【判決要旨】
①原告車両がガソリンスタンドから道路へ出るため第一車線上に車両先頭を突き出して停車していたところに走行してきた被告車が衝突した事案につき、事故は被告車の注意義務違反によるものが大きいが、原告車にも進行車両の動性を注視していれば衝突を回避することが可能だったとして、過失割合を原告1割、被告9割とした。
②自覚症状のない腰椎椎間板ヘルニアを有し、11級脊柱変形障害を残す48歳男子の素因減額につき、事故の衝撃は相当程度重大であり、椎間板ヘルニアの発症に強く影響したと考えられることから、既往症による素因減額を否認した。
③11級7号脊柱変形障害、14級9号下肢痛等の併合11級後遺障害を残す、個人で建設業を営む48歳男子原告の後遺障害逸失利益算定につき、原告1人で現場作業を行っていることから、その報酬はすべて労働の対価と認められると基礎収入は480万円とし、67歳までの15年間20%の労働能力喪失により認めた。
東京地裁 平成26年4月23日判決
事件番号 平成24年(ワ)第34983号 損害賠償請求事件
【主 文】
1 被告は、原告に対し、2,352万7,222円及びこれに対する平成18年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
被告は、原告に対し、3,855万9,349円及びこれに対する平成18年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が運転する自動車と被告が保有・運転する自動車との交通事故により損害を被ったとして、原告が、被告に対し、民法709条(人身損害に関する部分について、選択的に自動車損害賠償保障法3条)に基づき、損害賠償を求める事案である。
1 前提事実(項目の末尾に証拠番号等を記載した以外は当事者間に争いがない事実)
(1) 交通事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
ア 発生日時 平成18年9月7日午前1時40分ころ
イ 発生場所 東京都品川区<地番略>
ウ 関係車両 原告が運転する普通乗用自動車(登録番号略。以下「原告車両」という。)と被告が保有し、運転の普通乗用自動車(登録番号略。以下「被告車両」という。)
エ 事故態様 原告が、原告車両を運転し、路外のガソリンスタンドから国道a号線(以下「本件道路」という。)に進入するため、本件道路の第1車線上に頭を出して停車していたところ、本件道路をb方面からc方面に向かって走行してきた被告車両が、原告車両に衝突した。
(2) 原告は、本件事故により、少なくとも頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、本件事故後、次のとおり、医療機関に入院又は通院して治療を受けた(かっこ内は入院日数又は実通院日数である)。その費用及びこれに伴う薬代は、合計143万9,316円である。
ア 入院 B大学病院
平成20年7月30日から同年9月21日(54日)
イ 通院
(ア) 医療法人社団Cクリニック(以下「Cクリニック」という。)
平成18年9月7日から平成22年12月22日(887日)
(イ) D病院
平成18年9月11日(1日)
(ウ) Eリハビリステーション
平成18年9月28日から平成20年1月26日(13日)
(エ) F病院
平成19年9月7日(1日)
(オ) G店
平成20年2月15日から同月16日(2日)
(カ) B大学病院
平成20年2月26日から平成22年9月8日(78日)
(キ) Hクリニック
平成22年7月1日から同年12月21日(93日)
(3) 本件事故による原告の傷害は、遅くとも平成22年12月22日までに症状が固定した。その後、原告は、平成23年8月29日付で、脊柱の変形障害について、慢性腰痛を含め自賠法施行令別表第2第11級7号に、左下肢痛、左下肢しびれ等の症状について同別表第2第 14級9号にそれぞれ該当する後遺障害であり、同別表併合第11級との認定を受けた。
(4) 原告は、本件事故による損害の填補の趣旨で、次のとおり支払を受けた。
ア 平成18年9月14日から平成21年8月31日までの間、J協同組合から治療関係費として183万8,609円
イ 平成23年8月31日、自賠責保険から後遺障害の保険金として331万円
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 過失割合
(被告の主張)
本件事故は、道路外から道路に進入するために左折した原告車両と直進車である被告車両の事故であり、また、本件事故現場は幹線道路である。これらを考慮すれば、原告の過失割合は85%を下らない。
