活歴等
原告は、昭和53年1月生の男性で、高校に進学したが1年生のときに退学し、その後は実家を出て独り暮らしをしながら(ただし、本件事故当時は友人と同居していた。)大工として稼働していた。
原告は、本件事故前は、自動二輪車での外出や祭りを好み、交友関係は比較的広く、格闘技のテレビ番組を好んで視聴し、小説を読むこともあった。原告が本件事故前に精神科を受診したことはない。
原告は、平成17年6月ころに夏子(平成元年3月生。当時高校2年生)と交際するようになり、平成18年10月ころに夏子の妊娠が判明した。
イ 本件事故による受傷からB病院を退院するまでの経過
(ア) 意識障害
原告は、本件事故の発生から約26分が経過した平成18年11月18日午前8時36分ころ、B病院に救急搬送された。原告には、意識はあったが、事故の記憶がないなどの健忘の症状がみられ(JCS:Ⅰ-3、GCS:14点)、翌19日においても、意識が完全には清明でない状態(JCS:Ⅰ-1)が継続していた。
原告の意識は、同月20日までには清明となった。
(イ) 入院中における原告の言動
原告は、平成18年11月18日から同年12月2日までの間、B病院に入院した。
その間、原告は、ふらつきながらも歩行することができ、医師や看護師に対し、受傷部位の痛み、吐き気やめまい等を訴え、面会に訪れた夏子に対しては、尿意を伝えるなどしていた。ただし、発語は緩慢で、会話に際して口にする単語は1語程度であった。
原告は、同年11月25日、洗面台でシャンプーを使って洗髪しようとして、看護助手から浴室で洗髪するように促されたり、同月28日には、MRI検査の問診票にある「体内に金属や器具類があるか」との問いに対して、「右肩にボルトがあるけど
いつか消えるって言ってました。7年前。」と記載したりした。
ウ 退院後の原告の状況
(ア) 退院してから婚姻するまでの間の状況
原告は、B病院を退院した後は東京都a区内の実家に戻り、平成19年3月ころまでの間、実家で両親及び妹と同居して生活した。
原告は、その間の平成18年12月5日、同月15日、平成19年1月19日、同年2月23日、同年3月23日の各日にB病院に通院し、同年2月6日、同月22日、同年3月6日の各日にD病院病院に通院した。原告の母甲野秋子(以下「秋子」という。)は、原告の通院に1、2回付き添ったが、それ以外の通院の際は、原告が、秋子ら家族が呼んだタクシーを使って1人で通院していた。
原告は、B病院において、同年1月19日に診察を受けた際、夏子が妊娠したこと及び出産予定日が6月であることを述べ、同年3月23日に診察を受けた際、結婚を機にbに引っ越す旨述べた。
(イ) 婚姻後の状況
a 原告は、平成19年3月27日、夏子と婚姻し、同年4月ころ、夏子が賃借する東京都c市内の現住居に転居し、夏子との同居を開始した。
同年6月7日、原告と夏子との間に第一子が生まれた。
夏子は、第一子の出産を終えるまでは原告の通院に付き添うことができる状態ではなかったため、それまでの間、原告は、夏子が呼んだタクシーを使って1人でB病院とD病院への通院を継続した。その後、出産後約2ヶ月が経過した同年8月ころからは、夏子が原告の通院に付き添い、原告の状態を医師に説明するようになった。B病院の診療録の同月3日欄に「忘れっぽい。集中力がない。」と記載されているのは、原告の通院に付き添った夏子が丙川医師に対して原告の状態を説明したことによるものである。
その後、平成21年11月、原告と夏子との間に第二子が生まれた。
原告は、リハビリテーションのため、平成24年7月から、知人が営む埼玉県d市内の総菜店において皿洗い等を手伝うようになった。原告は、自宅と同店との間を行き来する際、自宅と最寄りの駅との間は、夏子から教えられた経路に従って自転車で
移動し、同駅と同店との間は、上記知人が運転する自動車で移動している。
b 婚姻後における原告の言動等の状況は、おおむね次のとおりである。
(a) 発語が緩慢で、通常の速度の会話に対応することができない。発語や理解の能力は入院中よりも改善されたが、同じやりとりを繰り返さないと意思疎通ができないこともある。
(b) 食事をしたことを忘れる。物をよくなくす。夏子と買い物に行っても買おうとしていたものを思い出せない。健忘のためにメモを利用することができない。
1人で外出して帰宅できなくなったことが何度かあった。乗り換えの手順等が覚えられないため、公共交通機関を1人で利用することはできない。
(c) 些細なことで怒る。記憶を質そうとした夏子との間で口論となることがしばしばあった。
外出先でも不快感や怒りを表出する。
友人が来訪しても、関心を示さなくなった。
格闘技のテレビ番組を見なくなり、小説を読まなくなった。
(d) 復職への意欲を示すが、普段は疲れた様子で横になっていることが多い。
(ウ) 本人尋問における原告の言動
原告は、当裁判所における本人尋問において、原告車で通勤する途中に被告車が割り込んできて本件事故が発生したこと、本件事故の前に右肩にボルトを入れていたが、現在は消えてなくなっていること、従前は大工をしており、仕事は楽しかったこと、記憶力、計算力、大工としての技術に問題はなく、めまいさえなくなれば問題なく復職できると考えていること、近時はリハビリのため知人が営む埼玉県d市内のだんご屋に通い、指示に従って洗い物や炊飯をしていること、その際、自宅から最寄りの駅までは自転車で移動し、最寄りの駅と店との間は知人の運転する車で送迎してもらっていること、だんご屋で働く以外の時間は、主に夏子と2人の子と一緒に自宅から徒歩3分程度のところにある公園に出かけて遊んでおり、1人で外出することはほとんどないこと等を供述した。
原告の発語は緩慢であり、個々の供述は、おおむね1語の主語又は目的語と動詞のみで構成されている。また、原告は、尋問当日の暦年を平成18年と供述し、夏子の年齢は分からないと述べ、妹については、実際には婚姻しているにもかかわらず、婚姻していないと供述した。
