原付自転車と衝突の61歳女子自転車は斜めに渋滞車両の間を抜けての横断に4割の過失認めた
【判決の要旨】
原告自転車と被告原付自転車の衝突の過失割合につき、車道を「斜め横断し、渋滞車両の間を抜けて歩道に乗り上げようとした」原告が、被告と出合い頭衝突したとして「原告にも4割の過失」を認定。月額70万円を主張する61歳女子カラオケ店経営の収入認定につき、「供述を信用することができず」センサス女子学歴計全年齢平均を基礎とすると認定。
大阪地裁 平成21年4月23日判決(確定)
事件番号 平成19年(ワ)第11540号 損害賠償請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1820号
(平成22年4月22日掲載)
判 決
原告 甲野花子
同訴訟代理人弁護士 河野 豊
被告 乙山次郎
同訴訟代理人弁護士 御厩高志
【主 文】
1 被告は、原告に対し、金932万4,778円及びこれに対する平成15年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、主文第1項に限り、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
被告は、原告に対し、3,000万円及びこれに対する平成15年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、その運転する足踏式自転車(以下「原告車両」という。)と、被告が運転する原動機付自転車(以下「被告車両」という。)が出会い頭に衝突するという事故(以下「本件事故」という。)によって、損害を被ったと主張して、損害の賠償を請求する事案である。
1 争いのない事実等
(1) 以下の内容の本件事故が発生した。
ア 発生日時 平成15年6月5日 午前7時10分ころ
イ 発生現場 大阪府東大阪市<地番略>先路上(以下「本件道路」という。)
ウ 原告車両 足踏式自転車 運転者 原告
エ 被告車両 原動機付自転車(ナンバー略) 運転者 被告
(2) 原告は、本件事故の結果、左膝脛骨外側顆部関節面陥没及び粉砕骨折並びに腰椎挫傷の傷害を負い、関節機能障害、左下肢筋力低下及び腰痛の後遺障害が残存した(争いがない。)。
(3) 自賠責保険は、原告の後遺障害について、9級に相当するものと認定し、原告の損害を填補するために616万円を支払った(争いがない。)。
また、被告は、原告に対し、治療費として127万4,627円及び5万5,480円を、並びに休業損害として100万円及び一時金として300万円を支払った(争いがない。)。
2 争点
(1) 事故態様及び過失割合
(被告の主張)
原告は、歩道から路外にでるために、道路の渋滞車両の間を抜け、斜めに横断しようとしたところ、西行き道路の左側を直進していた被告車両と出会い頭に衝突した。本件事故の態様からすれば、原告の本件事故に関する過失割合は、5割を下らないというべきである。
(原告の主張)
原告は、歩道に乗り上げようとしてほぼ停止していたところに、左前方の歩道から車道に出ようとした被告に衝突された。本件事故の態様からすれば、原告の本件事故発生に関する過失割合は、1割に満たないというべきである。
(2) 原告の後遺障害の程度
(原告の主張)
原告の後遺障害は、上記争いのない事実記載の関節機能障害、左下肢筋力低下及び腰痛に加え、原告の下肢は、健側よりも患側が1.5センチメートル短縮しており、1下肢を1センチメートル以上短縮したものである13級8号に相当する後遺障害が残存しており、原告の後遺障害は、併合8級に相当するというべきである。
(被告の主張)
原告の下肢が1.5センチメートル短縮しているとの事実は争う。原告に残存する後遺障害の程度は9級にとどまるものというべきである。
(3) 損害論
(原告の主張)
ア 入院雑費 27万5,800円
原告は、本件事故の結果、平成15年6月5日から平成15年12月18日までの197日間の入院治療を余儀なくされた。よって、入院雑費としては27万5,800円が相当である。
(計算式)
1,400円×197=27万5,800円
イ 通院交通費 39万3,300円
ウ 休業損害 1,563万円
原告は、本件事故当時、カラオケ店を経営しており、1ヶ月当たり70万円の純利益を得ていたところ、本件事故日である平成15年6月5日から症状固定日である平成17年4月14日までの680日間、休業を余儀なくされた。よって、原告には、1,586万6,666円の休業損害が発生したが、その一部である1,563万円を休業損害として請求する。
(計算式)
70万円÷30×679=1,586万円
