【判決要旨】
①道路を横断中の54歳男子原告が左折乗用車に衝突され、10級右膝動揺関節及び12級13号左足関節痛等の併合9級後遺障害を残したとする事案につき、「原告の右膝前十字靱帯損傷及び半月板損傷は本件事故により発生したと認められる」と認定し、原告の右膝は、「本件事故による右膝の不安定性により、左膝に比較して、その可動域が4分の3以下に制限される状態になったと認められる。また、靱帯手術後も、原告は右膝に疼痛及び不安定性を感じており、杖や装具を使用していることからすれば、原告の右膝については、可動域制限及び関節の動揺性を合わせて自賠法施行令別表第二12級に相当すると評価すべきである」と12級後遺障害を認めた。
②後遺障害認定につき、左足の後遺障害は、「骨欠損という他覚的所見に裏付けられており、その程度も短下肢装具を着用するほどであることからすれば、原告の左足痛という後遺障害は、自賠法施行令別表第二12級13号に相当するというべきである」として、「原告の後遺障害については、右膝につき自賠法施行令別表第二12級7号、左足関節痛につき同12級13号に相当すると認められるから、全体としては同併合11級に相当する」と併合11級後遺障害を認定した。
③54歳男子飲食店経営の原告の休業損害につき、原告は、「少なくとも入院中は自ら店に出て稼働することはできなかったと認められるが、原告の妻及び雇用していた板前の働きにより営業を続けることができていた。また、最終的に本件居酒屋が廃業したのも、原告の不在というよりは雇用していた板前の体調不良によるところが大きかったと考えられる。本件居酒屋が開業していた間に原告が得た利益額は不明というほかないが、原告の年齢に対応した平均賃金額等に照らすと、原告が本件居酒屋開業以前に得ていた年額420万円(日額1万1,506円)の所得を得ていたとして休業損害を算定することにも一応の相当性が認められる。ただし、休業損害について同額を基礎年収とするとしても、上記事故後の開店状況や廃業理由、症状固定以前も原告が装具を使用することにより歩行可能だったことなどに照らし、本件事故日から症状固定日までの646日間に相当する金額のうち、平均して4割の限度で本件事故と相当因果関係を認めるのが相当である」と認定した。
④原告妻の駐車車両の影から道路横断した原告と被告乗用車の衝突につき、「本件駐車車両が駐車されていた位置が交差点から5メートル以内であったことからすれば、原告の妻には、駐車してはならない場所に駐車させた過失がある。本件駐車車両により、被告の左前方の視界が妨げられ、原告の発見が遅れたということができるから、上記過失が本件事故の発生に寄与したということもできる。原告と原告の妻は身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にあるといえるから、上記原告の妻の過失につき、原告側の過失として過失相殺をすべきである」とし、「被告の過失の内容及び上記に認めた原告及び原告の妻の過失の内容に加え、原告が被告車両の直前に出てきたこと、東西道路と南北道路の幅に差はあるが、広い東西道路でも幅は8メートルしかないこと、事故発生日時は9月下旬の午後7時頃であったものの、事故現場に電照や街灯もあることからすれば、夜間であることを理由に原告の過失を大きくみるのは妥当でないこと、原告は電照を確認しようと外に出てきたに過ぎないことからすれば、いわゆる飛び出しのような速い歩行速度ではなかったと考えられること等の事情に照らし、2割の過失相殺を相当と認める」と原告に2割の過失を認定した。
大阪地裁 平成27年7月10日判決(確定)
事件番号 平成25年(ワ)第1444号 損害賠償等請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1959号
(平成28年2月11日掲載)
判 決
原告 甲野一郎
同訴訟代理人弁護士 御厩高志
被告 乙山次郎
被告 Y保険会社
同代表者代表取締役 丙川三郎
上記両名訴訟代理人弁護士 古川幸伯
【主 文】
1 被告乙山次郎は、原告に対し、674万4,444円及び内653万5,173円に対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y保険会社は、原告の被告乙山次郎に対する第1項の判決が確定したときは、原告に対し、674万4,444円及び内653万5,173円に対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
1 被告乙山次郎は、原告に対し、2,564万9,549円及び内2,544万0,278円に対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y保険会社は、原告の被告乙山次郎に対する第1項の判決が確定したときは、原告に対し、2,564万9,549円及び内2,544万0,278円に対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、歩行中の原告と、普通乗用自動車を運転していた被告乙山次郎(以下「被告乙山」という。)との間に発生した交通事故により損害が発生したとして、原告が、同被告に対し、不法行為(民法709条又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条)に基づく損害賠償及びこれに対する不法行為日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、同被告が自動車保険契約を締結していた保険会社である被告Y保険会社(以下「被告保険会社」という。)に対し、上記自動車保険契約に基づき、保険金の直接支払及びこれに対する事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