エ 画像所見
(ア) 頭部X線検査の画像
平成18年11月18日にB病院で行われた頭部X線検査において、右側頭部に線状骨折が認められた。
(イ) 頭部CT検査の画像
a 平成18年11月18日にB病院で撮影された画像
左側頭葉の先端部に出血を疑わせる部分が認められるが、それ以外に外傷による脳損傷を疑わせる明確な所見は認められなかった。
b 平成20年1月31日にC病院で撮影された画像
左側頭葉先端部に、脳挫傷痕及び脳萎縮が認められた。
c 平成21年7月14日にB病院で撮影された画像
上記aの平成18年11月18日の画像と比較して、軽度の脳室拡大が認められる。
(ウ) 頭部MRI検査の画像
a 平成18年11月27日にB病院で撮影された画像
左前頭葉底部外側及び左側頭葉先端部にそれぞれ2センチメートル大の脳挫傷痕が認められた。
b 平成19年4月20日にB病院で撮影された画像
左側頭葉先端部に脳挫傷痕が認められた。また、上記aの平成18年11月27日の画像と比較して、軽度の脳室拡大が認められた。
(エ) PET、SPECTの画像
平成20年2月1日にC病院で行われたPETにおいては、右視床、両側小脳半球における局所糖代謝低下が認められた。両側小脳半球における糖代謝の低下部位は広範囲にわたっていた。
また、同日、同病院で行われたSPECTにおいては、左前頭葉底部、両側前頭前野内側面、両側小脳半球などで脳血流の低下が認められた。
オ 神経心理学的検査の結果
平成20年1月31日及び同年2月1日、C病院において原告に対する神経心理学的検査が行われた。このうち、長谷川式簡易知能評価の結果は18/30(該当年齢平均30点)、WAIS-Ⅲの結果は全検査IQ:58(該当年齢平均100)、言語性IQ:61、動作性IQ:61であった。
(2) 高次脳機能障害についての医学的知見
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、高次脳機能障害について、次のような医学的知見を認めることができる。
ア 平成23年報告書
損害保険料率算出機構は、脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定について、脳神経外科、精神神経科等の専門医や医療ソーシャルワーカー、弁護士を構成員とする「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」を設置し、同委員会は、平成23年3月4日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」と題する報告書(平成23年報告書)において、高次脳機能障害の認定に関する基本的な考え方を、次のとおり整理している。
(ア) 脳外傷による高次脳機能障害の特徴
a 脳外傷(脳の器質的損傷を意味するもの)による高次脳機能障害は、記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害等の認知障害や、周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できないなどの行動障害、更に、受傷前には見られなかったような自発性低下、衝動性、易怒性等の人格変化を典型的な症状とするものである。
b これらの症状は、主として脳外傷によるびまん性脳損傷を原因として発症するが、局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫など)とのかかわりも否定できない。両者が併存する例もしばしば見られる。
c 症状の経過については、急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過と共に軽減傾向を示す場合が殆どである。
d 上記aの症状が後遺した場合、社会生活への適応能力が低下することが問題である。社会生活適応能力の低下は、就労や就学などの社会参加への制約をもたらすとともに、人間関係や生活管理などの日常生活活動にも制限をもたらす。
e 脳外傷による高次脳機能障害は、種々の理由で見落とされやすい。例えば、急性期の合併外傷のために診察医が高次脳機能障害の存在に気付かなかったり、家族・介護者が患者の意識の回復により他の症状もいずれ回復すると考えていたり、被害者本人が自己洞察力の低下のため症状の存在を否定していたりする場合などがあり得る。
(イ) 症状と障害の的確な把握
脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するに当たっては、意識障害の有無及びその程度・長さの把握と、画像資料上で外傷後ほぼ3ヶ月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の画像所見が重要な指標となる。
a 脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴であり、一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合、外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに対し、二次性脳損傷では、頭蓋内血腫や脳腫脹・脳浮腫が増悪して途中から意識障害が深まるという特徴がある。
b びまん性軸索損傷の場合、受傷直後の画像では正常に見えることもあるが、脳内に点状出血を生じていることが多く、脳室内出血やくも膜下出血を伴いやすい。受傷数日後には、しばしば硬膜下ないしくも膜下に脳脊髄液貯留を生じ、その後代わって脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮が目立ってくる。およそ3ヶ月程度で外傷後脳室拡大は固定し、以後はあまり変化しない。局在性脳損傷が画像で目立つ場合でも、脳室拡大・脳萎縮の有無や程度を把握することが重要である。