(原告の主張)
原告が停車して待機していた行為は適切であり、原告には本件事故について何ら過失はない。
(2) 素因減額
(被告の主張)
原告の脊柱変形障害には、既往症である腰椎椎間板ヘルニアないし腰椎の変形が寄与しており、5割の素因減額がされるべきである。
(原告の主張)
原告の腰椎椎間板ヘルニアは本件事故より前には存在しなかった。また、原告が本件事故当時、無自覚性のヘルニアを患っていたとしても、本件事故は既往症がない者でもヘルニアを発症するほど強いものであること、原告の年齢等に照らし、本件事故がなければヘルニアを発症しなかった可能性が高いこと等から、素因として斟酌すべきでない。
(3) 損害及びその額
別紙損害一覧表の当事者の主張額及び主張欄記載のとおり(なお、同一覧表の認否欄について、「△」は「不知」、「×」は「否認ないし争う」との趣旨である。)
第三 争点に対する判断等
1 争点(1)(過失割合)について
(1) 前提事実(1)のほか、証拠及び弁論の全趣旨(各項目の末尾に証拠番号を記載した。)によれば、次の事実が認められる。
ア 本件道路は、片側3車線の道路であり、その第1車線の幅は2.9メートルである。また、本件事故現場から歩道を挟んだ南西側にはガソリンスタンドがある。上記ガソリンスタンド前の歩道は、本件道路と接続する部分がスロープ状に切り下げられており、その南西側には本件道路沿いに幅13.5メートルに亘って植え込みが存在する。
イ 原告は、上記ガソリンスタンドで給油した後、ヘッドライトを点灯させた上で、上記スロープ状の部分を通って本件道路に進入し、本件道路の第1車線中央付近に原告車両の先頭部分を進入させた当たりで原告車両を停車させた。原告は、右側を確認したところ、約35㍍先の第2車線上を被告車両が進行してくるのが見えた。
ウ 被告は、本件道路の第2車線を品川駅方面に向かって進行していたところ、本件事故現場の約41㍍手前の地点に至るまでに、進路左前方の第1車線上に原告車両が停車しているのが視認可能な状況となった。しかし、被告は、原告車両に気付くことなく、かつ、合図も出さずに、時速約60㌔㍍の速度でそのまま左側に寄るように進行して第1車線に進入し、本件事故現場の手前約5.3㍍の地点に至って原告車両を発見したものの、原告車両との衝突を回避できず、原告車両の右前部角と被告車両の左前部角が衝突した。
(2) 以上の事実によれば、被告は、被告車両を運転して本件道路を進行するに当たり、進路前方を注視し、安全を確認して進行すべき注意義務があったのにこれを怠り、十分にこれを回避可能な地点で発見できた停車中の原告車両について、本件事故の直前に至るまで気付かず、漫然と第1車線に進入して本件事故を発生させたものであり、その過失は重大である。
他方、原告についても、路外のガソリンスタンドから本件道路に進入するに当たり、右方からの進行車両の有無やその動静を注視し、安全を確認して進行すべき義務があるところ、これを尽くしていれば、本件道路の中程まで進入して停車する前に、第2車線から左に寄るように進行してくる被告車両を発見し、被告車両が合図をしていなかったとしても、これとの衝突を回避することも可能であったというべきである。
以上からすれば、本件事故について原告と被告の双方に過失があり、その過失割合は、上記当事者双方の過失の内容に照らし、原告1割、被告9割と認めるのが相当である。
(3) 被告は、被告が車線変更をしたのと原告が本件道路に進入したのはほぼ同時であり、これを基礎として、本件道路が幹線道路であること等を考慮の上、原告の過失割合は8割5分以上であると主張する。しかし、上記認定のとおり、被告が本件事故現場の約41メートル手前の地点に来た時点で、原告車両は既に本件道路の第1車線上に停車しているところ、被告の主張する事故態様を認めることはできない。よって、被告の主張は、その基礎を欠くから、採用できない。
また、自己に過失がないとする原告の主張についても、上記に照らして採用できない。
(4) 以上からすれば、被告は、民法709条又は自動車損害賠償保障法3条により、上記過失割合に応じた範囲で、それぞれ対応する原告の損害について賠償する責任を負う。
2 争点(2)(素因減額)について
(1) 上記認定事実のほか、証拠及び弁論の全趣旨(各項目の末尾に証拠番号を記載した。)によれば、次の事実が認められる。
ア 原告車両は、時速約60キロメートルで進行してきた被告車両との衝突によりはね飛ばされ、その左前部がガードレールに衝突した。その際、原告は、意識がもうろうとした状態となるほどの衝撃を受けた。
イ 本件事故及びその後のガードレールとの衝突により、原告車両の前部フロントバンパー等は、146万円以上の修理費を要する損傷を受けた。
