【判決要旨】
■60歳男子プレス加工自営業者Yさんの収入認定について、「Yは、過去3年間の平均値によるべき旨主張するが、Yの売上は平成18年が1,079万8,764円、平成19年が743万0,019円で、次第に減少傾向にあり、約7年前までは職員を雇っていたが、内職としての外注になり、それも事故前には止めていたこと等も考慮すると、過去3年間の平均値による推計を相当とする事情があるとは認められない」として、前年の確定申告額515万円余を基礎収入と認定した。
■60歳男子Yさんの「本件の椎間板ヘルニアの形成の機序そのものは証拠上明確ではなく、本件事故により形成されたと認定するに足りる証拠はない。しかし、後遺障害等級14級の認定自体が、画像所見上確認できる椎間板の突出が外傷性の異常所見であるとは認められないことを前提としており、本件事故後に発症した神経症状について、本件事故との相当因果関係を否定すべき事情があるとは認められない。また、本件の椎間板ヘルニアの形成について、加齢による経年変化等の要因があるとしても、後遺障害等級14級相当の神経症状という本件の後遺障害との関係で、公平の見地から素因による減額をすべき事情があるとは認められない」と認定された。
高松高裁 平成24年7月5日判決(確定)
事件番号 平成24年(ネ)第94号、同年(ネ)第210号 損害賠償請求控訴、 同附帯控訴事件
1審徳島地裁 平成24年2月1日判決
事件番号 平成23年(ワ)第81号 損害賠償請求事件
【事案の概要】
症状固定時60歳男性プレス加工業を自営するYさんは、平成21年2月24日午後0時20分頃、徳島県下で乗用車を運転、信号待ち停車中、Aさん運転の乗用車に追突され、先行車に玉突き追突して頸椎捻挫等を負い、約1年1ヶ月後、自賠責併合14級後遺障害を残し、既払金を控除して1,274万1,507円を求めて訴えを提起した。
1審裁判所は、自営業者の収入認定につき、過去3年平均を否認して「減少傾向」等から、過去1年の収入を基礎収入と認定、ヘルニア形成の機序不明等から14級神経症への素因減額を否認した。
Yさんの収入認定につき、「Yは、過去3年間の平均値によるべき旨主張するが、Yの売上は平成18年が1,079万8,764円、平成19年が743万0,019円で、次第に減少傾向にあり、約7年前までは従業員を雇用していたが、内職としての外注になり、それも事故前には止めていたこと等も考慮すると、過去3年間の平均値による推計を相当とする事情があるとは認められない」とし、前年の確定申告額515万円余を基礎収入に、「通院日に丸半日休業していたわけではないこと」から、「通院実日数の4割」で休業損害を認定した。
「本件の椎間板ヘルニアの形成の機序そのものは証拠上明確ではなく、本件事故により形成されたと認定するに足りる証拠はない。しかし、後遺障害等級14級の認定自体が、画像所見上確認できる椎間板の突出が外傷性の異常所見であるとは認められないことを前提としており、本件事故後に発症した神経症状について、本件事故との相当因果関係を否定すべき事情があるとは認められない。また、本件の椎間板ヘルニアの形成について、加齢による経年変化等の要因があるとしても、後遺障害等級14級相当の神経症状という本件の後遺障害との関係で、公平の見地から素因による減額をすべき事情があるとは認められない」として、Aさん主張の素因減額を否認し、67歳
まで7年間5%の労働能力喪失により後遺障害逸失利益を認定した。
「施術内容その他本件の諸事情を考慮すれば、整骨院における治療費は、その50%(53万3,180円)の範囲で本件事故との因果関係を認めるのが相当である」として、整骨院施術費を認定した。
Yさん、Aさんそれぞれ控訴の2審は、「いずれも棄却する」として、1審判決を指示した。
1審判決
原告 甲野一郎
同訴訟代理人弁護士 森 晋介
被告 乙山次郎
同訴訟代理人弁護士 後藤田芳志
【主 文】
1 被告は、原告に対し、671万3,598円及びこれに対する平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、主文1項につき仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
被告は、原告に対し、1,274万1,507円及びこれに対する平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は交通事故(人身)による損害賠償事案である。
1 前提事実(争いがないか、証拠(略)により容易に認定できる事実)