c 頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し、次第に軽減しながらその症状が残存したケースで、びまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が認められる。
他方で、頭部への打撲などがあっても、それが脳への損傷を示唆するものではなく、その後通常の生活に戻り、外傷から数ヶ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し、次第に増悪するなどしたケースにおいては、外傷とは無関係の疾病が発症した可能性が高いものといえ、画像検査を行って外傷後の器質的病変が認められなければ、この可能性は更に支持されるものと考えられる。この可能性の中には非器質性精神障害も含まれる。
d 脳の器質的損傷の判断に当たっては、CT、MRIが有用な資料である。CTは、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、脳腫脹、頭蓋内血腫、脳挫傷、気脳症などの病変を診断できるが、びまん性軸索損傷のように、広汎ではあるが微細な脳損傷の場合、CTでは診断のための十分な情報を得難い。CTで所見を得られない患者で、頭蓋内病変が疑われる場合には、受傷後早期にMRI(T2、T2*、FLAIRなど)を撮影することが望まれる。受傷後2、3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば、微細な損傷を鋭敏に捉える可能性がある。受傷から3、4週以上が経過した場合、重傷のびまん性軸索損傷では、脳萎縮が明らかになることがあるが、脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な画像所見が消失することがある。したがって、この時期に初めてMRIを行った場合には、脳損傷が存在したことを診断できないこともある。
拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETについては、それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。
神経心理学的検査は、認知障害を評価するにはある程度適したものといえるが、行動障害及び人格変化を評価するものではない。
(ウ) 後遺障害認定のあり方について
a 従前の審査においては、「脳外傷による高次脳機能障害は見落とされやすい」との前提のもと、審査対象の選定の条件として、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、若しくは、健忘症又は軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例であること、頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3ヶ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認されること等の5条件を示していた。しかし、これをもって高次脳機能障害の判定基準とするものではない。これらの条件は、条件に該当する被害者を調査の対象とするという趣旨で設けたものであったが、現在では、上記の各条件に達しない被害者は高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているおそれがあるのではないかとの指摘があった。
b そこで、後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診療医が高次脳機能障害又は脳の器質的損傷の診断を行っている)場合は、全件で高次脳機能障害に関する調査を実施することとし、後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない場合でも、次の①~⑤の条件、すなわち、①初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例、②初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例、③経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例、④初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で
開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、若しくは、健忘症又は軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例、⑤その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例のいずれかに該当する事案は、高次脳機能障害が見落とされている可能性が高いため、慎重に調査を行うこととした(以下、上記の調査対象とすべき事例の指標を「改訂自賠責調査基準」という。)。
イ 専門家が指摘する高次脳機能障害の特徴
