【判決要旨】
①未明の早朝、片側1車線道路急カーブの曲がり角付近の駐停車禁止路上に駐車中のX運転、原告普通貨物車に被告大型貨物車が追突した事案につき、被告車は、「進路に障害物がないことを確認し、発見時には衝突を回避してそれぞれの安全を確保できるよう注意して走行すべきところ、進路左側の停止障害物である原告車に衝突したもので、被告には、前方の安全確認を怠り、あるいは前照灯で確認できる距離内にある障害物を回避するための速度を遵守していなかった安全運転義務違反の過失が認められる」とし、原告車には、「本件事故当時は視界が悪く、L字型曲路という見通しが悪い状況下において、原告車は、駐停車禁止路側帯である本件事故現場で、南北直進路の東端から約11メートルの地点に車両後部を位置する態様で、無灯火で、少なくとも車体を1メートルほど車線内にはみ出させて駐車させており、本件現場には大型貨物自動車が多く往来していることに照らし、衝突事故を誘発する具体的な危険を伴う駐車態様である。Xが、駐停車禁止路側帯に敢えて駐車するならば、さらに前進するなどして、後続車両の進路の安全を確保すべきでありXの過失も重い」と認定し、過失割合については、原告車は違法駐車しており、「衝突事故の発生を予見して回避することが容易だったのは原告車の方であるともいうべき状況であり、追突車の責任が被追突車の責任を上回ることが明らかであるとは言い難い」として、「原告車50、被告車50」と認定した。
東京地裁 平成27年1月19日判決(控訴中)
事件番号 平成25年(ワ)第23053号 損害賠償本訴請求事件
平成26年(ワ)第3770号 損害賠償反訴請求事件
【事案の概要】
原告会社所有の普通貨物車を運転していたXは、平成24年12月17日午前5時38分頃、神奈川県内の片側1車線道路の駐停車禁止場所に原告車を路上駐車させていたところ、被告Y運転、被告会社所有の大型貨物車に追突され、車両修理費等の損害を負ったとして、原告会社は375万0,405円を求めて本訴、被告会社は65万9,246円を求めて反訴を提起した。
裁判所は、駐停車禁止場所に駐車中に追突された原告車につき、不適切な駐車方法から「衝突事故の発生を予見して回避することが容易だったのは原告車の方である」と5割の過失を認定した。
被告車は、「進路に障害物がないことを確認し、発見時には衝突を回避してそれぞれの安全を確保できるよう注意して走行すべきところ、進路左側の停止障害物である原告車に衝突したもので、被告には、前方の安全確認を怠り、あるいは前照灯で確認できる距離内にある障害物を回避できる速度を遵守していなかった安全運転義務違反の過失が認められる」とし、原告には、「本件事故時は暗く、L字型曲路という見通
しが悪い状況下において、原告車は、駐停車禁止路側帯である本件事故現場で、南北直進路の東端から約11メートルの地点に車両後部を位置する態様で、無灯火で、少なくとも車体を1メートルほど車線内にはみ出させて駐車しており、本件現場には大型貨物自動車が多く往来していることに照らし、衝突事故を誘発する具体的な危険を伴う駐車態様である。Xが、駐停車禁止路側帯に敢えて駐車するならば、さらに前進するなどし、後続車両の進路の安全を確保すべきであり、Xの過失も重い」と認定した。
過失割合につき、「本件事故は、被告車に事故発生の直接的原因が認められる一方で、原告車も、上記のとおり事故発生の具体的危険を伴う不適切な方法で違法駐車しており、衝突事故の発生を予見して回避することが容易だったのは原告車の方であるともいうべき状況であり、追突車の責任が被追突車の責任を上回ることが明らかであるとは言い難い」として、過失割合は、「原告車50、被告車50とするのが相当である」と原告車に5割の過失を認定した。
判 決
本訴原告・反訴被告 X会社
(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 丙川一郎
同訴訟代理人弁護士 浅賀大史
本訴被告・反訴原告 Y会社
(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 丁山三郎
本訴被告 乙山次郎
(以下「被告乙山」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 小野寺眞美
【主 文】
1 被告会社及び被告乙山は、原告に対し、連帯して、189万8,202円及びこれに対する平成24年12月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告会社に対し、32万9,623円及びこれに対する平成24年12月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
4 被告会社のその余の反訴請求を棄却する。
5 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
6 この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。
【事実及び理由】
第一 請求
(本訴)
被告会社及び被告乙山は、原告に対し、連帯して、375万0,405円及びこれに対する平成24年12月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(反訴)