1 前提となる事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠から容易に認められる。
(1) 事故の発生
以下の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
発生日時 平成22年9月21日午後7時00分頃
発生場所 大阪府寝屋川市<地番略>
本件事故発生場所付近は、東西方向の道路(幅8.0メートル。以下「東西道路」という。)に南北方向の道路(幅5.0メートル。以下「南北道路」という。)が南から接続した丁字路交差点になっている(以下「本件交差点」という。)。
当事車両 普通乗用自動車(被告乙山保有、運転。以下「被告車両」という。)
事故態様 本件交差点を左折した被告車両と歩行中の原告が接触した。
(2) 本件事故当時、被告乙山が、被告車両の運行供用者であり、自賠法3条に基づく損害賠償責任を負うことに争いはない。
(3) 被告乙山は、本件事故当時、被告保険会社との間において、以下の自動車保険契約を締結していた(以下「本件保険契約」という。)。
同保険契約には、被保険者が被害者に対し法律上負担する損害賠償責任の額が判決等により確定したとき、被害者が被告保険会社に対し、同額の支払を直接請求できる旨の規定がある。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(事故態様、過失相殺)
(原告の主張)
ア 事故態様
原告は、本件交差点南東角にあるマンションから南北道路に出て、同道路をゆっくりとした速度で横断しようとしたところ、東西道路から南北道路に左折してきた被告車両に、南北道路中央で衝突した。被告乙山は、衝突するまで原告の存在に気づいて
いなかった。
イ 過失相殺について
上記事故態様によれば、本件事故につき、被告乙山には、前方不注視等の過失がある。
原告は、道路をゆっくり横断しており、飛び出しではない。
本件交差点付近に駐車されていた車両(以下「本件駐車車両」という。)は、原告の妻の車両ではあるが、原告は同車両から降車して本件事故にあったのではない。また、衝突位置は南北道路の中央であり、同車両は被告車両の視界を妨害しておらず、原告の妻は本件事故に関し不法行為責任を負わないから、この点につき過失相殺をすべきでない。
東西道路は、南北道路の1.6倍の幅があり明らかに広いということができる。事故発生時刻は夜間ではあるが、事故現場は照明が多く明るかったから、歩行者の発見は容易であり、夜間であることにより過失割合を被告側に有利に修正すべきではない。また、本件事故現場付近は店舗の密集する地域であり、車両は歩行者に注意して走行すべきである。
(被告らの主張)
ア 事故態様
被告車両は、東西道路を西進し、本件交差点を南に左折しようとした。被告車両が別紙図①地点に来たとき、本件駐車車両が同図【A】地点に駐車されていた。そこで、被告乙山は、被告車両の左折合図を出した上で、大回りして左折した。左折を完了し、被告車両が本件駐車車両の西側を通過しようとしたところ、同駐車車両の南側の陰から原告が南北道路に飛び出し、同道路を横断しようとした。同被告はブレーキをかけて回避しようとしたが回避できず、本件事故が発生した。なお、被告車両は速度が時速5㌔メートル未満だったため、ブレーキ後1.2メートル進んだのみで直ちに停止した。本件駐車車両は原告の妻が駐車したものであり、原告は同車両から降車後の横断であった。
イ 過失相殺
被告乙山の過失につき認める。
上記アで主張した事故態様によれば、本件事故発生につき、原告にも、本件駐車車両の陰から飛び出した過失がある。また、原告の妻は本件駐車車両を、交差点の側端又は曲がり角から5メートル以内に駐車しており、道路交通法44条2号に違反した過失がある。原告の妻は、原告と身分上及び生活関係上一体をなすから、同妻の過失は原告側の過失として考慮されるべきである。
原告側の上記各過失がいずれも重大であること、東西道路と南北道路の幅は広路狭路とはいえないこと、本件事故発生時刻が夜間であることに鑑みれば、5割の過失相殺をすべきである。
(2) 争点2(損害)
(原告の主張)
ア 傷害、治療経過
原告は、本件事故により、両膝、右足及び左手の打撲、左拇指靱帯損傷、左足関節捻挫、右膝内障、右膝内側半月板後角断裂、右膝前十字靱帯部分断裂並びに左足関節部距骨一部骨壊死化等の傷害を負い、同各傷害の治療のため、以下のとおり入通院した。
B病院
平成22年9月21日から同月22日まで通院(実通院2日)
Cクリニック(以下「Cクリニック」という。)
平成22年9月24日から平成24年6月22日まで通院(実日数257日)
D大学病院(以下「D大学病院」という。)
平成22年11月4日から平成23年1月31日まで入院(89日間)
平成22年10月21日から平成24年6月27日まで通院(実日数122日)
イ 後遺障害の有無程度
(ア) 原告には、右膝可動域制限(自賠法施行令別表第二12級7号)、歩行時膝くずれする、右膝動揺関節(中程度動揺性、同準用10級)、左足関節部距骨一部骨壊死による左足関節痛(同12級13号)の後遺障害が残存した。
症状固定日は、右膝関節については平成23年11月28日、左足関節については平成24年6月27日である。
(イ) 右膝動揺関節について
原告は、本件事故以前には膝に障害がなく、膝くずれの症状もなかった。原告は本件事故の約11ヶ月前に両膝打撲等の傷害によりB病院を受診したが、レントゲン画像上変形性膝関節症ではなく、その後通院もしなかった。