L病院神経放射線科の庚山七郎医師は、脳外傷による高次脳機能障害の特徴としておおむね前記ア(ア)と同様の症状等を指摘した上で、脳外傷による高次脳機能障害は、慢性固定期のみならず、意識障害から回復した直後の急性期にも認められ、時間の経過とともに改善するが、その改善傾向は受傷後半年から1年の間にみられるものであること、障害の程度(重度)は、統計的にみて受傷直後の意識障害の程度・期間や外傷後健忘症の期間と強く関連すること、脳外傷による高次脳機能障害の診断には、次の3つの視点、すなわち、①急性期の意識障害の程度と期間、②家族又は介護者が気付く日常の生活状況、③急性期から慢性期を通じての脳画像所見(特に脳室拡大)が欠かせないこと等を指摘する。
ウ PET、SPECTと高次脳機能障害
M研究センター神経内科の癸山八郎医師は、PETやSPECTは、脳血流やエネルギー代謝、神経伝達物質、受容体など、脳機能の変化を反映する画像診断法と位置づけられており、PETやSPECTによる機能的画像診断によれば、X線、CT、MRIで描出されず、かつ、症状の形成や回復過程に影響を及ぼすと考えられる胸の機能的障害を把握することができるとの見解を示している。
エ 意識障害の程度と後遺障害との関係
意識障害の評価の方法として、目を開けているか、話すことができるか、手足を動かすことができるかを観察して15点満点で評価するグラスゴー昏睡尺度(GCS)があり、急性期のGCSで3~8点は重度損傷、9~12点は中等度損傷、13~15点は軽度損傷と分類される。予後との関連で、多くの研究結果が示されている。
GCS13点以上で意識障害が短時間の場合でも、急性期には約半数で高次脳機能障害がみられ、3ヶ月までにほぼ消失する経過をたどる。入院時のGCSが13点以上の例で、1年後にほぼ正常の生活を送っている例は63%、中程度の障害が残存している例は19%とする調査結果がある。
(3) 原告についての医師の診断等
ア 丙川医師の診断等
(ア) B病院脳外科の丙川医師は、平成18年11月30日、秋子に対し、原告の脳の左側に脳挫傷があること、しゃべりにくさやけいれんが現れる可能性はあるが、その可能性は低いことを説明した。
(イ) 丙川医師は、平成20年1月11日、C病院の戊田五郎医師に宛てて作成した診療情報提供書において、原告に関し、平成18年12月2日に退院となったが、その後、集中力の低下及びふらつきが出やすいなど外傷性頸椎症候群の症状が遷延しているとの認識を示した。
(ウ) 丙川医師は、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書及び「神経系統の障害に関する医学的意見」と題する書面において、原告には頭部外傷後高次脳機能障害による記憶障害、集中力及び注意力の低下、遂行能力の低下等の後遺障害が残存し、すべての日常生活において家族の声かけと手助けを必要としているとの認識を示した。
イ 丁山医師の診断等
Jリハビリテーション病院精神科の丁山医師は、平成23年3月3日から同年5月31日まで原告を診察した上で、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書及び「神経系統の障害に関する医学的意見」と題する書面において、原告には外傷性脳損傷、による重度の失見当識、記憶障害、注意障害、遂行機能障害等の後遺障害が残存し、日常生活には常時援助を必要とし、単身で生活することや就労することは困難であるとの認識を示した。
ウ 己川教授の医学的意見
H大学医学部付属病院脳神経外科の己川教授は、前記(1)ア~オ(ただし、前記(1)ウ(ウ)を除く。)の各事実のほか、平成23年8月31日に原告を問診した結果等を踏まえて、次のような認識を示している。
(ア) 原告には、言語による意思疎通の障害、記憶障害、失見当識、注意・集中力障害、理解力低下、判断力低下、遂行機能障害、社会適応性の障害、感情面や性格の変化、病識の欠如などの症状がみられる。これらの症状は、脳損傷による高次脳機能障害の症状と一致する。
画像所見からは、右側頭-後頭部から左前頭-側頭部に向かう外力が作用したと推定される。そして、この外力が作用したと推定される線上にある右側頭葉、小脳、脳幹、視床、基底核、左前頭-側頭葉が障害された可能性がある。
原告の高次脳機能障害の症状と本件事故後の画像所見とは整合性があり、原告には、本件事故による高次脳機能障害が認められる。
(イ) 原告の後遺障害の程度は、後遺障害等級表第一の第2級に相当するものと判断される。すなわち、原告の意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力にはいずれも高度の障害が認められ、その症状を総合すると、原告は、自宅内での日常生活動作は一応できるが、1人で外出することは困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とする状況にあると認められる。
エ 医学博士壬川六郎(以下「壬川博士」という。)の医学的意見
壬川博士(K会社第一医療部)は、原告の本件事故後の症状等について、次のような見解を示している。
(ア) 原告に対して行われた神経心理学的検査の結果や、家族による日常生活
状況の報告が原告の高次脳機能障害の状態を正しく評価しているとすれば、原告の後遺障害は、随時又は常時介護を必要とする重度のものであり、後遺障害等級表第一の第2級1号又は第1級1号に相当すると考えられる。
しかし、原告が本件訴訟で主張する後遺障害の程度(後遺障害等級表第二の第5級)は、上記の程度に至らないものである。
また、脳損傷によって上記のような重度の後遺障害が残存しているのであれば、頭部画像検査において広範囲にわたる脳損傷や脳萎縮がみられ、急性期には数日以上に及ぶ昏睡状態の持続がみられるはずであるが、原告には、上記のような画像所見や意識障害はみられなかった。
(イ) 重度の後遺障害を残すような脳外傷の症例では、一般的に、急性期の意識障害から回復した後、徐々に麻痺や認知障害が改善し、数ヶ月から1年程度が経過した時点で症状固定に至るという臨床経過をたどる。