(1) 平成21年2月24日午後0時20分ころ、徳島県小松島市<地番略>路上で、被告運転の普通乗用自動車が、赤信号で停止中の原告運転の普通乗用自動車に追突し、さらに同車両を前方で停車中の車両に玉突き追突させる交通事故が発生した。
(以下「本件事故」という。)
(2) 被告は、被告運転車両の運行供用者として、本件事故につき、自賠法3条の損害賠償責任を負う。
(3) 原告は、本件事故により、頸部捻挫、腰椎捻挫、左膝打撲、左膝関節捻挫、右肩関節捻挫等の傷害を負い、その後、B病院等での通院治療を経て、平成22年3月12日に症状固定した旨の後遺障害診断を受け、自賠責保険において、頸部に神経症状を残すもの(14級9号)、腰部に神経症状を残すもの(14級9号)、左膝関節に神経症状を残すもの(14級9号)として併合14級の認定を受けた。
(4) 被告は、本件に関し、原告に対して、B病院及びC病院への治療費(合計80万7,852円)のほか、40万円を支払済みである。
2 本件の主な争点は原告の損害額であり、当事者の主張は次のとおりである。
(1) 原告
ア 未払治療費 106万6,360円(D整骨院分)
イ 休業損害 347万2,970円
休業損害、逸失利益の前提となる基礎収入について、自営業者である原告の場合は、申告所得に事業の維持・継続に必要な固定経費を加えた金額、つまり、売上収入から変動費を控除した金額をもって算定すべきであり、過去3年間の平均収入は年収608万0,702円となる。
原告は、通院実日数297日(B病院137日、C病院3日、D整骨院157日)について、少なくとも半日は休業を要したから、前記収入から年間稼働日数を260日として計算すると、休業損害は347万2,970円である。
ウ 逸失利益 351万8,537円
原告は、症状固定診断後も、首、腰、足の痛み、しびれ、左右前腕の知覚鈍麻等の神経症状に悩まされ続けている。原告の頸椎椎間板ヘルニアが本件事故により発生した場合は勿論、仮に、ヘルニア自体が既往のものであるとしても、本件事故前に症状が全くなかったことは明らかであり、事故に起因して症状が発症したことについて、本件事故との因果関係が認められる。
原告の仕事は、大手家電メーカー、自動車メーカーの製品の各種精密部品を主にプレス加工により製作することであり、完壁かつタイトなスケジュールでの納品が要求され、熟練した特殊技術を駆使して精緻かつ高速の作業が要求されるところ、本件事故の後遺症である首や腰の痛み、指先のしびれ等により、作業効率が大幅に低下し、大幅な売上減少をきたしている。
少なくとも、症状固定(60歳)から67歳までの7年間、10%の労働能力喪失が生じることは明らかであり、逸失利益としては、前記年収を基準に、ライプニッツ係数(5.7864)により中間利息を控除すると351万8,537円となる。
エ 傷害慰謝料 250万円
原告は、本件事故により、約1年間にわたる長期の通院加療を強いられたこと、本件事故時、被告は飲酒し、正常な運転が困難な状態であったこと、被告は、事故後も、原告を気遣ったり、119番通報したりすることなく、逆に、信号待ちをしていた原告に「何で止まるんな」等と大声を出すなどしたことを考慮すれば少なくとも250万円は認められるべきである。
オ 後遺障害慰謝料 250万円
原告は、首、腰、足の痛み、しびれ等の神経症状に悩まされ、就労にも多大な支障をきたしているほか、日常生活でも、睡眠中に痛みで何度も目覚め、足の痺れ等のために、犬の散歩が短時間しかできない、趣味の釣りにいけない、酒が全く飲めないなど生活が非常に制約されており、後遺障害による苦痛を慰謝するに足る金額は250万円を下らない。
カ 弁護士費用 115万円
キ 上記損害合計1,420万7,867円から既払金40万円を控除すると1,380万7,867円であるが、本件では請求欄記載の金額を内金請求する。
(2) 被告
ア 未払治療費
整骨院への通院は医師の指示によるものではなく、事故との相当因果関係を欠くし、病院との重複通院であり、不必要である。また、受傷の程度からみて通院期間が長期に過ぎるし、通院頻度も極めて濃厚で、過剰通院や賠償目的の通院を疑わせるものである。
イ 休業損害
原告の事業は平成18年以降、年々売上が減少しており、基礎収入は、事故前年を基準とすべきであるし、その金額は会計上の営業補償基準に従えば、368万7,915円である。また、本件事故のあった平成21年の売上の実際の減少は前年比約187万円に止まる。
受傷が軽微であることや売上の状況からみて、本件の実態に即した休業期間は多くとも60日分であり、64万0,311円となる。
ウ 逸失利益