ウ 本件事故以前から原告のL4/5腰椎には自覚症状がない椎間板ヘルニアが存在したが、本件事故により同腰椎椎間板にヘルニアが発症した。一般的に、自覚症状のない椎間板ヘルニアの患者のうち、実際に発症に至るのは5%程度である。
(2) 以上の認定事実に照らせば、本件事故による衝撃は相当程度重大であり、原告が受けた外力の作用も強かったと認められ、これが椎間板ヘルニアの発症に強く影響したと考えられる。また、本件事故より前に原告が罹患していた椎間板ヘルニアは、本件事故がなければ発症に至る可能性が低かったことがそれぞれ認められる。これらからすれば、原告の既往症が椎間板ヘルニアの発症に影響を与えた可能性は否定できないものの、その影響の程度は小さいというべきであり、損害の公平な分担等の観点に照らして、上記既往症を理由に素因減額を行うのは相当とはいえない。
よって、原告の既往症を理由に素因減額をすべきとする被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(損害及びその額)について
(1) 治療費について
ア F病院の治療費3万1,950円については、当事者間に争いがない。また、D病院への通院は本件事故の4日後であるところ、本件事故と相当因果関係のある通院と認める。
イ 上記認定事実のほか、証拠(略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 原告は、本件交通事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫のほか、L4/5腰椎椎間板ヘルニアが発症する傷害を負った。
(イ) 原告は、本件事故後、頸椎捻挫、腰椎捻挫と診断され、前提事実(2)
イ(ア)ないし(オ)の通院治療を受けた。また、Cクリニックについては、原告は、同病院の丙川三郎医師の指示に基づいて通院し、牽引等の治療や内服薬の処方を受け、疼痛が徐々に軽減した。丙川三郎医師は、平成19年10月ころ、原告について、治療による改善効果は見込めず、同年12月を症状固定時期と判断していた。
(ウ) 原告は、B大学病院において、腰部椎間板ヘルニアと診断され、腰椎不安定の治療のため手術が相当と判断された。原告は、平成20年8月1日、同病院でL4/5腰椎の固定手術を受け、同年9月21日、同病院を退院した。
(エ) 原告は、B大学病院を退院後、継続して腰部の疼痛を訴え、同病院のほか、Cクリニック、Hクリニックに通院し、治療を受けた。その間、原告の腰部の疼痛は改善傾向を示し、B大学病院の医師及び丙川三郎医師は、平成22年2月ころの
時点でそのように判断していた。
(オ) 原告は、同年12月22日付で、症状固定と診断された。
ウ 上記認定事実に照らせば、原告の本件事故による受傷により腰部椎間板ヘルニアが発症し、腰椎の固定手術が必要となったと認められる。他方、原告は、平成19年12月ころ、一旦は症状に変化がなくなっていたが、腰椎固定手術の施行後、他の治療と相俟って症状の改善が見られ、平成22年12月22日までこれが続いていたと認められる。
これらからすれば、原告の症状固定時期は上記同日と認められる。また、上記同日までのB大学病院、Cクリニック、Eリハビリステーション、Hクリニックの入院又は通院治療は、本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。
被告は、本件事故による原告の傷害は、腰椎の固定手術が本件事故と相当因果関係を有するとしても、遅くとも平成21年2月には症状固定に至っていたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、採用できない。また、被告は、Cクリニックの通院治療は過剰である旨を主張するが、上記認定のとおり、同クリニックへの通院治療は医師の指示に基づくものであること、通院による疼痛の改善効果があり、必要性も肯定できることに照らして採用できない。
エ また、原告が主張するG店の通院は、検査目的であると推認されること、必要性の点について被告が具体的に反論、反証しないことに照らし、本件事故と相当因果関係がある通院と認める。
オ 以上からすれば、前提事実(2)の入院又は通院治療は、本件事故と相当因果関係を有すると認められる。そして、薬代を含めたその治療費は合計で143万9,316円であるところ、同額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(2) 入院雑費について
上記のとおり、原告のB大学病院への入院(54日)は、本件事故と相当因果関係を有する治療と認められる。