しかし、原告の初診時の頭部外傷の程度は軽傷といってよいものであり、看護師による意識レベルの評価は、初回観察時を除き「クリア」とされていた。また、頭痛やめまいの症状も入院中に徐々に改善し、退院の前日にはいずれも症状なしと評価されていた。退院後にこれらの自覚症状が悪化することもないとはいえないが、急性期の症状ほど重篤になることは考えにくい。原告は、高次脳機能障害の症状が見過ごされやすいことを強調するが、医療関係者が、急性期にみられるはずの著明な臨床所見を問題視しないはずはない。
原告にみられた症状の経過は、前述した一般的な経過とはまったく逆で、急性期の症状は乏しく、慢性期になって症状が出現・増悪している。その原因としては、何らかの内因性疾患や心因性反応等を発症したことが考えられる。
(ウ) 原告の症状は、平成19年11月ころに固定したと考えられる。それ以降の症状は、前述したとおり、本来の脳損傷の回復過程とは別の病態によるものと考えられる。
(4) 検討-本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無について
ア 本件における基本的な考え方
原告は、脳外傷による高次脳機能障害の有無を、①受傷直後の意識障害の有無ないし程度、②画像所見、③診察した医師による具体的な所見、④家族の具体的な報告、⑤神経心理学的検査の結果等から判断すべき旨主張するところ、その内容は、平成23年報告書が示す高次脳機能障害の調査対象とすべき症例の指標(前記(2)ア(イ)、(ウ))及び医師が指摘する診断の視点(同(2)イ)とおおむね一致するものであるから、本件においては、上記①~⑤の考慮要素に即して原告に本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存しているか否かを検討することとする。
イ 受傷直後の意識障害の有無ないし程度について
前記(1)で認定したとおり、原告には、受傷当日である平成18年11月18日から遅くとも同月20日までの間、健忘を中心とする軽度の意識障害があったことが認められる(前記(1)イ(ア))。
上記の意識障害の程度は、改訂自賠責調査基準で示された意識障害の水準には達しないものである。
しかし、同基準は、高次脳機能障害の判定基準そのものではなく(前記(2)ア(ウ))、同基準においても、重度の意識障害が6時間以上継続したこと若しくは健忘又は軽度意識障害が1週間以上継続したことは、脳外傷による高次脳機能障害を疑うべき症例の指標の1つにすぎないものと位置づけられている(前同)。また、受傷直後の意識障害が軽度であった事例においても、1年後に中程度の障害が残存した例は19%あるとの調査結果がある(前記(2)エ)。これらの事実を考慮すると、原告にみられた意識障害が重度のものではなく、かつ、1週間以上継続するものでなかったとしても、そのことをもって、原告が本件事故により高次脳機能障害の原因となる脳外傷を負わなかったということはできない。
ウ 画像所見について
前記(1)で認定したとおり、①本件事故発生の日に行われた頭部X線検査において、原告の右側頭部に線状骨折が認められたこと(前記(1)エ(ア))、②同日に行われた頭部CT検査において、左側頭葉の先端部に出血を疑わせる所見が認められ、その後のCT検査及びMRI検査において、原告の頭部の左側に脳挫傷痕が認められていること(同(イ)、(ウ))、③本件事故発生の日から5ヶ月以上が経過した後の検査画像においては、軽度の脳室の拡大及び局所的な脳萎縮が認められること(前記(1)エ(イ)b、c、同(ウ)b)に加えて、④平成20年2月1日に行われたPET及びSPECTの結果、脳の機能低下を示す糖代謝低下や脳血流の低下が広範囲に認められたこと(前記(1)エ(エ))を併せ考慮すると、原告の脳実質は、本件事故により広範囲にわたって損傷を受けたものと推認される。以上の事実は、原告が本件事故によりびまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆するも
のである。
エ 診察した医師による具体的な所見について
(ア) 前記(3)で認定したとおり、丙川医師、丁山医師及び己川教授は、自ら原告を診察した結果等に基づき、原告に脳損傷を原因とする記憶障害、注意障害及び遂行機能障害等が存するとの見解を示している(前記(3)ア~ウ)。
(イ) これに対し、壬川博士は、丙川医師らが上記見解の前提とする家族の日常生活報告は、原告が本件訴訟において主張する後遺障害の内容と整合しないことなどを指摘する(前記(3)エ(ア))。
確かに、丙川医師らが前提とした夏子による原告の生活状況報告において、誇張又は事実に対する客観的評価とは異なる夏子の主観的な評価が含まれている可能性は否定することができない。しかし、上記報告には、原告の発語が緩慢で意思疎通能力が低下していること、原告に記憶障害が生じていること、原告が病識を欠いていることが一貫して述べられているところ、原告についてそのような状況がみられることは、当裁判所の本人尋問における原告の言動(前記(1)ウ(ウ))からみても、首肯することができる。したがって、壬川博士の上記指摘を考慮しても、丙川医師らの見解が誤った事実を前提にしているとまではいえない。
オ 家族の具体的な報告について
夏子及び秋子の供述等によれば、前記(1)ウ(イ)bの限度で、婚姻後における原告の言動等を認めることができる。
これに、本件事故前における原告の生活歴等(前記(1)ア)を併せ考慮すると、原告には、本件事故の後、発語能力ないし意思疎通能力の低下、記憶力及び遂行能力の障害、易怒性及び無関心、病態に対する無自覚等がみられるようになったということができる。これらの変化は、認知障害、行動障害及び人格変化と評価することができるものであり、いずれも前記のとおり認められる高次脳機能障害の特徴(前記(2)ア(ア)、イ)と合致する。