エ 後遺障害逸失利益 2,686万7,484円
原告に残存する後遺障害は、上記のとおり併合8級というべきであり、労働能力喪失率は45%というべきである。また、原告の労働能力喪失期間は9年が相当である。よって、原告の後遺障害逸失利益は2,686万7,484円が相当である。
(計算式)
70万円×12×0.45×7.1078(9年間のライプニッツ係数)=2,686万7,484円
オ 入通院慰謝料 312万円
原告は、本件事故の結果、平成15年6月5日から平成15年12月18日までの197日間の入院治療及び平成15年12月19日から平成17年4月14日まで(実通院日数340日間)の通院治療を余儀なくされた。
よって、原告の入通院慰謝料は312万円が相当である。
カ 後遺障害慰謝料 830万円
原告に残存する後遺障害は併合8級であり、後遺障害慰謝料としては830万円が相当である。
キ 弁護士費用 400万円
ク まとめ
原告の損害額の合計は、5,858万6,584円であるところ、上記のとおり、原告の本件事故における過失割合は1割が相当であるというべきであるから、原告の損害額は5,272万7,925円である。よって、原告はその一部である3,000万円及び本件事故日である平成15年6月5日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
ア 入院雑費について
争う。日額1,300円で算定されるべきである。
イ 通院交通費について
否認する。原告は、知人に好意で送迎してもらっていたものであり、通院交通費としての損害は発生していない。
ウ 休業損害について
否認する。原告の所得には裏付けがなく、平成17年賃金センサス61歳女性高卒平均賃金である259万5,700円を前提にして算定されるべきである。
エ 後遺障害逸失利益について
否認する。算定の前提となる基礎収入額は、259万5,700円とすべきであるし、労働能力喪失率は35%が相当である。
オ 入通院慰謝料について
争う。
カ 後遺障害慰謝料について
争う。670万円が相当である。
キ 弁護士費用について
争う。
第三 争点に対する判断
1 争点(1)(事故態様及び過失割合)について
(1) 証拠(略)によれば、原告は、原告車両に乗って車道を北から南に斜め横断し、渋滞車両の間を抜けて歩道に乗り上げようとしたところ、車道上を東から西に走行してきた被告車両と出会い頭に衝突した事実が認められる。
このような事故態様からすれば、本件事故の発生については、原告にも4割の過失が認められるべきである。
(2) この点、原告は、歩道から車道に出ようとした被告に衝突された旨主張するところ、上記争いのない事実等において認定のとおり、原告は、本件事故により左膝脛骨外側顆部関節面陥没及び粉砕骨折の傷害を負っていることが認められ、証拠(略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述がある。しかし、原告の供述は、原告車両と被告車両が衝突した後に倒れたのか倒れなかったのかという重要な点について変遷し、信用することが困難であってこれを採用することはできず、また、必ずしも原告の傷害部位と上記(1)認定の事故態様は矛盾するものではないことからすればこれをもって、(1)の認定を覆すに足りず、他に上記(1)認定を左右するに足りる証拠はない。
2 争点(2)(原告の後遺障害の程度)について
上記争いのない事実等認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告に残存する関節機能障害、左下肢筋力低下及び腰痛の後遺障害については、後遺障害等級9級に相当するものであるというべきところ、証拠(略)によれば、原告の左下肢は、右下肢と
比較して、1.5センチメートル短縮している事実が認められ、原告には、1下肢を1センチメートル以上短縮したものである、後遺障害等級13級8号(当時。現在の後遺障害等級13級9号)に相当する後遺障害も残存しているものというべきである。
よって、原告には後遺障害等級併合8級に相当する後遺障害が残存しているものというべきである。
3 争点(3)(損害論)について
(1) 入院雑費について
証拠(略)によれば、原告は、本件事故によって被った傷害の治療のため、平成15年6月5日から平成15年12月18日までの197日間にわたる入院治療を余儀なくされた事実が認められる。
よって、原告には、入院雑費として、25万6,100円の損害が発生しているというべきである。
(2) 通院交通費について
