後遺障害逸失利益はどうやって計算するのですか。
1. 後遺障害等級が付くと,将来,稼働が制限されるだろうとして,将来得られたであろう利益の賠償(逸失利益)が認められることがあります。
その方法として,基礎収入×労働能力喪失率×影響があると考えられる就労期間で計算します。
しかし,職も複数あり,自賠責での計算の仕方と弁護士の計算の仕方も違っています。
ただ,労働能力喪失率は,別表第一として第1級、第2級、別表第二として第1級から第14級までの後遺障害があり,それぞれの等級ごとに、労働能力喪失率が定められていますので,それを用いることを基本としています。
後遺障害 別表第一,二.pdf
2. 自賠責の場合の計算の仕方
以下のとおりの年収額
×当該等級の労働能力喪失率(1で既述)
×症状固定時の就労可能年数のライプニッツ係数(別表II‐1.pdf)
ただし、別表IIIの金額を得られる蓋然性が認められない時は、この限りでないとされます。
後遺障害 逸失利益 別表III,IV.pdf
(1)有職者
事故前1年間の収入額と固定時年齢の別表IVの額のいずれか高い額が収入額とされます。ただし、次の者については、それぞれに掲げる額を収入額となります。
①35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者
事故前1年間の収入額、別表IIIの額及び固定時年齢の別表IVの額のいずれか高い額。
②事故前1年間の収入額を立証することが困難な者
- ア. 35歳未満の者
- 別表IIIの額及び固定時年齢の別表IVの額のいずれか高い額。
- イ. 35歳以上の者
- 固定時年齢の別表IVの額。
③退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
以上の基準が準用されます。この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとされます。
(2)幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
別表IIIの額とされています。
ただし、58歳以上の者で固定時年齢の別表IVの額が別表IIIの額を下回る場合は、別表IVの額となります。
(3)その他働く意思と能力を有する者
固定時年齢の別表IVの額とされます。ただし、別表IIIの額が上限となります。
3. 弁護士による場合
後遺障害逸失利益
=収入(基礎収入) (②)
×労働能力喪失率 (①)
×労働能力喪失期間(③)に対応するライプニッツ係数(④)
(具体例として(⑤)、むち打ち等の神経症状の特例として(⑥))
① 労働能力喪失率
自賠責保険の別表第一、二と基本的には同じですが、訴訟では、被害者の年齢、性別、職業の内容、後遺障害の具体的内容などにより、個別に判断されます。
② 収入について
収入については、年収としての基礎収入取り方が重要になってきます。
以下、表をご参照ください。
分類 | 基礎収入の取り方(原則) |
---|---|
給与所得者 (会社員など) |
事故前年の収入(年収) |
事業所得者 (個人事業主など) |
原則は、確定申告所得額 ・確定申告額と実収入額が異なる場合で、実収入額を証明できれば、実収入額 |
家事従事者 | 原則:女子全年齢賃金センサス(賃セ)額 |
例外: 賃セ<実収入のとき ⇒ 実収入 | |
学生など | 男女全年齢賃金センサス額 |
失業者 | 賃金センサス額から相当額減額する例が多い |
高齢者 | 60歳~64歳または65歳~69歳の年齢別賃金センサスを参考にする。 |
③ 労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、67歳までを就業可能年齢としていますので、症状固定日時から67歳までの期間となります。
④ ライプニッツ係数表
ライプニッツ係数(将来得られる金額を現在の一時金でもらうため、金利分が減額されます)は、③の労働能力喪失期間に対応した数字を選択します。
期間(年) | 係数 | 期間(年) | 係数 |
---|---|---|---|
1 | 0.9524 | 35 | 16.3742 |
2 | 1.8594 | 36 | 16.5469 |
3 | 2.7232 | 37 | 16.7113 |
4 | 3.546 | 38 | 16.8679 |
5 | 4.3295 | 39 | 17.017 |
6 | 5.0757 | 40 | 17.1591 |
7 | 5.7864 | 41 | 17.2944 |
8 | 6.4632 | 42 | 17.4232 |
9 | 7.1078 | 43 | 17.5459 |
10 | 7.7217 | 44 | 17.6628 |
11 | 8.3064 | 45 | 17.7741 |
12 | 8.8633 | 46 | 17.8801 |
13 | 9.3936 | 47 | 17.981 |
14 | 9.8986 | 48 | 18.0772 |
15 | 10.3797 | 49 | 18.1687 |
16 | 10.8378 | 50 | 18.2559 |
17 | 11.2741 | 51 | 18.339 |
18 | 11.6896 | 52 | 18.4181 |
19 | 12.0853 | 53 | 18.4934 |
20 | 12.4622 | 54 | 18.5651 |
21 | 12.8212 | 55 | 18.6335 |
22 | 13.163 | 56 | 18.6985 |
23 | 13.4886 | 57 | 18.7605 |
24 | 13.7986 | 58 | 18.8195 |
25 | 14.0939 | 59 | 18.8758 |
26 | 14.3752 | 60 | 18.9293 |
27 | 14.643 | 61 | 18.9803 |
28 | 14.8981 | 62 | 19.0288 |
29 | 15.1411 | 63 | 19.0751 |
30 | 15.3725 | 64 | 19.1191 |
31 | 15.5928 | 65 | 19.1611 |
32 | 15.8027 | 66 | 19.201 |
33 | 16.0025 | 67 | 19.2391 |
34 | 16.1929 |
⑤ 具体例の検討
事故前年収1000万円の給与所得者(45歳)が、事故で、左下肢の膝関節の機能に著しい障害(稼働域制限)を残したとします。その場合の後遺障害逸失利益は、以下のとおり計算されます。
年収1000万円×14%(労働能力喪失率)×13.1630(22年(67歳-45歳)ライプニッツ係数)=18、428、200円
⑥ むち打ち症等神経症状の場合の特例
むち打ち症等の神経症状で後遺障害等級12級の場合,労働能力喪失期間を10年(ライプニッツ係数7.7127)としたり,14級の場合,同期間を5年(ライプニッツ係数4.3295)としたりする判例が多く見られます。