【判決要旨】
高速道路のETC出口において、前方走行車両がETCを通過しようとしたところ、ETCのバーが上がらず(バーが上がらなかった原因は不明)、後続車が追突した事案について、前方走行車両の過失相殺を否定した。
東京地裁 平成21年7月14日判決(確定)
事件番号 平成19年(ワ)第35283号 損害賠償請求事件
【事案の概要】
支社独立採算性の原告運送会社所有の普通貨物車は、平成18年6月7日午後3時ころ、愛知県豊橋市内の高速道路料金所ETCレーンで減速時、被告Y運転の大型貨物車に追突され、747万8,783円の損害を負ったとして訴えを提起した。
裁判所は、高速道路料金所ETCレーンでの追突には、被追突車の過失を「斟酌するのは相当ではない」とした。
当高速道路ETCレーンでは、「20キロメートル以下に減速し、かつ安全の確保」が義務付けられており、「バーが上がらなかった原因については、必ずしも判然としない」が、Xに「カード書き込みエラーがあって、急ブレーキをかけた」としても、Xの過失を「斟酌するのは相当ではない」と、Xへの過失相殺を否認した。
休車損害につき、「何らかの配車調整ができていた」としても、独立採算性の事業形態から「休車損害が発生した」と認めた。
X車の「平均粗利は5万6,933円」であるが、事故時期の稼働状況、「民事訴訟法248条の趣旨」から、「1日当たり2万3,000円」とし、99日請求の休車期間は、経済全損内での修理業者を探していた期間を控除し、「68日間」と認定した。
判 決
原告 X会社
同代表者代表取締役 丙川花子
同訴訟代理人弁護士 飯島 歩
同 伊達伸一
被告 乙山次郎
同訴訟代理人弁護士 高江 満
同 阿部一夫
同 佐々木龍太
同 安田信彦
同 梅津大樹
【主 文】
1 被告は、原告に対し、293万3,542円及びこれに対する平成18年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告の、その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
1 被告は、原告に対し、747万8,783円及びこれに対する平成18年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件は、高速道路の出口料金所に設置されたETCの開閉に伴う下記1(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)により損害を受けたと主張する原告が、被告に対し、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として747万8,783円及びこれに対する本件事故の日である平成18年6月7日から支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実等(当事者間に争いがないか、後掲の証拠により容易に認められる。)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成18年6月7日午後3時ころ
イ 場所 愛知県豊橋市東名高速道路上り線料金所内(以下「本件事故現場」という。)
ウ 被害車両 原告が所有し丁山三郎が運転する事業用普通貨物自動車(ナンバ
ー略。4トンロングトラック。以下「原告車」という。)
エ 加害車両 被告が運転する事業用大型貨物自動車(ナンバー略。以下「被告車」という。)
オ 事故態様 本件事故現場において、ETC(Electronic Toll Collection System:自動料金収受システム。以下「ETC」という。)搭載車である原告車が、ETC車線上を走行し、ゲートを通過しようとした際、ゲートのバーが上がらなかったため、減速したととろ被告車が追突した。なお、本件事故の態様については、後記のとおり争いがある。
(2) 原告は、全国に支社を持つ引越運送業等を事業内容とする株式会社である。
(3) 被告は、20キロメートル毎時以下に減速し、かつ、安全の確保できる速度で進入することが義務づけられているETC車線において、原告車が約20キロメートル毎時にまで減速したのに、前方不注視、ETC車線内速度超過等の過失により追突したのであり、民法709条に基づき、原告に対し、不法行為による損害賠償責任を負う。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件事故の態様、過失相殺
(原告)