原告は、通院交通費として、39万3,300円の賠償を請求するところ、証拠(略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、通院のためのタクシー料金として、少なくとも7万2,050円を支出した事実が認められる。
よって、原告の通院交通費は、7万2,050円が相当である。
(3) 休業損害について
ア 原告は、本件事故当時カラオケ店を経営していたが、本件事故により680日間の休業を余儀なくされた旨主張するところ、証拠(略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告主張の事実を認めることができる。
イ また、原告は、カラオケ店の営業によって、1ヶ月当たり70万円の純利益を得ていたと主張し、証拠(略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述がある。
しかし、証拠(略)には、原告がカラオケ店を経営するために必要な経費は31万5,743円と記載があるのに対し、当初は経費を12万円と主張するなど、その内容に変遷があり、原告の供述を信用することができず、他に、原告主張事実を認定するに足りる証拠はない。
ウ そこで、原告の休業損害を算定するに当たっては、事故当時である平成15年の賃金センサスによらざるを得ず、平成15年の産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均賃金である349万0,300円を原告の基礎収入とするのが相当である。
よって、原告の休業損害は、650万2,476円であるというべきである。
(計算式)
349万0,300円÷365×680日=650万2,476円
(4) 後遺障害逸失利益について
上記2認定のとおり、原告には、後遺障害等級併合8級に相当する後遺障害が残存しているというべきところ、労働能力喪失率は45%とするのが相当である。また、証拠(略)によれば、原告の生年月日は、昭和16年6月であること、証拠(略)によれば、原告の傷害の症状固定日は平成17年4月14日であることがそれぞれ認められ、よって、症状固定時における原告の年齢は、63歳であることからすれば、原告の労働能力喪失期間は当時の平均余命(24.93年)の半数である12年とするのが相当である。また、後遺障害逸失利益算定の前提となる原告の基礎収入は、症状固定時である平成17年の産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均賃金である343万4,400円が相当である。
よって、原告の後遺障害逸失利益は、1,369万7,898円が相当であるというべきである。
(計算式)
343万4,400円×0.45×8.8632(12年間のライプニッツ係数)=1,369万7,898円
(5) 入通院慰謝料について
証拠(略)によれば、原告は、本件事故の結果、平成15年6月5日から平成15年12月18日までの197日間の入院治療及び平成15年12月19日から平成17年4月14日まで(実通院日数340日間)の通院治療を余儀なくされた事実が認
められる。
よって、原告の入通院慰謝料は312万円を認めるのが相当である。
(6) 後遺障害慰謝料について
原告に残存する後遺障害からすれば、原告の後遺障害慰謝料は830万円が相当である。
(7) 過失相殺、損益相殺及び弁護士費用
ア 過失相殺
上記(1)ないし(6)までの原告の損害額の合計は、3,194万8,524円であるところ、上記争いのない事実等認定の事実によれば、原告が本件事故によって被った傷害の治療費は、133万0,107円と認められ、原告の総損害額は、3,327万8,631円である。
そして、上記1認定のとおり、本件事故の発生については、原告にも4割の過失が認められるべきであることからすれば、原告の損害額は、1,996万7,178円が相当である。
イ 損益相殺
上記争いのない事実等認定の事実によれば、原告には、その損害の填補として既に、合計1,149万0,107円が支払われている事実が認められる。
よって、原告の損害額は、847万7,071円が相当である。
ウ 弁護士費用
以上によれば、原告の弁護士費用は、84万7,707円が相当である。
4 よって、原告の請求は、932万4,778円を求める範囲で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求については理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成21年2月24日)
大阪地方裁判所第15民事部
裁判官 新田 和憲