外傷により、椎間板ヘルニアが発生するのは、脊椎脱臼骨折などの椎体自体が損傷を受ける程の強大な外力による負荷が脊椎にかかり、椎間板も併せて損傷を受ける場合であり、そのような特殊なケースでは、脊柱管内の脊髄神経が損傷し、受傷直後に四肢麻痺や歩行困難等の重篤な症状を発現させるが、本件ではそのような受傷直後の症状はなく、その後も、いわゆる頸椎捻挫の症状を上回る症状は発現していない。原告の頸椎椎間板ヘルニアは、加齢及び職業上の必要から長時間不良姿勢を取り続けていたことによるもので、非外傷性の経年変化による既往症である。よって、本件事故
とは因果関係がないし、仮に因果関係があるとしても、素因減額をすべきである。
本件の後遺障害は、器質的な病変のない頸椎捻挫(ムチ打ち)の神経症状であり、労働能力喪失率は5%を超えないし、喪失期間は長くても3年以内であり、逸失利益は、53万0,374円である。
エ 慰謝料
1年間の通院は過大であり、半年の通院として、通院慰謝料は89万円、後遺障害慰謝料は110万円が相当である。
第三 判断
1 原告の損害額について
(1) 治療費
証拠(略)によれば、原告は、本件事故後、平成22年3月12日の症状固定診断までの間、B病院及びC病院において通院治療(実日数140日)を受け、また、これと並行して、D整骨院に157日間通院して、電気療法、徒手矯正、マッサージ等の理学療法の施術を受け、その治療費として106万6,360円を要したこと、整骨院への通院は、医師にも告げていたが、医師の指示によるものではないこと等が認められ、受診頻度、施術内容その他本件の諸事情を考慮すれば、整骨院における治療費は、その50%(53万3,180円)の範囲で本件事故との因果関係を認めるのが相当である。
なお、被告は、本件の治療期間そのものを疑問視するが、本件事故は、原告運転車両の前方で停車中の車両運転者にも傷害が生じた事案で、衝撃が特に軽かったとはいえないし、その後の治療経過も特に不自然なものとはいえず、治療期間中の原告の就労内容等が治療の長期化に一定の影響を与えた可能性は否定できないとしても、本件の治療期間について、治療の相当性ないし本件事故との因果関係を否定すべき事情があるとは認められない。
(2) 休業損害
ア 証拠(略)によれば、原告は、本件事故当時、E会社の名称でプレス加工業を自営し、本件事故前年(平成20年)の確定申告では、売上が649万7,708円、経費を差し引いた所得が239万8,889円であるところ、自営業者の休業損
害、逸失利益の前提となる基礎収入の算定においては、休業の有無にかかわらず支出を要する固定経費を考慮する必要があり、前記売上から、休業により支出を免れる給料・外注工賃費、租税公課、荷造運賃、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、消耗品費として確定申告に計上された金額を差し引いた515万6,962円とするのが相当である。
原告は、過去3年間の平均値によるべき旨主張するが、原告の売上は平成18年が1,079万8,764円、平成19年が743万0,019円で、次第に減少傾向にあり、約7年前までは人を雇用していたが、内職としての外注になり、それも事故前
には止めていたこと(原告本人)等も考慮すると、過去3年間の平均値による推計を相当とする事情があるとは認められない。
他方、被告は、休業により免れる費用として、さらに、減価償却費の50%、修繕費、福利厚生費、雑費を控除すべきである旨主張するが、しかし、本件のように、完全な休業ではなく、営業そのものは継続しつつ、通院時間の休業や割合的な労働能力喪失の影響を推計するに際して、被告主張の控除をすべきものとは認められない。
イ 次に、原告は、前記のとおり症状固定診断までの間、実日数297日通院しており、通院自体が過剰なものとは認められないことは前記のとおりであるが、原告本人の供述によっても、通院日に丸半日休業していたわけではないこと、休業損害については実所得の減少分を重視すべきであり、本件事故のあった平成21年の前年比の売上減少分186万9,925円を上回るとは考え難いことその他本件の諸事情を考慮すれば、前記年収(1日当たり1万4,128円)を基礎として、通院実日数の4割に相当する167万8,406円が相当である。
(3) 逸失利益
ア 証拠(略)によれば、原告は、本件事故により、頸部痛、上肢の知覚鈍麻(左側が強い)、腰部痛、下肢の知覚鈍麻(左側が強い)、左膝関節痛等、頸部、腰部及び左膝関節にそれぞれ神経症状を残し、併合14級の認定を受けており、前記各後遺障害については、本件事故と相当因果関係あるものと認められる。