手術時に見られた前十字靱帯断裂の瘢痕は本件事故によるものである。手術は本件事故の52日後に実施されており、その間に傷が瘢痕化したものである。したがって、半月板損傷も本件事故により生じたものである。
右膝動揺関節の動揺性の程度は著しく、硬性用具を使用し、1本杖を使用しないと歩行できない状態である。
(ウ) 左足関節痛について
原告の左足関節痛は、左足関節部の距骨の一部骨壊死による骨欠損が原因である。疼痛が強度であり、労働支障性があり、かつ疼痛の原因が他覚的に証明されているから、自賠法施行令別表第二12級13号相当というべきである。
(エ) 素因減額に対する反論
原告は、本件事故以前に膝に障害を有しておらず、膝くずれの症状もなかった。膝に関する治療歴もない。
原告は、本件事故当時、右4指(第2ないし第5指)欠損により身体障害者4級の認定を受けていたが、日常生活等に不自由はなかった。
ウ 損害額
(ア) 治療費 215万3,383円
(イ) 装具費 15万4,269円
(ウ) 入院雑費 13万3,500円
入院日数89日につき日額1,500円。
(エ) 通院交通費 2万0,220円
(オ) 付添介護費 113万4,000円
原告は、右膝等を受傷しており、運転することが困難であったため、入通院には原告の妻が付き添った。通院実日数及び入退院日の合計378日につき、日額3,000円。
(カ) 休業損害 743万2,876円
事故前年の年収420万円(日額1万1,506円)を基礎に、本件事故発生日から症状固定日までの646日間休業したものとして算定すべきである。
本件事故は、原告が居酒屋(以下「本件居酒屋」という。)を開業した約1ヶ月後の事故であり、その後3ヶ月で廃業したことからすれば経営実績は乏しく参考とならない。
(キ) 後遺障害逸失利益 1,380万8,445円
原告は、本件事故による上記後遺障害により、平均余命の2分の1にあたる13年間、35%労働能力を喪失した。本件事故前年の年収420万円を基礎に逸失利益を算定すべきである。
(計算式)
420万×0.35×9.3935(13年に対応するライプニッツ係数)=1,380万8,445
(ク) 開店準備費用 150万3,340円
原告は、飲食店の開店準備に上記金額を費やしたが、本件事故により営業不能となったため、3ヶ月営業した後廃業した。したがって、上記開店準備費用は、本件事故による損害である。
(ケ) 将来の装具費 78万3,755円
原告は、上記後遺障害のため、将来にわたり、左短対立装具、右膝硬性装具、金属杖及び短下肢装具を使用する必要がある。各装具の耐用年数に応じた買換えも必要である。
a 単価
左短対立装具 8,961円
右膝硬性装具 10万8,871円
金属杖 6,825円
短下肢装具 1万4,162円
b 耐用年数(買換回数、対応するライプニッツ係数)
左短対立装具、右膝硬性装具、金属杖 3年(8回、5.377047)
短下肢装具 2年(13回、8.012285)
(コ) 入通院慰謝料 266万6,800円
入院約3ヶ月、通院期間18.56ヶ月に相当する慰謝料。
(サ) 後遺障害慰謝料 670万円
自賠法施行令別表第二9級相当の後遺障害に対する慰謝料。
(シ) 既払金
a 被告保険会社 929万8,533円
b 自賠責保険金 224万円
ただし、自賠責保険金相当額に対する本件事故日から自賠責保険金支払日である平成24年8月3日までの遅延損害金に先に充当される。
(ス) 弁護士費用 231万2,753円
(被告らの主張)
ア 傷害、治療経過について
原告が、原告主張の傷害を負っているという診断を受けた事実は認める。原告の入通院の事実は認める。
イ 右膝関節の後遺障害について
(ア) 原告に認められる右膝関節の障害は、右膝半月板損傷がその原因である。しかし、右膝半月板損傷は本件事故によって発生したものではないから、上記障害は本件事故と因果関係がない。これを裏付ける主な理由は以下のとおりである。
原告の右膝半月板損傷は、平成22年10月20日頃、変性断裂し、その結果原告は転倒した。
本件事故で原告は転倒しておらず、被告車両の速度も低速だったことからすれば、本件事故は軽微な接触であり、同事故により半月板が断裂することはあり得ない。
本件事故直後に原告は痛みを訴えておらず、事故後1ヶ月間の症状推移を見ても半月板損傷時に見られるような症状はなかった。
(イ) 右膝前十字靱帯部分断裂は陳旧性の既存障害であり、本件事故により発生したものではない。主な理由は以下のとおり。
転倒もしていない軽微な本件事故によって、前十字靱帯を損傷するとは考え難い。
事故直後には痛みの訴えもなく、血腫も確認されなかった。
平成22年11月12日に行われた手術所見では、前十字靱帯付着部に古い断裂と思われる瘢痕が見られている。本件事故による損傷とすれば、上記手術時期は亜急性期に当たるから「古い断裂」とされるはずがない。前十字靱帯損傷の瘢痕は2年経過したものでも残存する。
D大学病院の医師が、原告の既往症があるとしているところ、これは陳旧性の前十字靱帯断裂を指していると考えられる。
前十字靱帯損傷は変形性膝関節症に至るという自然経過をたどるところ、原告は、本件事故以前に変形性膝関節症の診断を受けている。
(ウ) 仮に、本件事故が、平成22年10月20日頃の変性断裂の原因の一部になっているとしても、上記(ア)(イ)と同様の理由により、大幅な素因減額をすべきである。
ウ 左足関節痛の後遺障害について
原告は、症状固定後に別事故で左膝や左拇指を受傷している。よって、本件事故により、左足の傷害や後遺障害が生じたことには疑問がある。
エ 損害額について
(ア) 治療費 否認する。
少なくともD大学病院に入院した平成22年11月4日以降の治療費は右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。