そして、同入院に伴う雑費として、1日当たり1,500円を相当と認める。これらから、54日分の入院雑費として、下記計算式のとおり、8万1,000円を相当と認める。
(計算式)
1,500円×54=8万1,000円
(3) 通院交通費について
上記のとおり、前提事実(2)の通院は、本件事故と相当因果関係があると認める。そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告はこれらの通院のために合計66万7,140円を要したと認められるところ、同額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(4) 将来の手術費について
原告は、腰椎不安定症にて腰椎固定手術を施行済みであるが、将来内固定材抜去の手術をしなければならないと主張し、証拠として診断書を提出する。
しかし、上記各証拠は、その内容に照らし、原告について、将来固定材の抜去手術を受ける必要性があることを裏付けるものではなく、これを認めるに足りない。他に本件全証拠に照らしても、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。よって、原告が主張する将来の手術費について、本件事故と相当因果関係を有する損害と認められない。
(5) 休業損害について
ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故まで約30年にわたり個人で建設業を営んでいたが、平成18年6月8日にK株式会社(以下「本件会社」という。)を設立し、その代表取締役に就任したこと、本件会社の設立以降、従業員を雇用せず、原告一人で従前と同様に現場作業を含む内装業務、監督業務を行っていたこと、本件会社設立の際、自らの報酬を40万円と定め、同月から平成19年6月までは同額を支給されていたが、同年7月以降、毎月20万円に変更し、平成22年12月まで同額を支給されていたことが認められる。
以上の事実に照らせば、原告の事故前の収入は月額40万円であり、労務の対価であると認められる。そして、平成19年6月までは同額の支給を受けているから、休業による損害があったとは認められない。
他方、上記認定及び証拠(略)によれば、原告は、本件事故後、平成22年12月22日まで継続的に入院又は通院治療を受けており、本件事故による傷害及びその治療のための入通院により業務を休む必要があったこと、平成19年7月以降の支給額が1月あたり20万円減少したことは、原告の休業による売り上げの減少等によることがそれぞれ認められる。これらに照らし、平成19年7月から平成22年12月までの42月間の休業損害として、下記計算式のとおり840万円を休業損害と認める。
(計算式)
20万円×42=840万円
イ 原告は、平成15年から平成17年まで平均680万1,365円の収入があったと主張し、これを基礎として、本件事故後、同額の収入を得られたはずであるなどと主張し、これに副う内容の確定申告書を提出する。
しかし、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成18年4月に税務署の調査を受けたが、それまで税務申告をしたことがなかったこと、税務署との協議の結果、3年分を納税することとなり、税務署から金額が記載された上記確定申告書案を渡され、これに署名等をしたものであり、上記確定申告書は必ずしも原告が保管管理していた資料に基づいて作成されたものでないことがそれぞれ認められる。このような上記確定申告書の作成経緯に照らせば、上記確定申告書の内容が、原告の収入状況を正確に反映するものであるとは認め難い。このことと、原告が、平成17年以前の収入を裏付ける帳簿類の資料を何ら証拠提出せず、原告の主張内容を裏付ける客観的証拠がないことを併せて考慮すれば、原告が平成17年以前にその主張する収入を得ていたとは認められない。よって、原告の上記主張は採用できない。
その他、上記認定に反する当事者の主張は、いずれも採用できない。
(6) 後遺障害逸失利益について
ア 基礎収入について
上記のとおり、原告は本件事故の前年は個人で建設業を営んでいたこと、本件会社の設立時に報酬を月額40万円と定め、本件事故前後を通じて同額の支給を受けていることに照らせば、本件事故前から少なくとも上記月額収入があったと推認できる。よって、原告の後遺障害逸失利益算定に当たり、基礎収入を年額480万円と定める。
被告は、本件事故により原告に減収が生じていないなどと主張するが、上記のとおり、原告の収入は労務対価であること、平成19年7月以降、本件事故による休業等の影響により報酬が減少していることに照らし採用できない。