被告は、ヘルニアと本件事故との因果関係を争うところ、確かに、本件の椎間板ヘルニアの形成の機序そのものは証拠上明確ではなく、本件事故により形成されたと認定するに足りる証拠はない。しかし、後遺障害等級14級の認定自体が、画像所見上確認できる椎間板の突出が外傷性の異常所見であるとは認められないことを前提としており、本件事故後に発症した神経症状について、本件事故との相当因果関係を否定すべき事情があるとは認められない。また、本件の椎間板ヘルニアの形成について、加齢による経年変化等の要因があるとしても、後遺障害等級14級相当の神経症状と
いう本件の後遺障害との関係で、公平の見地から素因による減額をすべき事情があるとは認められない。
イ 労働能力喪失率については、原告の就労の具体的内容等に関する原告提出の各証拠(略)を考慮しても後遺障害等級14級の一般的な喪失割合である5%を超える喪失率を認めるべき特段の事情があるとまでは認められないが、就労内容からみて、後遺障害による労働能力の低下からの回復は容易ではないものと推認でき、喪失期間については、症状固定時の60歳から一般的な就労期間とされる67歳までの7年間と認めるのが相当である。
ウ そして、前記年収515万6,962円を基礎として、ライプニッツ係数(5.7864)により中間利息を控除すると149万2,012円となる。
(4) 傷害慰謝料
原告の前記受傷内容、通院期間、通院日数のほか、本件事故時、被告は飲酒運転であったことを含む本件事故状況等を総合考慮すれば、傷害慰謝料としては170万円が相当である。
(5) 後遺障害慰謝料
本件の後遺障害の内容、程度その他の諸事情から、後遺障害慰謝料としては110万円が相当である。
2 結論
(1) 前記損害額合計650万3,598円から既払金40万円を控除すると610万3,598円である。
(2) 本件の弁護士費用としては、61万円の範囲で被告に負担させるのが相当である。
(3) よって、原告の請求は、671万3,598円及び本件事故日である平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の範囲で理由がある。
(口頭弁論終結の日 平成23年12月14日)
徳島地方裁判所第2民事部
裁判官 齋木稔久
2審判決
控訴人兼附帯被控訴人(1審被告) 乙山次郎
(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 後藤田芳志
同訴訟復代理人弁護士 市川倫子
被控訴人兼附帯控訴人(1審原告) 甲野一郎
(以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 森 晋介
【主 文】
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
【事実及び理由】
第一 控訴及び附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、金1,274万1,507円及びこれに対する
平成21年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) (2)につき仮執行宣言
第二 事案の概要
1 本件は、平成21年2月24日、控訴人運転の普通乗用自動車が、赤信号で停止中の被控訴人運転の普通乗用自動車に追突し、被控訴人運転の上記車両をさらに前方で停止中の車両に玉突き追突させた交通事故により、被控訴人が、頸部捻挫、腰椎捻挫、左膝打撲、左膝関節捻挫、右肩関節捻挫等の傷害を負い、未払治療費106万6,360円、休業損害347万2,970円、逸失利益351万8,537円、傷害慰謝料250万円、後遺障害慰謝料250万円、弁護士費用115万円の合計1,420万7,867円の損害を被ったとして、控訴人運転車両の運行供用者である控訴人に対し、自賠法3条に基づき、損害額から既払金40万円を控除した1,380万7,867円のうち1,274万1,507円及び不法行為日である平成21年2月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、被控訴人の請求につき各損害項目の一部ずつを認めて一部認容したところ、控訴人が控訴し、被控訴人が附帯控訴した。
2 前提事実、本件の主な争点及び当事者の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第二の1及び2(原判決1頁23行目冒頭から5頁11行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁26行目の末尾に「被控訴人のような事業所得者について、対前年比の売上減少額をもって、休業損害の上限とするのは不合理である。」を加える。