(イ) 装具費 否認する。
装具は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。特に硬性装具は本件事故と因果関係がない。
(ウ) 入院雑費 否認する。
入院は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。
(エ) 通院交通費 否認する。
少なくとも平成22年11月4日以降の治療は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。
(オ) 付添介護費 否認する。
平成22年10月中旬に転倒する以前における原告の傷害は、両膝、右足及び左手の軽い打撲のみであったから、通院付添の必要性はない。
上記転倒以降についても、原告は歩行できており、運転も可能だったはずであるから、通院付添の必要性はない。また、同転倒以降の治療は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。
(カ) 休業損害 否認する。
原告の主張する基礎収入は、原告が会社員として給与収入を得ていたときのものである。本件事故当時、原告は居酒屋を自営していたから、同自営業の実収入をもとに休業損害は算定されるべきである。
休業期間についても、原告は平成22年10月中旬の転倒までは休業していない。同転倒後の休業については、上記(ア)と同様の理由により因果関係がない。
(キ) 後遺障害逸失利益 否認する。
原告には、本件事故に基づく後遺障害がないから、逸失利益は否定されるべきである。
基礎収入については上記(カ)で主張したとおりである。
(ク) 開店準備費用 否認する。
(ケ) 将来の装具費 否認する。
装具は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷の治療のためのものであり、本件事故と因果関係がない。特に硬性装具は本件事故と因果関係がない。
(コ) 入通院慰謝料 否認する。
少なくとも平成22年11月4日以降の治療は、もっぱら右膝前十字靱帯断裂及び半月板損傷のためのものであり、本件事故と因果関係がない。同日以前までの通院期間をもとに、通院慰謝料は30万円程度が相当である。
(サ) 後遺障害慰謝料 否認する。
原告には、本件事故と相当因果関係のある後遺障害がないから認められない。
(シ) 既払金
既払額については認める。
(ス) 弁護士費用 否認する。
第三 当裁判所の判断
1 争点1(事故態様、過失相殺)について
(1) 認定事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の各証拠、並びに原告本人及び被告乙山本人の各尋問結果(ただし、いずれも信用できない部分を除く)から認められる。
ア 本件事故現場の状況
本件事故現場付近の状況は、前記前提となる事実(1)で認めたほか、概ね別紙現場の見分状況書(以下「別紙図」という。)のとおりとなっている。
南北道路の西側にはフィットネスクラブが入る建物があり、同建物に沿って歩道が設けられている。同道路の東側にはコンクリートのふたがされた側溝があり、道路端から約1メートルのところに白線がひかれ、道路端と同白線との間のスペースには、立看板が置かれ、自転車が駐輪されるなどしている。同東側の建物(Eマンション。以下「本件建物」という。)の1階には店が並んでおり、電照看板が点在している。また、同道路の両脇には街灯が設置されている。
原告は、本件建物1階において、本件居酒屋を営んでいた。
(2) 本件事故当時の状況
本件事故当時、本件交差点の東側角の隅切りの南北道路側の端あたり(別紙図【A】地点)に、原告の妻がワゴンタイプの自動車を駐車していた。同駐車場所のすぐ南には、本件建物の出入口があった。原告は、同出入口から、本件駐車車両の前(南側)を通って、南北道路に出ようとした。
被告乙山は、南北道路の西側にあるフィットネスクラブを利用するため、被告車両を運転し、東西道路を西進し、本件駐車車両を避けるように大回り気味に本件交差点を左折した。
被告車両が本件駐車車両の西側を通過しようとして、別紙図③地点に差し掛かった際、被告車両の前部左側と原告が接触した。
(3) 過失相殺
被告乙山には、前方を注視して自動車を走行させる注意義務に違反した過失がある(争いがない)。
上記に認定した事故態様によれば、原告にも、南北道路に出る際に、同道路を走行する車両の有無動向に注意すべき義務に違反した過失があると認められる。
また、本件駐車車両が駐車されていた位置が交差点から5メートル以内であったことからすれば、原告の妻には、駐車してはならない場所に駐車させた過失がある(道路交通法44条2号)。本件駐車車両により、被告乙山の左前方の視界が妨げられ、原告の発見が遅れたということができるから、上記過失が本件事故の発生に寄与したということもできる。原告と原告の妻は身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にあるといえるから、上記原告の妻の過失につき、原告側の過失として過失相殺をすべきである。
被告乙山の過失の内容及び上記に認めた原告及び原告の妻の過失の内容に加え、原告が被告車両の直前に出てきたこと、東西道路と南北道路の幅に差はあるが、広い東西道路でも幅は8メートルしかないこと、事故発生日時は9月下旬の午後7時頃であったものの、事故現場に電照や街灯もあることからすれば、夜間であることを理由に原告の過失を大きくみるのは妥当でないこと、原告は電照を確認しようと外に出てきたに過ぎないことからすれば、いわゆる飛び出しのような速い歩行速度ではなかったと考えられること等の事情に照らし、2割の過失相殺を相当と認める。