ア 原告は、本件事故現場で、原告車をETC車線に約40キロメートル毎時で進入させたが、ETCゲートのバーが上がらなかったので、約20キロメートル毎時まで減速したのであるが、その際、被告車が原告車に追突したのである。なお、ETCゲートのバーが上がらなかったのは、原告車のETCカードの書き込みエラーによるものではなく、仮にそうであったとしても、エラー音等もなっておらず、原告車に責任があったものではない。
イ ETC車線においては、一般に急ブレーキが予期できない状況ではなく、レーン内で車両が停止することが当然予想されるものである。
本件事故は、被告の一方的過失によって発生したものであり、原告に過失はないから、過失相殺はされるべきではない。
(被告)
ア 本件事故は、ETCゲートのバーが上がらなかったことにより、原告車が急ブレーキをかけたため、被告車が止まりきれずに追突したものであるが、ETCゲートのバーが上がらなかったのは、ETCカードに書き込みエラーがあったためETCゲートのバーが上がらなかったことに起因する原告車の急ブレーキの影響があるといえる。
イ 上記の状況に加え、原告車のETC車線通過時の速度は、検札所の速度検知機によると42キロメートル毎時であって、被告車もほぼ同様の速度で原告車を追随していたことを考えれば、原告にも10%の過失がある。
(2) 原告の損害
(原告)
ア 原告車の修理代 110万2,857円
イ 原告車の積荷の損害 5万9,670円
ウ 休車損害 563万6,367円
(ア) 原告車は、本件事故により運行不能となり、本件事故日である平成18年6月7日から修理が完成して原告に納車された同年9月13日までの99日間(以下「本件休車期間」という。)、原告車を使用した引越業務ができなかった。
(イ) 原告車の本件事故前3ヶ月の稼働状況は別表1のとおりであり、1日当たりの休車損害は、別表2のとおり5万6,933円であるから、本件休車期間の休車損害は563万6,367円となる。
仮に、金額の算定が不可能な場合であっても、民事訴訟法248条により、相当額を認めるべきである。
(ウ) 原告車が所属する原告のE支社(以下「E支社」という。)には、本件事故当時、引越運送車両として、4トンロングトラック2台、2トンロングトラック8台及び1.5トントラック(小型車両)2台の12台であり、原告車は4トンロングトラックであるから、同等の荷物の運送をするには、2トンロングトラックと1.5トントラックをセットにして配車する必要がある。
そして、本件休車期間のE支社における上記各車両の稼働状況は、別表3のとおり、11台が全部稼働していた日は半分以上の50日、10台以上稼働の日も65日にのぼること、本件休車期間は、3月、4月の繁忙期に次ぐ、第2繁忙期である7月、8月を含むものであること、現実に引越の仕事を断っていることなどからすると、原告車を使用する必要性はあったといえる。
貨物自動車運送事業実績報告書上の、年間実績を基に遊休車の存在を論じても、支社ごとのものではなく意味がない。
(エ) 引越業者は一般に、遊休車両を保有し、又は代替手配を常備しておくようなことは行っておらず、また、原告が、全国展開をしている引越業者であるとしても、北海道や沖縄にある遊休車を使用できるものではない。原告では、フリーダイヤルによる総合受付電話番号はあるものの、システム上、各支社が個別に対応しており、発注につき統合した管理がなされているわけではなく、各支社が実質的な独立採算制をとり、各支社が売上げ、利益等を競い、これにより、支社、支社長の評価、賞与や毎月の給与が変動するシステムを採用しており、また、支社が独自に配車を行っており、他支社の車両を利用することは、恥であり、日常化すれば、エリアの削減にもつながりかねないのである。さらに、一般貨物自動車運送事業では、営業所単位で予め登録された車両しか使用することはできず、営業所間の日常的な車両の融通は、法に違反する恐れもある。
仮に、原告に遊休車があったとしても、事故車と同等の車両が多数存在し、これを代替することが容易にできる等特段の事情がある場合を除き、事故車の所有者側に遊休車を利用してやり繰りすべき義務はないというべきところ、原告において、4トンロングトラックが多数存在する訳ではなく、代替が容易にできる特段の事情はないのである。
(オ) なお、原告車の修理が平成18年7月31日となったのは、本件事故当初の同年6月16日に修理見積をとったところ315万8,337円であったところ、被告の保険会社から最大130万円程度しか修理費用を出せない(経済的全損)とされたため、支払可能な額での修理にとどめられる業者を探していたためである。
修理期間として本件休車期間が認められないのであれば、上記アの修理代は315万8,337円とすべきである。
エ 弁護士費用 67万9,889円
オ 合計 747万8,783円
(被告)
ア 修理代は認める。
イ 積荷損害については不知。