イ 労働能力喪失率について
前提事実(3)によれば、本件事故により原告は慢性腰痛を含めた脊柱の変形障害、下肢痛、左下肢しびれ等の症状の各後遺障害を負ったこと、これらについて、それぞれ別表第2第11級7号、別表第2第14級9号に該当すると認定されたことがそれぞれ認められる。
上記に照らして、原告の上記後遺障害による労働能力喪失率は20%と認める。
ウ 労働能力喪失期間について
証拠(略)によれば、原告(昭和33年2月生)は、本件事故による症状固定日(平成22年12月22日)当時52歳であることが認められるところ、原告の労働能力喪失期間は15年(対応するライプニッツ係数10.3797)と認める。
エ 以上からすれば、原告の後遺障害逸失利益は、下記計算式のとおり、996万4,512円であると認める。
(計算式)
480万円×0.2×10.3797=996万4,512円
(7) 傷害慰謝料について
本件事故による原告の傷害内容、前提事実(2)の入通院期間に照らし、315万円が相当である。
(8) 後遺障害慰謝料について
上記認定した原告の後遺障害の内容、認定された等級等に照らし、420万円が相当である。
(9) 物損について
証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告車両の時価は146万円であったこと、原告車両は本件事故により大破し、経済的全損となったこと、原告が、本件事故後、原告車両を移動するためのレッカー代として3万2,550円を負担したこと、原告が原告車両に代わる車両を購入し、自動車税2万7,700円、自動車取得税8万7,000円を含め、買い替えに伴う費用として20万5,730円を負担したことがそれぞれ認められる。
これらからすれば、原告車両の車両価額146万円及びレッカー代3万2,550円は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。また、買い替えに伴う費用のうち、自動車税及び自動車取得税はその性質上原告自身が負担すべきものであるから本件事故と相当因果関係のある損害とは認められないが、その余は本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
以上より、合計158万3,580円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(10) 過失相殺後の原告の損害について
以上からすれば、弁護士費用を除いた、過失相殺前の本件事故による原告の損害額は合計2,948万5,548円であると認められる。そして、本件事故における過失割合は原告1割、被告9割と認められるところ、これに従って過失相殺を行う。そうすると、過失相殺後の原告の損害は、2,653万6,993円(うち物損142万5,222円)であると認められる。
(11) 損益相殺的調整後の損害額について
前提事実(4)の支払は、本件事故による原告の人損を填補する性質のものであると認められる。そして、原告は、本件事故時の損害額元本から上記支払を控除する方法により算出した額を填補後の損害額と主張し、被告らはその方法について格別争わないところ、同支払についての損益相殺的調整は上記原告主張の方法により行うのが相当と認められる。
これに従って原告の人損について損益相殺的調整をすると、弁護士費用を除いた、本件事故による損益相殺的調整後の損害は、2,138万8,384円であると認められる。
(12) 弁護士費用について
原告が本件訴訟の追行を原告訴訟代理人らに委任したことは明らかである。そして、本件の難易度を勘案すると、上記過失割合に応じた弁護士費用相当額は123万8,838円と認める。
(13) まとめ
以上からすれば、本件事故による原告の損害は2,352万7,222円である。
第四 結論
以上によれば、原告の請求は、同額及びこれに対する平成18年9月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所
裁判官 俣木泰治
(別紙)損害一覧表
1 治療費
原告主張額 1,439,316円
原告の主張 原告の入通院は、すべて本件事故と相当因果関係がある。よって、これら入通院費用に、薬代14万4,630円を加算した193万9,316円は本件事故と相当因果関係がある損害である。
認否 ×
被告主張額 31,950円
被告の主張 F病院の治療費3万1,950円は認めるが、その余は不知であり、それら入通院にかかる治療の必要性があったとは認められない。原告の椎間板ヘルニアの手術が本件事故と相当因果関係を有するとしても、症状固定日は平成21年2月である。またCクリニックへの通院は、過剰な通院を含むものである。