2 争点2(損害)について
(1) 認定事実
当事者間に争いのない事実、掲記の各証拠(略)及び原告本人尋問結果(ただし、信用できない部分を除く)から、以下の事実が認められる。
ア 本件事故以前の通院治療歴
原告は、昭和31年3月生まれの男性である。原告は、平成21年10月14日、歩きすぎて両膝が痛いとして、B病院を受診した(証拠(略)には「両膝痛(-)ナシ」との訳が付けられているが、カルテの記載及び文脈から考えると(+)と読み取るのが適切と考えられる)。原告は膝のレントゲン検査を受けた。レントゲン検査の結果に異常が見られなかった(証拠(略)には、「手術OK」との訳が付けられているが、カルテの字体、その後原告が通院していないこと等から考えると、原告が指摘するとおり、「Xp(レントゲン画像)OK」と読み取るのが適切と考えられる。)。
イ 本件事故後の治療経過
(ア) B病院
原告は、本件事故当日、B病院を受診し、両膝、右足及び左手の打撲と診断された。両膝について、圧痛があり、膨潤はなし、動作に問題はなかった。同月22日にも受診したが、歩行は問題なかった。
(イ) Cクリニック
原告は、本件事故の3日後である平成22年9月24日、Cクリニックを受診し、左母指痛(証拠(略)の2ページには「左第3指」との訳が複数あるが、同ページ内の「痛みあり「左母指」との記載や診断書の記載と明らかに矛盾する。訳者が「thumb(母指)」を「third(第3)」と誤解した可能性が高い。)、両膝関節痛及び左足関節痛を訴えた。ラックマンテストは±だった。
原告は、その後平成23年11月29日までCクリニックに通院し、左手のリハビリテーション及び左足関節への消炎鎮痛等処置等を受けた(実通院日数合計257日)。
(ウ) D大学病院
原告は、平成22年10月21日、D大学病院を受診し、1週間前に膝くずれにて転倒した旨を申告するとともに、右膝痛、左膝及び左足首痛、左母指基部痛を訴えた。右膝には腫脹、水腫感があった。プンク(穿刺)して約25㍉㍑の血腫を抜いた。レントゲン検査に異常はなかったが、医師は半月板損傷を疑い、以降Cクリニックにおいて膝のリハビリはしないよう指示した。
同月27日には右膝のMRI検査が実施され、内側半月板が中節から前角に断裂していると診断された。丁山医師は、同断裂につき、完全断裂ではなく部分断裂であると診断した。
原告は、同年11月4日、右膝半月板損傷の手術目的で入院した。
原告は、同月12日、関節鏡手術を受けた。同手術において、内側半月板後角に断裂像が見られた。前十字靱帯付着部には瘢痕が見られ、手術を担当した丁山医師は、古い断裂と考えた。同医師は、半月板断裂部、上記前十字靱帯断裂瘢痕部及び滑膜を可及的に切除した。
原告は、平成23年1月31日まで入院し、その間リハビリなどを行った。退院時には全屈曲で疼痛あるも、可動域はほぼ全可動だった。歩行も安定していた(入院日数89日)。
原告は、退院後も、平成23年2月2日から平成24年6月27日まで同病院に通院した(手術前も含む実通院日数は122日)。
(エ) 原告は、平成23年12月から平成24年4月3日まで、F整骨院に通院した。
ウ 装具について
(ア) 装具の一般的説明
下肢装具は、下肢の機能障害に対し、立位の保持(関節固定)、変形の予防及び矯正、不随意運動の抑制、体重の支持並びに免荷等を目的として用いられる。膝装具は、大腿から下腿に及ぶもので、膝関節の動きを制御する装具である。両側支柱、硬性、軟性(支柱なし)及び軟性(支柱あり)等がある。
(イ) 原告の装具着用歴(右膝)
原告は、平成22年11月4日、右膝軟性装具を購入した。
原告は、平成22年11月5日、右膝伸展位でなんとか独歩可能な状態であり、杖を使用すると歩容が上がる状態だった。
同月12日に手術が行われた後、創部(右膝)を弾性包帯で固定した状態で、同月13日には原告は、歩行器では歩行が安定したが、膝屈曲には困難がともなった。その後リハビリの過程で原告は疼痛を訴えていたが、同月30日には、装具を付けると痛みがましであると述べている。しかし、その後は退院に至るまで松葉杖(片方)及び杖以外の装具の話は出ていない。
原告は、平成23年2月4日、杖を購入した。
D大学病院の丁山医師は、平成24年3月9日、原告は軟性装具を使用していると回答した。
原告は、遅くとも平成24年8月6日頃には、右膝に硬性装具を装着していた。
(ウ) 原告の装具着用歴(左手)
原告は、遅くとも平成24年3月12日までに、左短対立装具を購入した。
(エ) 原告の装具着用歴(左足)
原告は、遅くとも平成24年5月10日までには、左足関節用の短下肢装具を購入した。
エ 後遺障害診断
D大学病院の丁山医師は、平成23年11月28日、原告の右膝につき、内側半月板の断裂及び前十字靱帯の部分断裂、右膝関節は屈曲が他動100度、自動95度(左膝は自動他動とも140度)であり、硬性装具を使用した上1本杖を使用しないと膝くずれで歩行できず、右膝関節に中程度の動揺性がある状態で症状固定したと診断した。右膝の前方引き出しテストは±だった。また、左手にも疼痛が残存する状態で症状固定したと診断した。
丁山医師は、平成24年6月27日、原告の左足関節につき、レントゲン上は明らかな病変が認められないが同年5月9日のMRIでは左距骨の一部に壊死がみられ、同年6月27日のCTでは同部分に骨欠損が見られたとして、左足関節痛を残す状態で症状固定したと診断した。
オ 自賠責保険における後遺障害認定手続
(ア) 原告は、事前認定手続において、右膝関節可動域制限について、右膝装具及び1本杖を使用しないと膝くずれするなどの情報をふまえた上、内側半月板損傷が認められること及び可動域が4分の3以下に制限されていることなどを理由に自賠法施行令別表第二12級7号に該当すると判断された。