ウ 休車損害は否認する。
(ア) 休車損害が認められるには、休車期間中遊休車がないことが要件の1つとされているところ、原告は、引越運送業務を業とする全国ネットの大規模な運送業者であり、原告が多数の保有車両を有することは周知の事実であり、かつ、本件事故は、年度末の引越繁忙期ではない時期に発生しているから、原告に遊休車があったことは容易に推認できるのであって、実損としての休業損害は発生していない。
(イ) 原告は、本件休車期間における稼働率の高さを休業損害発生の根拠としているが、原告車が稼働していなければE支社の稼働率が上昇するのは当然であり、そのことから、原告において具体的な引越の依頼を断らざるを得なかったことにより休車損害が発生したとはいえない。
原告の保有の事業車両(延実存車両数60万5,001台)の稼働率は73.3%であり、実に26%もの遊休車があることを考えれば、1台の事故車両が稼働できないとしても、他の営業所の空いている車両のやり繰りで容易にカバーできたはずである。
(ウ) 原告が、実質的な独立採算制の採用や支社単位での配車は、経営の効率化のためであり、全社的にみた場合、事業用車両の融通等による効率的利用は原告にとって望まれるのであり、現実に、原告においては、他支社の応援や他支社の車両の利用が行われており、人材や車両の融通が認められるのである。その上、原告は、E支社と同一住所の別支社があり、融通が難しいものともいえない。
(エ) 原告の主張(オ)について、被告側の保険会社は、本件事故後の平成18年6月16日に損害確認の立会いをし、その際、原告の支社長に対し、経済的全損である旨伝えているから、修理を選択したのは原告の判断であり、修理の着手が遅れたのも原告の判断に基づくのである。
エ 弁護士費用、合計は争う。
第三 争点に対する判断
1 争点(1)(本件事故の態様、過失相殺)について
(1) 本件事故は、前提となる事実等(1)のとおり、本件事故現場において、丁山三郎が運転する原告車が、ETC車線上を走行し、ゲートを通過しようとした際、ゲートのバーが上がらなかったため、減速したところ被告車が追突したものである。
そして、上記追突は、前提となる事実等(3)のとおり、被告が、20キロメートル毎時以下に減速し、かつ、安全の確保できる速度で進入することが義務づけられているETC車線において、原告車が約20キロメートル毎時にまで減速したところで発生しているのである。
(2) ところで、被告は、本件事故が、原告車のETCカードの書き込みエラーによるゲートのバーがあがらなかったことにより原告車が急ブレーキをかけた影響によると主張し、原告車が42キロメートル毎時でETC車線に進入し、被告車も同速度で進行したと主張する。
しかしながら、東名高速道路におけるETCシステム利用規程によれば、①ETC車線では20キロメートル毎時以下で、かつ、安全の確保できる速度で進入すること、②前者が停車することがあるので、必要な車間距離を保持すること、③20キロメートル毎時以下で、かつ、安全の確保できる速度で通行することなどが求められていることが認められるところ、被告は、これらを遵守していなかったことは、被告の自認するとおりであり、原告車に速度超過があったとしても、後続車である被告車は、原告車の停止まで想定してETC車線への進入、通行をしなければならず、必要な車間距離を取ることを求められているのであるから、ETCバーがあがらなかった原因については、必ずしも判然としないものの、仮に原告車のETCカードの書き込みエラーがあって急ブレーキをかけたとしても、原告車の通行状況を斟酌するのは相当ではない。
よって、本件において、原告車の過失を問うことはできない。
2 争点(2)(原告の損害)について
(1) 修理代110万2,857円については当事者間に争いがない。
(2) 積荷損害については、これを認めるに足りる証拠はない。
(3) 休車損害について
ア 証拠(略)によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア) 原告は、引越運送業等を全国展開しており、全国同一のフリーダイヤルによって顧客からの引越依頼等を受け付けているが、実質は、各支社でエリアが決められ、顧客の発信エリアごとに各支社に電話が振り分けられており、各支社では、収支や配車等につき実質的な独立採算性を取っている。そして、支社間で競争があり、支社の利益で順位を付け、それが給与やボーナスにも反映される仕組みになっている。
(イ) 原告において、1年で最も忙しい時期は3月、4月であり、7月、8月がこれに次ぐ忙しい時期である。引越の受注は、引越の2週間前から1ヶ月前に顧客からの依頼があり、見積の上で受注するが、見積をしても必ず受注できるわけではなく、その成約率は36%程度から52%程度である。