(2) 同4頁15行目の「基礎収入は、」から17行目の「368万7,915円である。」までを「平成20年の時点で、既に被控訴人の事業は衰退傾向にあったから、平成21年の売上げが平成20年と比べて減少していても、本件事故に起因す
ると判断することはできない。加えて、基礎収入は事故前年を基準とすべきであり、基礎収入算定に当たっては、減価償却費、修繕費、福利厚生費、雑費を控除すべきである。したがって、基礎収入は、325万0,717円である。」と改める。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の請求につき、不法行為に基づく損害金671万3,598円及びこれに対する本件事故の日である平成21年2月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。
その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第三の1及び2(原判決5頁13行目冒頭から8頁21行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5頁13行目の「1 原告の損害額について」を次のとおり改める。
「1 本件事故の態様について証拠(略)によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件事故は、酒気を帯びた(呼気1リットル当たり0.45ミルグラムのアルコール量)控訴人が、普通乗用自動車を運転して、時速約55キロメートルで走行し、飲酒の影響で前方不注視のまま道路上を進行中、赤信号のため交差点手前で停止中の被控訴人運転の普通乗用自動車があるのを目前で気づき、ブレーキを踏んだ瞬間、上記自動車に追
突し、控訴人自身、衝突音と共に控訴人運転車両全体に衝撃を受けた。
(2) シートベルトをしていなかった控訴人は、本件事故により体が前方に放り出され、顔の付近をハンドルで打ち、口の中を切り、病院で縫合してもらう傷害を負った。
(3) 本件追突事故の衝撃により、追突後、被控訴人運転車両はブレーキを踏んでいたにもかかわらず約4メートルの車間があった前車に強く衝突し、前車も破損し、その運転手も約1週間の加療を要する頸椎捻挫の傷害を負った。
(4) 本件事故により、控訴人運転車両は前部ボンネットが捲れ上がる損傷を生じ、被控訴人運転車両は、後部バンパー中央部分が大きく凹損し、前部も凹損し、被控訴人運転車両の前車の後部バンパー部分が凹損した。当時、小雨が降っており、路面が濡れていた。
2 被控訴人の損害額について」
2 同5頁24行目の「本件事故は」から26行目の「軽かったとはいえないし、」までを「前記認定のとおり、被控訴人運転車両は、控訴人運転車両に予期せず追突され、さらにその前車に玉突き追突させられたものであって、運転席の被控訴人は、外力によって頭部が加速度運動している最中に、別方向からの外力を受け、十分な防御反応を起こせない状態で不意打的かつ多発的な衝撃を受け、しかも、その衝撃の程度は相当強度であったものと認められる上、」と改める。
3 同6頁17行目の「になり、」から「止めて」までを「になって」と改め、20行目から21行目にかけての「50%」を「全額」と改める。
4 同7頁4行目「11」の次に「、14」を加え、6行目末尾の次に「被控訴人は、被控訴人のような事業所得者について、対前年比の売上減少額をもって、休業損害の上限とするのは不合理であると主張するが、平成20年からの売上減少分を大幅に上回る休業損害が発生したことを認定するに足りる事情は認められない。」を加える。
5 同頁21行目の「要因があるとしても、」の次に「その要因が、本件において治療の長期化や後遺障害の程度に寄与したことが明白とは認め難く、前記認定のとおり本件事故によって被控訴人が多発的で強度の衝撃を受けたこと等も考慮に入れると、」を加える。
6 同頁24行目の「労働能力喪失率については、」の次に「被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を考慮して、判断すべきところ、」を加え、25行目の「考慮しても」を「考慮し、また、自賠責保険における後遺障害等級14級の認定が、頸部、腰部、左膝関節の各神経症状として、各部位につき、個別に複数競合してなされていることを斟酌してもなお、」と改める。
7 同8頁14行目の「2」を「3」と改める。
第四 以上の次第で、被控訴人の請求は、控訴人に対し上記支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成24年5月17日)
高松高等裁判所第2部
裁判長裁判官 金馬健二
裁判官 安達玄豊
裁判官 田中一隆