左足関節については、同関節部画像上、本件事故による所見に乏しいこと等を理由に、後遺障害には該当しないと判断された。
(イ) 原告は、上記認定に対し、異議を申し立てたが、右膝については、可動域が2分の1以下にまでは制限されていないこと、右膝MRI画像を検討しても常時膝装具の装着を必要とするような明らかな動揺性を裏付ける靱帯断裂等の客観的所見がないこと等を理由に、前回の判断が維持された。左足についても、前回の判断が維持された。
(ウ) 原告は、損害保険料率算出機構に対し、被害者請求も行ったが、上記異議申立ての際と同様の理由により判断は維持された。
(エ) 原告は、D大学病院において、平成24年6月27日付け後遺障害診断書及び同年8月18日付け後遺障害診断書を得て再度異議申立手続をした。損害保険料率算出機構は、上記後遺障害診断時点で左足距骨部に変化が見られたことを前提としながらも、それ以前のレントゲン画像に外傷性の変化が見られないこと等を理由に、同距骨部の変化が本件事故によるものであることを否定した上で、左足関節痛につき、局部に神経症状を残すものとして自賠法施行令別表第二14級9号に該当すると判断した上で、右膝及び左手については従前の判断を維持し、併合12級と判断した。
カ 右膝に関連して問題となる医学的知見
(ア) 半月板
半月板(半月ともいう。)は、内側及び外側の脛骨関節面の辺縁部を覆う繊維軟骨組織で、辺縁が楔状に厚くなっており関節接触面の安定性を増大させ、荷重を分散、吸収する機能を持つ。
(イ) 膝前十字靱帯損傷
バスケットボールなどのスポーツ競技で飛び上がった後着地したとき、走っていて急に方向を変えようとしたとき、あるいはスキーで軸足となった側の膝関節に前方引き出し力が作用したとき、前十字靱帯は単独損傷を生じやすい。半月損傷は40%ないし60%に合併する。受傷時、激痛とともに断裂音を体感することが多い。数時間以内に関節が著しく腫脹し、関節血症を認める。陳旧例ではジャンプや急な方向転換を要するスポーツで膝くずれを繰り返す。放置例では関節軟骨が傷つき、変形性膝関節症に発展する。半月損傷を合併した症例ではその傾向が強い。
断裂した靱帯は安静固定が維持できれば約2週間で修復されていく。膝装具を用いて保護的運動をするなどの方法をとらない場合でも、2、3ヶ月で修復されていく。具体的には、傷ついた靱帯などから出血した血液が繊維化して固まり、そこに結合組織の線維芽細胞が活躍して瘢痕組織を形成する。瘢痕は修復に伴い縮小していく。瘢痕が存在する時期(仮修復時期)は、本来の靱帯が持つ柔軟性や関節支持力よりも劣るため、わずかな外力でも捻挫を再発しやすい時期である。靱帯損傷後、6週目までに瘢痕繊維の形成は活発になり、その後7週目ないし8週目には外見上は普通になり、12週目までには再建靱帯が再生される。
靱帯損傷(捻挫)は第1度から第3度までに分類される。第1度は靱帯の一部線維の断裂で、関節包は温存されている。第2度は靱帯の部分断裂で、関節包も損傷されることが多い。ときには線維が引き伸ばされた状態になることもありうる。第3度は靱帯の完全断裂で、関節包断裂を伴う。第1度では自発痛、圧痛、軽度の腫脹と疼痛による運動制限を認めるが、関節血症はない。第2度ではさらに関節血症、軽度の異常可動性を認める。第3度になると、第2度の症状の全てが強く、特に異常可動性すなわち関節の不安定性が特徴的である。
膝前十字靱帯損傷を放置すると、同靱帯機能不全によるスポーツ中の膝くずれ現象を繰り返すことにより機能不全はさらに悪化する。さらに半月板の損傷が続発又は悪化し、関節面の損傷も加わって、関節機能低下の悪循環を来たし、最終的に外傷性膝関節症に至る例もある。同靱帯損傷からの期間が長いものほど半月板損傷の合併率が高くなる。靱帯再建術までに6ヶ月以上かかった男性では2週間以内だったグループに比べ半月板損傷の発生率が1.5倍というデータもある。
(ウ) 変形性膝関節症
変形性膝関節症は、関節軟骨の変性を基盤とした非炎症性の疾患である。
キ 左足痛に関連して問題となる医学的知見
距骨滑車骨軟骨損傷は、足関節捻挫により生じることが多い。距骨滑車の内側縁又は外側縁に生じ、骨折骨片に対する血行が途絶えるために母床との骨癒合が得られにくい。
(2) 本件事故と相当因果関係のある後遺障害の内容程度
ア 右膝について
(ア) 事故と因果関係のある後遺障害の有無内容
まず、本件事故は、歩行中の原告に被告車両が衝突したという態様の事故であり、衝突速度が低速だったとしても、予測していない衝突を受けた原告自身の身体の動きにより、原告の右膝にジャンプの際の着地や急激な方向転換に類似した力が加わることは十分考えられる。
次に、手術の際に発見された靱帯損傷の瘢痕については、上記に認定した医学的知見によれば、受傷後3日後から6週目にかけて瘢痕が形成されることからすれば、本件事故時に発生した靱帯損傷について瘢痕化が進んでいたものと考えれば矛盾しない。本件事故以前に原告が右膝前十字靱帯損傷又は半月板損傷の診断ないし治療を受けたとは認められない。たしかに、B病院のカルテには、平成21年10月頃、原告が変形性膝関節症との診断を受けた記載があるが(上記(1)ア)、レントゲン上問題がないとされており、診察日以降も同関節症について1度も治療が行われていないことからすれば、原告が当時、真に変形性膝関節症に罹患していたかは疑わしいといわざるを得ない。むしろ、上記に認定した本件事故以前における原告の治療歴からは、原告の右膝には、膝くずれを発症するほどの靱帯損傷又はこれに関連する疾患はなかったことがうかがわれる。
さらに、上記に認定した治療経過をみても、本件事故により右膝の前十字靱帯が部分的に損傷したものの、靱帯損傷そのものに対する再建術などの治療が施されないまま約1ヶ月が経過したために膝くずれが発生し、その結果半月板も損傷したと考えれば、上記の医学的知見が示す症状経過と合致する。