売上げをみると、平成17年では、5月度は4月度の59.9%程度、6月度は4月度の53.4%程度、7月度は4月度の64.1%程度、8月度は4月度の82.6%程度、9月度は4月度の59.5%程度であり、営業利益は、平成17年では、5月度は4月度の13.7%程度、6月度は4月度の5.4%程度、7月度は4月度の16.6%程度、8月度は4月度の51.4%程度、9月度は赤字であった。
また、平成18年の5月度の売上げは4月度の62.4%程度、同年5月度の営業利益は4月度の7.3%程度であった。
さらに、平成17年と平成18年を比較すると、売上げにおいて4月度で19.3%程度増、5月度で24.2%程度増、営業利益において、4月度で11.4%程度増、5月度で40.6%程度減となっている。
(ウ) 原告車はE支社に属していたが、同支社において、本件事故当時、引越運送車両として保有していたのは、原告車と同様の4トンロングトラック(車格SL。以下「SL車」ということがある。)2台、2トンロングトラック(同K)8台及び1.5トントラック(小型車両:同H)2台の12台であった。
なお、E支社は、同じ建物の同一フロアに、F支社、G支社がある。
(エ) 本件事故前の3ヶ月間(平成18年3月8日から同年6月7日まで。以下「本件事故前期間」という。なお、以下の日付はいずれも平成18年である。)において、原告車がE支社のために使用されていない日(他支社で使用したものを含む。)は、少なくとも3月10日、12日、23日、4月5日、7日、5月6日、9日、10日(車検)、11日(車検)、12日、14日、19日(タイヤ交換)、20日、23日、29日、30日、31日であり、E支社のもう1台のSL車が使用されていない日も、少なくとも、5月8月、9日、19日、20日、22日、24日であり、さらに、6月1日から7日までの間は、SL車が1台H支社のために使用されている。
また、平成18年9月1日から13日までの間、E支社においてSL車の使用が1台もなかった日が2日あり、同月14日以降、SL車の使用がなかった日が1日、1台のみ使用の日が4日ある。
(オ) 本件休車期間におけるE支社の保有車両の稼働率は、別表3のとおりである。
(カ) 本件事故前期間の原告車の1日当たりの平均粗利は、別表2のとおり、5万6,933円であると認められる。
(キ) 原告は、本件事故前に契約済みの引越作業を断ったことはないことを自認している。
(ク) 原告の本件休車期間における売り上げは、前年と比較して8月以外は落ちてはいないが、それは他での稼働率を上げて売上げを上げたことによる。
(ケ) 原告車は、平成11年3月に初度登録された事業用貨物自動車であるところ、その修理に関し、原告が本件事故直後の平成18年6月半ばころ取得した修理代の見積額は315万8,337円であったが、被告の保険会社から経済的全損であり、130万円程度しか支払えないとされたため、同額以内での修理をしてもらえる業者を探すなどした結果、実際の修理は同年7月31日に発注し、同年9月13日に修理完了、納車となった。
イ これらの事実関係から、以下の点を指摘できる。
(ア) 本件事故前期間の原告車の1日当たりの平均粗利は5万6,933円であること。
(イ) しかしながら、本件事故前期間は、引越業者にとって、もっとも繁忙期であり、収益の上がる時期である3月及び4月を含むものであるのに対し、本件休車期間は、第2繁忙期である7月、8月を含むとはいえ、4月度と比較すると、売上げで、7月度が64.1%程度、8月度が82.6%程度、営業利益において、7月度は4月度の16.6%程度、8月度は4月度の51.4%程度しかないことを考えると、両期間の比較において、これを同等に考えることはできないこと。
(ウ) 実質的に独立採算制で動いているE支社における保有車両の稼働状況によれば、3月、4月に比較して、5月は稼働率が低下し、SL車の使用をしていない日や1台あれば足りると考えられる日も見受けられること。
(エ) 事故前の契約については、引越作業を完了していること(ただし、比較的余裕がある6月中の作業であると推認される。)。
(オ) 本件休車期間における売り上げは、前年と比較して8月以外は落ちてはいないこと。
(カ) しかしながら、E支社では、ほかでの稼働率を上げて売上げを上げたことや平成18年4月度及び5月度においては、平成17年同期に比して売上げが20%前後増加していること。
(キ) その一方で、平成18年5月度の利益は、平成17年5月度より減少していること。
(ク) E支社の成約率は36%程度から52%程度であること。