カ 神経心理学的検査の結果について
(ア) 原告に対して行われた神経心理学的検査の結果(前記(1)オ)は、いずれも、本件事故後において、原告の認知能力が標準を下回る程度の水準にあることを示すものである。
(イ) 壬川博士は、原告に対して行われた神経心理学的検査の結果は、原告が本件訴訟において主張する後遺障害の内容と整合しないことを指摘する(前記(3)エ(ア))。
確かに、当裁判所の本人尋問における原告の言動をみる限り、前記(1)オのWAIS-Ⅲの結果には疑問がないではない。しかし、原告の発語能力及び意思疎通能力に問題があることは前記認定のとおりであり、原告の認知能力に障害が生じていることは疑いなく認められるところであるから、上記神経心理学的検査の結果をまったく信用できないものとして捨象することはできない。
キ 原告の症状の経過について
(ア) 前記(1)で認定したとおり、①原告には、B病院に入院していた間、発語が緩慢である、浴室以外の場所で洗髪しようとする、問診票に不可解な記述をするなどの言動がみられたこと(前記(1)イ(イ))、②原告は、退院後においても、婚姻後の転居先について事実と異なることを述べていたこと(前記(1)ウ(ア))、③夏子は、出産後、原告の通院に付き添うことができるようになってすぐに、B病院の丙川医師に対し、病識がないため自己の状態を正確に伝えることができない原告に代わって、原告の記憶力及び集中力の低下を訴えたこと(前記(1)ウ(イ)a)を考慮すると、原告には、本件事故で受傷した当初から、脳損傷による記憶障害等の症状が現れていたと認めるのが相当である。
(イ) 被告の主張について
被告は、本件事故直後の急性期において、原告に高次脳機能障害の原因となるべき脳損傷があることを疑わせるような状況は存しなかったことを主張する。そこで、被告の主張の根拠となり得べき事実等について、以下補足して検討する。
a 丙川医師の認識について
丙川医師は、平成20年1月ころまで、原告に脳損傷を原因とする記憶障害、注意障害及び遂行機能障害等があるとの認識は有していなかったことがうかがわれる(前記(3)ア(ア)、(イ))。
しかし、丙川医師が最終的には原告に高次脳機能障害が残存するとの認識を有するに至っていること(前記(3)ア(ウ))、その前から、原告に集中力の低下等の症状がみられるとの認識を有していたこと(同(3)ア(イ))を考慮すると、丙川医師が、当初、原告について高次脳機能障害があるとの認識を有していなかったからといって、原告に、本件事故の直後から脳損傷による記憶障害等の症状が現れていなかったとみることはできない。
b 原告がB病院に入院していた間の診療録等の記載について
原告がB病院に入院していた間の診療録等には、脳損傷に起因する症状とみるべき具体的な事実はほとんど記載されていない。
しかし、急性期の合併外傷のために診察医が高次脳機能障害の存在に気付かないことはあるというのであり(前記(2)ア(ア)e)、丙川医師も、当初は高次脳機能障害を念頭に置いた診察をしていなかったことがうかがわれること(前記(3)ア(ア)、(イ))を考慮すると、上記の診療録等の内容をもって、直ちにB病院入院中に原告に脳損傷による記憶障害等の症状が現れでいなかったとみることはできない。
c 原告が1人で通院していたことについて
原告は、B病院を退院した後、家族が呼んだタクシーを使って1人で通院したことがあることが認められる(前記(1)ウ(ア)、(イ)a)。
しかし、原告は、公共交通機関を利用して通院していたのではないし、原告が1人で通院することができたのは、家族と一緒に何回か通院した結果、特定の病院へのタクシーによる通院には慣れたことによるものと考えられる。また、原告が移動先で運転手や医療機関の関係者の介助を受けていた可能性も否定できないから、原告が家族が呼んだタクシーを使って1人で通院していたという事実をもって、原告に脳損傷に起因する記憶障害等の症状が現れていなかったとみることはできない。
(ウ) 以上によれば、原告には、本件事故で受傷した当初から、脳損傷による記憶障害等の症状が現れていたと認めるのが相当である。
ク 結論
以上のとおり、原告の本件事故による受傷直後の意識障害の程度は軽度であり、その持続時間も短いものであったが(上記イ)、原告には、本件事故による受傷当初から、記憶障害等の高次脳機能障害に特徴的な症状が現れていたと認められ(上記オ、キ)、本件事故により、原告の脳実質が広範囲にわたって損傷を受け、びまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆する画像所見等が存在するとともに(上記ウ)、本件事故後に原告の認知能力が標準を下回る水準にあることを示す神経心理学的検査の結果が存在し(上記カ)、原告を診察した複数の医師が原告に高次脳機能障害が残存しているとの見解を示していること(上記エ)を総合考慮すると、原告には、典型的な症例でみられるほどの明確な客観的所見を伴うものではないものの、本件事故による脳損傷を原因として高次脳機能障害が残存したと認められる。
なお、症状固定日は、証拠(略)により平成20年2月22日と認めるのが相当である。被告は、一般的な脳損傷の臨床経過は受傷後12ヶ月で症状固定となるのが通常であると主張するが、本件において、一般的な臨床経過のみを理由に本件事故から1年後の平成19年11月ころに症状固定に至ったと認めることはできない。
(5) 検討-後遺障害の程度について
