交通事故で醜状痕が残った場合,後遺障害となりますか
1. 醜状痕が残った場合,それが社会生活に影響すると考えられる2カ所だけ,後遺障害と認定されます。
(1)外貌:頭部,顔面部,頸部のように日常露出する部分に「醜状」(後記)を残す場合
(2)上肢の露出面:ひじ関節以下にてのひらの大きさ(指の部分は含まない。以下同じ。)の醜いあとを残す場合
下肢の露出面:ひざ関節以下てのひらの大きさの醜いあとを残す場合
2. 外貌の「醜状」障害には,
第7級12号として「外貌に著しい醜状を残すもの」,第9級16号として「外貌に相当程度の醜状を残すもの」,第12級14号として「外貌に醜状を残すもの」があります。
第7級12号の外貌における「著しい醜状を残すもの」とは,原則として,次のいずれかに該当する場合で,人目につく程度以上のものをいいます。
(ア)頭部にあっては,てのひら大(指の部分は含まない。)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
(イ)顔面部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
(ウ)頚部にあっては,てのひら大以上の瘢痕
第9級16号の外貌における「相当程度の醜状」とは,原則として,顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で,人目につく・程度以上のものをいいます。
第12級14号の外貌における単なる「醜状」とは,原則として,次のいずれかに該当する場合で,人目につく程度以上のものをいいます。
(ア)頭部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
(イ)顔面部にあっては,10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
(ウ)頚部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕
なお,障害補償の対象となる外貌の醜状とは人目につく程度以上のものでなければならないので,瘢痕,線状痕及び組織陥没であって眉毛,頭髪等にかくれる部分については,醜状として取り扱わないこととなっています。
3. 外貌醜状については、後遺障害等級表の改訂があり,平成22年6月9日より前に発生した事故については、女子につき、外貌に著しい醜状を残すものが7級、外貌に醜状を残すものが12級、男子につき、外貌に著しい醜状を残すものが12級、外貌に醜状を残すものが14級とされていました。
この扱いが男女平等に反するということで改正され,平成22年6月10日以降に発生した事故については、男女の区別なく、外貌に著しい醜状を残すものが7級、外貌に相当程度の醜状を残すもの(新設)が9級、外貌に醜状を残すものが12級とされます。なお,新設された外貌に相当程度の醜状を残すものとは、従前、「著しい醜状を残すもの」として扱われていた、「長さ5センチメートル以上の線状痕」の場合とされましたので、注意が必要です。
なお、平成22年6月9日を境にして等級が変更になるというのは、自賠責の認定の扱いですが、裁判所がどのように考えるかは、従前とあまり変化はないだろうと思います。
4. なお,外貌醜状については、後遺障害等級表の改訂があり、
平成22年6月9日以降に発生した事故について,上記とおり男女間格差が解消されましたが,これまでの判例の傾向は被害者の性別、年齢、職業を考慮した上で、
- 醜状痕の存在のために配置を転換させられたり、職業選択の幅が狭められるなどの形で、 労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合には、労働能力の喪失を肯定して、逸失利益を認める
- 労働能力への直接的な影響は認められないが、対人関係、対社会的側面で、心理的に労働 能力が減退するなど、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれが認められる場合には、後遺障害慰謝料の加算事由として考慮し.概ね100万円ないし200万円程度の額で後遺障害慰謝料を増頗する
- 直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には、慰謝料も基準ど おりとして増額しない
と、いうことになろうかと思います。
5. 女子外貌醜状による逸失利益
①総論
一般的には後遺障害等級が認定されれば等級ごとに労働能力喪失が問題にされるところですが、外貌塊状の場合、直接的には減収を生じたり、労働能力が喪失されることはないと考えられます。そこで逸失利益の考え方につき、差額説をとっても労働能力喪失説をとっても、逸失利益性を肯定できないとの理解から、従来は外貌が職業(減収)に重大な影響を及ぼすホステス、モデル、芸能人等の場合に限って、逸失利益を肯定するという傾向がありました。しかし、近時は、現在の職種、将来の就軌昇進、昇給.昇格及び転職の可能性を含めて労働能力喪失、逸失利益性を考える傾向にあり、醜状痕の存在のために配置を転換させられたり、職業選択の幅が狭められるなど、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合にはこれを肯定するとの理解になってきています。
②逸失利益性は肯定されるか
(a)下肢の醜状痕 以上のような理解からすれば.下肢の醜状痕は.一般的には労働能力に 影響しないことから、逸失利益性が認められないことが多いと思われます。
(b)若年者、幼少児については、醜状痕が人格形成や学業への取組に影響し、また、若年者 は、就職時期にある場合は勿論、キャリアが未熟なうちは転職の可能性にも影響する ことから就労にあたっての労働能力に影響が生じていると考えられ、逸失利益性を 肯定することができると思われます。
(c)高齢者、専業主婦 反面.以上のような考え方によると、専業主婦や、職を持たない 高齢者については、後述するように慰謝料で斟酌するとしても、労働能力への直接的 な影響は考えられないから、逸失利益性は否定されることが多いかもしれません。
③労働能力喪失率
このように、逸失利益性が肯定されたとしても、7級で56%、12級で14%の労働能力喪失が認定されることは少ないと思われます。多くの例では、その3分の2から3分の1程度の喪失を認めるにとどまっています。
④労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、就労可能期間としての67歳まで認められることは少ないと思われます。
6. 女子外貌醜状による慰謝料
外貌醜状による逸失利益を認めている場合は,等級どおりの金額を認めている例が多いと思われます。
この点、労働能力には直接影響はないが、対人関係、社会生活を営むうえでの心理的な影響から労働能力が減退する等、間接的な影響が生じている場合があると思われます。そのような場合に、直接逸失利益を認めるということをしないで,この点を慰謝料で斟酌するということが行われることがあります。
以上のように、慰謝料で斟酌が認められるとして、金額はどのように考えられているのかですが、醜状の点については、障害等級に従った金額に100万円から200万円を増額している例が多いです。
7. 男子の外貌醜状について
外貌醜状については、後遺障害等級表の改訂があり.男女間格差が解消されたことは既に述べたとおりです。今後は、男子についても、女子と同様に、逸失利益が肯定される場合が多くなってくるかは、今後の裁判例の動向を確認する必要がありますが、この改訂は、京都地裁平成22年5月27日(判夕1331-107)障害補償給付支給処分取消請求事件判決で、「著しい外貌醜状」について男女に差を設けていた労働者災害補償保険法施行規則別表第1に定める障害等級表の合憲性が争われ、男女の差別的取扱が違憲と判断されたことが契桟となりました。そうだとすれば、男子についても逸失利益が肯定される場合が多くなってくると予想されます。