(ケ) 原告車の修理は、保険金が経済的全損分しか出ないとされたため、原告の希望により、補填される額に納まる修理をしてくれる業者を探したことにより、すぐに着手できなかったこと。
ウ 以上からすると、原告は、本件事故前に受け付けていた引っ越しを断ったことはないというのであるから、その期間(6月中)においては、支社内あるいは各支社間で何らかの配車調整ができていたとみるべきであるし、本件休車期間中の稼働率を上げられたことは、社内的に配車調整をしたものといえる。
しかしながら、実質的に各支社が独立採算で活動している原告において、E支社が、他の支社の車両を使用することまでして配車調整をしなければならないとはいえず、引越が、ある程度先の期日を予定して発注することを考えると、決まっている引越をやり繰りでさばくことができたとしても、他支社の営業を妨げて(当該支社としては、SL車をE支社に融通することで、当該支社のエリア内の顧客の需要を満たせないことがありうる。)まで、常時代替車両を確保することは事実上不可能であるというべきであって(同一住所の別支社であっても独立採算性を取っていることからすれば、融通が容易であるとは言い難い。)、車両の稼働状況も考えると、原告には、何らかの休車損害が発生したというべきである。
エ そして、本件事故前期間の原告車の1日当たりの平均粗利は5万6,933円であるが、同期間の車両の使用状況からすると、これを基準とするにしても、上記のとおり、同期間は最も繁忙期を含むものであり、利益率も高いことが推認されるから、そのまま使用できず、本件休車期間を含む平成17年6月から9月までの、同年4月に対する売上げ、営業利益の平均比率は、売上げで65%程度(7月と8月のみでも73.35%である。)、営業利益で20%弱(7月と8月のみでも34%である。なお、9月度は営業利益0円として計算している。)にすぎないこと、平成18年は、平成17年に比較して、売上げは増加しているものの、必ずしも利益は増加していないこと、車両の使用状況は年度で必ず同様であるとも言い難いことや成約率上SL車が必要であったと直ちにはいえず、稼働率(これも必ずしもSL車が使用されていると言い難い。)や利益状況などを考えると、必ずしも原告車がないことで、原告が引越の仕事を受けられず、原告主張の利益を上げられなかったとは言い難いことなどを総合し、民事訴訟法248条の趣旨も含めて判断すると、本件における休車損害を算定する際の基準額としては、1日当たり2万3,000円とするのが相当である。
オ ところで、原告は、本件休車期間を、本件事故の日である平成18年6月7日から修理が完了し、納車された同年9月13日までの99日間と主張しているが、上記ア(ケ)のとおり、修理に要した期間は同年7月31日から同年9月13日までの45日間であることに加え、修理のための入庫まで時間を要したのは、原告車の時価(経済的全損として130万円程度。)以上にかかるとされた同年6月半ばころの修理代見積に対し、原告が上記填補金額内で修理をしようとして、そのような修理工場を探していたことにあるというべきであって、修理の入庫は、通常であれば事故直後であり、上記事情を考慮しても、そのための期間分を被告が全部負担すべきいわれはないから、修理着手までの相当期間としては、同年6月いっぱい(同月30日までは23日間、見積後でも約2週間ある。)とするべきであり、上記修理期間と合計すると、68日間が相当期間であるといえる。
カ よって、原告の休車損害は、2万3,000円に68日間を乗じた156万4,000円となる。
なお、原告は、休車期間を削るのであれば、修理代として315万8,447円を認めるべきであると主張するが、上記の検討によれば、経済的全損の場合、原告の損害額は130万円程度であるから、原告車の時価を超える修理費を認める余地はなく、また、その場合には休車損害としても、本件事故から発注の期間に制限されることになるから、原告の主張を採用することはできない。
(4) 弁護士費用
原告の損害を合計すると266万6,857円となるところ、本件事故と因果関係のある弁護士費用は26万6,685円とするのが相当である。
(5) 以上によれば、被告が、原告に対し、本件事故による不法行為に基づく損害賠償責任を負うことは前堤となる事実等(3)のとおりであるから、被告は、原告に対し、293万3,542円及びこれに対する不法行為の日である平成18年6月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務があるといえる。
3 結論
よって、原告の請求は、上記の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成21年6月2日)
東京地方裁判所民事第27部
裁判官 千葉和則