以上によれば、原告の右膝前十字靱帯損傷及び半月板損傷は本件事故により発生したと認められる。
(イ) 後遺障害の程度
原告の右膝は、本件事故による右膝の不安定性により、左膝に比較して、その可動域が4分の3以下に制限される状態になったと認められる。また、靱帯手術後も、原告は右膝に疼痛及び不安定性を感じており、杖や装具を使用していることからすれば、原告の右膝については、可動域制限及び関節の動揺性を合わせて自賠法施行令別表第二12級に相当すると評価すべきである。
この点、原告は、原告が右膝につき硬性装具を使用していること等を理由に同10級に相当すると主張する。しかし、本件手術においては、半月板の断裂部が可及的に切除され、靱帯損傷瘢痕部が可及的に切除されたが、靱帯再建術は実施されていない。これは、靱帯損傷が部分的にとどまっていたことを意味する。また、手術後退院時までにリハビリにおいては杖を使用しての歩行が可能な状態にまで回復しており、その後も一定の時期までは軟性装具が使用されていた。さらに、後遺障害診断書においても、動揺性の程度を測る右膝の前方引き出しテストは±にとどまっている。これらの事情に鑑みると、原告が外出の際に自主的に常に硬性装具を付けていたとしても、原告の右膝については、重労働などの際以外には硬性装具までは必要としない状態と評価でき、同10級に相当するとまでいうことはできない。この点に関する上記原告の主張は採用できない。
イ 左足について
(ア) 後遺障害の有無内容
本件事故態様及び本件事故直後から原告が左足の疼痛を訴えていたことからすれば、原告は、本件事故により左足を捻挫したと認められる。
原告の左足には、遅くとも平成24年5月9日時点において、距骨骨折により骨折部の骨が壊死した結果である骨欠損があったと認められる。たしかにそれ以前のレントゲン画像には明らかな病変は認められていないが、レントゲンよりもMRIの方がより詳細な検査が可能であることからすれば、骨欠損が存在したが、レントゲンでは発見できなかった可能性も否定できない。距骨骨折は足の捻挫により発症することが多いという上記医学的知見及び原告が一貫して左足痛を訴えていることをふまえれば、上記骨欠損は、本件事故による左足捻挫に伴い発生したものと推認できる。したがって、同骨欠損は本件事故と相当因果関係が認められる。なお、平成22年10月の膝くずれの際に原告が再度左足を捻挫した可能性は否定できないが、同膝くずれが本件事故により発生したことは前記認定判断のとおりであるから、上記認定判断を左右するものではない。そうすると、原告の左足痛は本件事故と相当因果関係がある後遺障
害であり、その後遺障害診断がなされた平成24年6月27日に症状固定したと認められる。
この点、被告らは、本件事故後の別事故が原因である旨主張する。たしかに、丁山医師の回答には、平成23年11月28日以降の治療に関し、左膝痛及び左母指痛があったとして、「2月中旬に転倒したとのこと」との記載がある。しかし、左膝については原告も後遺障害として主張していない上、上記転倒の発生及びこれによる左下肢の負傷を裏付ける証拠はほかにないこと等からすれば、証拠(略)のみをもって、上記判断を覆すことはできないというべきである。
(イ) 後遺障害の程度
上記のとおり、骨欠損という他覚的所見に裏付けられており、その程度も短下肢装具を着用するほどであることからすれば、原告の左足痛という後遺障害は、自賠法施行令別表第二12級13号に相当するというべきである。
ウ 以上のとおり、原告の後遺障害については、右膝につき自賠法施行令別表第二12級7号、左足関節痛につき同12級13号に相当すると認められるから、全体としては同併合11級に相当するものとして損害額を算定すべきである。
(3) 損害額
ア 治療費 215万3,383円
上記に認定した事実によれば、原告の右膝及び左足等に対する治療費は全て本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。証拠によれば、同治療費は上記金額と認められる。
イ 装具費 15万4,269円
上記に認定した事実によれば、右膝の硬性装具も、原告の膝の障害の程度からすれば、使用頻度は多くないながらも必要かつ相当なものと認められる。その他の装具についても、上記に認定した原告の傷害及び後遺障害によれば、必要かつ相当なものと認められる。よって、上記金額を本件事故と相当因果関係のある装具代と認める。
ウ 入院雑費 13万3,500円
上記認定によれば、原告の入院治療(89日)は全て本件事故と相当因果関係が認められる。入院日数につき、日額1,500円の入院雑費を損害として認める。
エ 通院交通費 2万0,220円
上記認定判断をふまえると、原告が主張する通院はいずれも本件事故と相当因果関係が認められる。したがって、同通院に要した上記金額を本件事故による損害と認める。
オ 付添介護費 113万4,000円
上記認定のとおり、本件事故により原告は歩行機能に関する傷害を負ったと認められるから、妻が通院に付き添う必要性相当性が認められる。実通院日数及び入退院日の合計378日につき、日額3,000円を相当な付添看護費と認める。
カ 休業損害 297万3,150円
(ア) 本件事故以前の就労状況
原告は、平成22年3月頃まで、貿易会社に勤務していた(原告本人尋問結果)。平成21年における原告の収入は給与収入420万円だった。
原告は、同月頃、上記貿易会社を退社し、同年8月頃、本件居酒屋を開店した。本件居酒屋で提供する料理は原告が雇用した板前が作り、原告がそのほかの作業をすることになっていた(原告本人尋問結果)。