原告には、ふらつきやめまいの症状がみられる(前記第二の2(4)、(5))ほか、前記2で認定したとおり、発語が緩慢で、同じやりとりを繰り返さないと意思疎通ができないことがある(前記(1)ウb(a))、記憶力に障害があり、1人での帰宅や公共交通機関の利用はできない(同(b))、怒りやすい一方で、物事に対する関心が薄い(同(c))などの後遺障害がみられる。そして、複数の医師が、原告を診察した結果等を踏まえて、少なくとも原告が1人で就労することは困難であるとの見解を示していること(前記(3)ア~ウ)、平成24年7月から始めた店舗における作業も皿洗い等の単純作業に限られていること(同ウ(イ)a)を併せ考慮すると、原告が1人で通常の労務に服することはできないというべきであり、原告は、本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存しているため、他人の介助又は指示の下で軽易な労務に服するか、1人できわめて軽易な労務に服することができるにとどまるというべきである。
したがって、原告は、本件事故により、単独での就労がきわめて軽易な労務に制限される程度の後遺障害を負ったというべきであり、その程度は、後遺障害等級表でいえば、同表第二の第5級2号に相当するものというべきである。
3 争点(3)(原告の損害)について
(1) 治療関係費用 229万1,429円
ア 任意保険会社からてん補を受けた分について
本件傷害の治療関係費用として、少なくとも221万4,419円を要したことは、当事者間に争いがない。
同金額は、本件事故と相当因果関係を有する損害に当たる。
イ 任意保険会社からてん補を受けていない分について
証拠(略)によれば、原告は、上記アの費用のほか、①平成19年5月29日にB病院で診察及び投薬を受けるために1,470円の費用を要したこと、②平成20年1月31日及び同年2月1日の2日間にわたりC病院において神経心理学的検査を受けた際にファミリーホームを利用し、2,500円の費用を要したこと(その分、往復の通院交通費が1回分かからなかったことになる。)、③同月19日にC病院で診断書を作成してもらうために、切手代を含めて6,380円の費用を要したこと、④C病院に通院するため、少なくとも3往復分の交通費として、6万6,660円を要したことが認められる。
上記費用合計7万7,010円も、本件事故と相当因果関係を有する損害に当たる。
ウ 小括
以上によれば、原告は、本件事故による治療関係費用として、合計229万1,429円の損害を被ったと認められる。
(2) 入院雑費 2万2,500円
原告は、本件傷害の治療のため、平成18年11月18日から同年12月2日までの15日間、B病院に入院したところ(前記第二の2(3)ア)、入院中の生活等のため種々の雑費を要したと認めるのが相当であり、その金額は、1日当たり1,500円の15日分に相当する2万2,500円と認めるのが相当である。
(3) 症状固定前の付添看護料
89万4,000円
前記2で認定したとおり、本件事故後、原告には記憶障害等がみられたことから(前記2(1)ウ(ア)、(イ))、症状固定前において、近親者による看視、声かけ等の介護が必要であったことは否定することができない。
しかし、原告が1人でタクシーを使って通院したことがあること(前同)、原告に自傷又は他害のおそれがあったことをうかがわせる証拠は見当たらないことなどを考慮すると、近親者による頻回又は長時間にわたる看視や声かけ等の介護が必要であっ
たとまでは認められない。
以上の事実によれば、症状固定前の原告の介護に要した費用は、1日当たり2,000円を超えないと認めるのが相当である。
したがって、原告が請求する症状固定前の介護にかかる損害は、上記の2,000円に、B病院を退院した日の翌日である平成18年12月3日から症状固定日である平成20年2月22日までの日数447日を乗じて得られる89万4,000円の限度で認めるのが相当である。
(4) 休業損害 737万5,368円
前記認定事実のほか、証拠(略)によれば、原告は、本件事故で受傷する前の平成18年8月から同年10月までの3ヶ月間、大工として稼働し、合計143万6,810円の収入を得ていたことが認められる。
そして、前記2のとおり認められる症状固定後の後遺障害の内容及び程度に加え、原告にはふらつきやめまいの症状がみられること(争いがない)から本件事故前に従事していた大工の仕事をすることは困難であること等も併せ考慮すると、原告は、本件事故で本件傷害を負ったことにより、本件事故発生の日である平成18年11月18日から症状固定日である平成20年2月22日までの462日間、全面的な休業を余儀なくされ、上記と同程度の収入を得ることができなくなったと認めるのが相当である。
したがって、原告は、本件事故による休業損害として、本件事故前の3ヶ月間の収入143万6,810円を90日で除して得られる1日当たりの収入額1万5,964円(円未満切捨て。以下金額の計算につき同じ。)に462日を乗じて得られる737万5,368円の損害を被ったと認められる。
(5) 後遺障害逸失利益 7,266万2,086円
ア 基礎収入
原告は、本件事故発生の日において満28歳、症状固定日において満30歳であり(前記2(1)ア)、証拠(略)によれば、平成18年には456万6,810円の収入を得ていたことが認められる。
以上の事実によれば、原告は、本件事故で受傷しなければ、将来にわたって平均して賃金センサス平成20年第1巻・第1表男子学歴計平均賃金である年550万3,900円の収入を得る蓋然性があったと認められる。
イ 労働能力喪失率及び労働能力喪失期間
前記2で認定した本件事故による後遺障害の内容及び程度にかんがみれば、原告は、後遺障害により、症状固定日である平成20年2月22日から満67歳に達するまでの37年間にわたり、79%の労働能力を喪失したと認められる。
ウ 逸失利益の額
以上によれば、原告は、後遺障害による逸失利益として、上記の基礎収入年550万3,900円に労働能力喪失率79%及び37年間の利率年5分の複利計算に対応するライプニッツ係数16.7113を乗じて得られる7,266万2,086円の損害を被ったと認められる。