裁判所認定額 1,439,316円
2 入院雑費
原告主張額 81,000円
原告の主張 1,500円/日、54日間
認否 △
被告主張額 0円
裁判所認定額 81,000円
3 通院交通費
原告主張額 667,140円
原告の主張 ①Cクリニック59万8,220円、②Eリハビリステーション4,960円、③F病院100円、④G店1,100円、⑤B大学病院2万3,700円、⑥Hクリニック3万9,060円 合計66万7,140円
認否 ×
被告主張額 100円
被告の主張 F病院の100円は認める。その余は不知。仮にB大学病院の手術によって症状が改善したとしても、通院交通費は平成21年2月までの2万0,600円の限度である。
裁判所認定額 667,140円
4 将来の手術費
原告主張額 200,000円
原告の主張 腰椎不安定症にて腰椎固定手術を施行済みであるが、将来内固定材抜去の手術をしなければならず、それに20万円を要する見込みである。
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 腰椎不安定症は本件事故の後遺症ではなく、将来の治療費も本件事故と相当因果関係がない。また、将来内固定材抜去の手術をすべき必要性は明らかでない。
裁判所認定額 0円
5 休業損害
原告主張額 14,047,537円
原告の主張 収入日額1万6,779円に休業日数1568日を乗じたものから、休業期間中の実収入1,226万1,935円を控除した1,404万7,537円 16,779×1568-12,261,935=14,047,537
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 本件事故後に作成された確定申告書に信用性はなく、基礎収入は否認。期間について、本来の症状固定日以降の治療は本件と相当因果関係はないし、また、通院日についても1日全部を休業すべき必要性はない。
裁判所認定額 8,400,000円
6 後遺障害逸失利益
原告主張額 14,119,225円
原告の主張 基礎収入年収680万1,365円/年、労働能力喪失率20%、労働能力喪失期間15年(対応するライプニッツ係数10.3797)6,801,365×0.20×10.3797=14,119,225
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 減収の事実は否認。仮にあったとしても全部が本件事故と因果関係が
ない。労働能力喪失率、期間も原告主張の内容は否認。
裁判所認定額 9,964,512円
7 傷害慰謝料
原告主張額 3,150,000円
原告の主張 入院54日、通院64月
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 否認ないし争う。
裁判所認定額 3,150,000円
8 後遺障害慰謝料
原告主張額 4,200,000円
原告の主張 420万円が相当である。
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 本件事故による後遺障害は11級に満たないものであり、争う。
裁判所認定額 4,200,000円
9 物損
原告主張額 1,698,280円
原告の主張 車両損害146万円、レッカー費用3万2,550円、車の買い換え
諸費20万5,730円
認否 ×
被告主張額 0円
被告の主張 否認ないし争う。
裁判所認定額 1,583,580円
10 合計
原告主張額 39,602,498円
認否 ×
被告主張額 32,050円
裁判所認定額 29,485,548円
11 過失相殺後の損害
原告主張額 39,602,498円
原告の主張 原告に過失はない。
認否 ×
被告主張額 0
被告の主張 原告の過失割合8割5分以上
裁判所認定額 26,536,993
12 損益相殺的調整
原告主張額 5,148,609円
認否 ○
被告主張額 5,148,609円
裁判所認定額 5,148,609円
13 填補的調整後の損害合計
原告主張額 34,453,889円
認否 ×
被告主張額 0円
裁判所認定額 21,388,384円
14 弁護士費用
原告主張額 4,100,000円
認否 ×
被告主張額 0円
裁判所認定額 2,138,838円
最終的な損害合計
原告主張額 38,553,889円
原告の主張 ただし、請求元本は、撤回された雑費1,250円、通院交通黄の一部4,210円を含まれた3,855万9,349円である。
認否 ×
被告主張額 0円
裁判所認定額 23,527,222円