(イ) 本件事故後の就労状況
原告は、本件事故後も、雇用した板前の働き及び原告の妻の手伝いにより本件居酒屋の営業を続けたが、遅くとも平成23年10月末までの間に、板前が体調を崩したこともあり、廃業した(原告本人尋問結果)。
(ウ) 上記に認定したとおり、原告は、少なくとも入院中は自ら店に出て稼働することはできなかったと認められるが、原告の妻及び雇用していた板前の働きにより営業を続けることができていた。また、最終的に本件居酒屋が廃業したのも、原告の不在というよりは雇用していた板前の体調不良によるところが大きかったと考えられる。本件居酒屋が開業していた間に原告が得た利益額は不明というほかないが、原告の年齢に対応した平均賃金額等に照らすと、原告が本件居酒屋開業以前に得ていた年額420万円(日額1万1,506円)の所得を得ていたとして休業損害を算定することにも一応の相当性が認められる。ただし、休業損害について同額を基礎年収とするとしても、上記事故後の開店状況や廃業理由、症状固定以前も原告が装具を使用することにより歩行可能だったことなどに照らし、本件事故日から症状固定日までの646日間に相当する金額のうち、平均して4割の限度で本件事故と相当因果関係を認めるのが相当である。
(計算式)1万1,506×646×0.4=297万3,150
キ 逸失利益 789万0,540円
前記(2)で認定判断したとおり原告の後遺障害は自賠法施行令別表第二併合11級と認められるところ、原告は、上記カと同様の収入額を基礎として、平均余命の2分の1に当たる13年間につき、20%労働能力を喪失したものとして逸失利益を算定するのが相当である。
(計算式)420万×0.2×9.3935=789万0,540
ク 開業準備費用 認められない。
前記(2)で認めた後遺障害の内容に照らし、原告が本件居酒屋を経営することがおよそ不可能になったということはできない。また、原告が本件居酒屋を閉店したのは、雇用していた板前の体調不良によるところも大きいことからすれば(原告本人尋問結果)、本件居酒屋の閉店が本件事故と相当因果関係のあるとは認められず、開業準備費用について、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
ケ 将来の装具費 73万5,571円
前記(2)で認定した右膝及び左足の後遺障害の内容程度に照らせば、将来の右膝硬性装具、杖及び左足短下肢装具は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。他方、左短対立装具(左短立位装具)は、左手に関するものであるところ、左手について後遺障害が残存したとの主張もなく、これを認めるに足りる証拠もないことからすれば、将来にわたり同装具が必要であるとは認められない。
右硬性装具(10万8,871円)及び金属杖(6,825円)については、耐用年数が3年であるところ、原告は症状固定時に56歳、平均余命は26年である。上記イで認めた装具が症状固定時から3年後まで使用可能であるとすると、残りの平均余命は23年であり、8回の買換えが必要である。短下肢装具(1万4,162円)については、耐用年数が2年であるから、13回の買換えが必要になる。よって、本件事故と相当因果関係のある装具代は以下のとおりと認められる。
(10万8,871+6,825)×5.377047=62万2,102
1万4,162×8.012285=11万3,469
コ 入通院慰謝料 266万円
原告の約3ヶ月の入院及び約18ヶ月半の通院はいずれも本件事故と相当因果関係が認められるところ、同入通院期間等に鑑み、上記金額を本件事故と相当因果関係のある入通院慰謝料として認める。
サ 後遺障害慰謝料 400万円
シ 以上合計 2,185万4,633円
ス 過失相殺(2割)後合計 1,748万3,706円
セ 損益相殺
(ア) 被告保険会社による支払 929万8,533円(争いなし)
上記金額を本件事故日に遡り損害元本から控除すると、残額は818万5,173円となる。
(イ) 自賠責保険金 224万円(争いなし)
自賠責保険金は、まず同保険金受領日までの遅延損害金に充当することができるところ、この方法により算定される請求可能額よりも、原告の選択する、自賠責保険金相当額を損害元本から差し引いた元本(及びこれに対する本件事故日から支払済みまでの遅延損害金)に、同保険金相当額に対する事故日から自賠責保険金受領日までの遅延損害金を加える方法により算定される金額のほうが下回ることから、原告の主張する計算方法を採用する。
まず、上記(ア)の残額から自賠責保険金を控除した残額は594万5,173円となる。
ソ 弁護士費用 59万円
上記損益相殺後の損害額、事案の内容、訴訟経過その他本件に現れた一切の事情に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として上記金額を認める。
タ セ及びソの合計 653万5,173円
チ 確定遅延損害金相当額 20万9,271円
上記セで判断したとおりの理由により、原告が受領した自賠責保険金224万円に対する事故日(平成22年9月21日)から自賠責保険金支払日(平成24年8月3日)までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金相当額である上記金額を損害に加えるのが相当である。
ツ 総合計 674万4,444円
3 結論
以上によれば、原告の請求は、上記2(3)ツの金額及び内上記2(3)タの金額に対する本件事故日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成27年6月2日)
大阪地方裁判所第15民事部
裁判官 相澤千尋