(6) 将来介護料 1,280万8,507円
本件後遺障害の内容(前記2)にかんがみれば、症状固定後も、原告には、看視や声かけ等の介護が必要であるが、前記(3)において述べたところに加え、原告が、平成24年7月から始めた総菜店での手伝いに際しても自宅と最寄り駅との間をほぼ毎日1人で往復していること(前記2(1)ウ(イ)a)を考慮すると、原告の症状固定後の介護に要する費用は、1日当たり2,000円を超えないと認めるのが相当である。
また、原告は、症状固定日である平成20年2月22日の時点で満30歳であるから、同日から少なくとも43年間にわたり上記介護を必要とすると認められる。
したがって、原告が請求する症状固定後の介護にかかる損害は、上記の2,000円に、1年の日数365日及び43年間の利率年5分の複利計算に対応するライプニッツ係数17.5459を乗じて得られる1,280万8,507円の限度で認めるのが相当である。
(7) 慰謝料 1,577万円
ア 傷害慰謝料 177万円
前記のとおり認められる本件傷害の内容及びこれに対する治療の経過等(前記第二の2(2)、(3)、第三の2(1))にかんがみれば、本件傷害に対する原告の苦痛に対しては、177万円をもって慰謝するのが相当である。
イ 後遺障害慰謝料 1,400万円
前記2で認定した原告の本件事故による後遺障害の内容及びその程度等にかんがみれば、後遺障害に伴う原告の苦痛に対しては、1,400万円をもって慰謝するのが相当である。
(8) 物損 44万3,611円
証拠(略)によれば、原告は、本件事故で原告車が損傷したことにより、44万3,611円の損害を被ったと認められる。
(9) 合計額
ア 原告の人的損害(前記(1)~(7)) 1億1,182万3,890円 イ 原告の物的損害(前記(8)) 44万3,611円
(10) 過失相殺
前記1で検討したとおり、本件事故により原告に生じた損害については、10%の過失相殺をするのが相当である。
過失相殺後の金額は、原告の人的損害(前記(9)ア)が1億64万1,501円、原告の物的損害(同イ)が39万9,249円となる。
(11) 損害のてん補
ア 本件任意保険金
本件任意保険金746万9,874円は、弁論の全趣旨に照らし、原告の人的損害にてん補するのが相当と判断する。
イ 本件自賠責てん補金
本件自賠責てん補金224万円は、平成18年11月18日(本件事故発生の日)から平成20年11月17日(本件自賠責てん補金の受領日)までの間に原告の人的損害の残元本に対して生ずる遅延損害金にまず充当すべきである(最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事第215号987頁参照)。
ウ てん補の結果
以上の判断に従って、本件任意保険金及び本件自賠責てん補金を原告の損害にてん補すると、原告の人的損害及び原告の物的損害の残額は、それぞれ以下のとおりとなる。
(ア) 原告の人的損害 9,317万1,627円
(このほかに確定遅延損害金残額707万7,162円)
前記(10)の過失相殺後の原告の人的損害1億64万1,501円に本件任意保険金746万9,874円をてん補した後の残元本は、9,317万1,627円となる。
上記残元本に対する平成18年11月18日から平成20年11月17日までの2年間に発生する年5分の割合による遅延損害金は931万7,162円であるところ、本件自賠責てん補金224万円は全額が上記確定遅延損害金にてん補され、確定遅延
損害金のうち707万7,162円が残存することになる。
(イ) 物的損害 39万9,249円
物的損害にてん補すべき給付は存しない。
(12) 弁護士費用
本件事案の内容、審理の経過、前記(11)ウの認容額その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告の人的損害に関する分として931万円、原告の物的損害に関する分として4万円を認めるの
が相当である。
4 まとめ
以上によれば、被告は、原告に対し、次の(1)については自賠法3条又は民法709条に基づき、次の(2)については民法709条に基づき、それぞれ各項記載の金員を支払う義務を負い、併せて、次の(3)~(6)の遅延損害金を支払う義務を負う。
(1) 原告の人的損害(弁護士費用を含む。) 1億248万1,627円
(2) 原告の物的損害(弁護士費用を含む。) 43万9,249円
(3) 原告の人的損害にかかる確定遅延損害金 707万7,162円
(4) 弁護士費用以外の原告の人的損害にかかる遅延損害金
9,317万1,627円に対する平成20年11月18日(本件自賠責てん補金の受領日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
(5) 原告の人的損害にかかる弁護士費用の遅延損害金
931万円に対する平成18年11月18日(本件事故発生の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
(6) 弁護士費用を含めた物的損害にかかる遅延損害金
43万9,249円に対する平成18年11月18日(本件事故発生の日)から支払済みまで年5分の割合による金員
第四 結論
以上の次第であり、原告の請求は、前記第三の4の限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。なお、被告の仮執行免脱宣言の申立てについては、その必要が認められないから、これを却下する。
(口頭弁論終結日 平成24年10月23日)
東京地方裁判所民事第27部
裁判長裁判官 三木素子
裁判官 松林朋佳
裁判官 小松秀大