原告は、被告会社に対し、65万9,246円及びこれに対する平成24年12月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
1 本件は、原告が所有する自動車と、被告乙山が運転し被告会社が所有する自動車との交通事故により、原告及び被告会社がそれぞれ損害を被ったと主張して、①原告が、被告会社に対し民法715条、被告乙山に対し民法709条に基づき(本訴)、②被告会社が原告に対し民法715条に基づき(反訴)、いずれも損害金及び遅延損害金(始期は交通事故の日である。)の支払を求める事案である。
2 争いのない事実等
(1) 平成24年12月17日午前5時38分ころ、神奈川県横浜市<地番略>(以下「本件現場」という。)で、原告が所有し戊田四郎(以下「戊田」という。)が運転する事業用普通貨物自動車(以下「原告車」という。)と、被告会社が所有し被告乙山が運転する事業用大型貨物自動車(以下「被告車」という。)が衝突した(以下「本件事故」という。)。
(2) 被告会社は、被告乙山の使用者であり、本件事故は、被告乙山による被告会社の事業執行中に発生した。
(3) 原告は、戊田の使用者であり、本件事故は、戊田による原告の事業執行中に発生した。
3 争点
(1) 過失割合
(被告らの主張)
本件事故は。原告車が、真っ暗な中、急カーブの曲がり角出口付近(衝突地点は、駐車が禁止される曲がり角から5メートル以内である。)に、無灯火で、駐停車禁止路側帯から走行車線に大幅にはみ出して駐車していたことから、被告車が避けきれずに衝突したものであり、時間調整のため、何ら緊急性も相当性もなく、事故発生のリスクの極めて高い危険な場所に漫然と原告車を駐車させた戊田の過失は極めて重大である。
被告車は、車幅249センチメートルの大型貨物自動車であり、被告乙山が原告車の駐車を予見することは不可能であり、原告車を避けて急カーブを曲がりきることは極めて困難だった。本件事故の原因は専ら戊田の危険な違法駐車にあり、過失割合は、原告車70、被告車30とすべきである。
(原告の主張)
争う。本件事故の衝突地点が曲がり角から5㍍以内であるとの被告らの主張は、恣意的数値設定を前提にするものであり、否認する。
(2) 原告の損害額
(原告の主張)
修理費用 345万0,405円
弁護士費用 30万円
合計 375万0,405円
(被告らの主張)
不知
(3) 被告会社の損害額
(被告会社の主張)
車両修理費 59万9,246円
弁護士費用 6万円
合計 65万9,246円
(原告の主張)
争う。
第三 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 証拠(各項記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件事故は日の出時刻より1時間以上前に発生し、暗かった。
イ 本件現場は、制限速度毎時30キロメートルであり、別紙図面のとおりの片側1車線の道路である。
ウ 原告車は、概ね別紙図面の「相手車」記載位置に、前照灯、非常点滅表示灯、駐車灯、尾灯のいずれも灯火せずに駐車していた。原告車の駐車位置は、車両の駐車が禁止される駐停車禁止路側帯である。
エ 被告車は、本件現場を南から北に進行し、L字型曲路を曲がったところで原告車に衝突した。
オ 原告車の損傷部位は荷台の右後部であり、被告車の損傷部位は左前部である。
カ 原告車は、幅231センチメートル、長さ798センチメートル、最大積載量3,250キログラムの特殊自動車(冷蔵冷凍車)であり、被告車は、幅249センチメートル、長さ1,185センチメートル、最大積載量1万4,800キログラムの貨物自動車(バン)である。
(2) 前記(1)の認定事実によれば、被告車は、進路に障害物がないことを確認し、発見時には衝突を回避してそれぞれの安全を確保できるよう注意して走行すべきところ、進路左側の停止障害物である原告車に衝突したもので、被告乙山には、前方の安全確認を怠り、あるいは前照灯で確認できる距離内にある障害物を回避できる速度を遵守していなかった安全運転義務違反の過失が認められる。この点について、被告らは、被告車の前照灯がロービームであることを前提に、原告車を回避する余地はほぼなかった旨の報告書を提出するが、被告車がロービームで走行すべき事情は見当たらない上、仮にロービームで走行すべき事情があったならば、本件現場のようなL字型曲路を進行するにあたっては、前照灯で確認できる範囲にいかなる障害物が出現しようと制動可能な速度で走行すべきだったのであり、被告乙山が本件事故を回避できなかったとは認められない。しかし、前照灯の照射距離にかかわらず、被告車にとって、L字型カーブの中央付近まで、曲路を曲がった先の駐車車両を確認できなかった可能性があることが認められ(ただし、衝突地点から遡れば、被告車が、同図よりやや内回りに走行していたことを念頭においている。)、被告車の車体の大きさや重量による操作性をふまえると、原告車を回避するには困難があったことも認められる。
これに対し、本件事故時は暗く、L字型曲路という見通しが悪い状況下において、原告車は、駐停車禁止路側帯である本件事故現場で、南北直進路の東端から約11メートルの地点に車両後部を位置する態様で、無灯火で、少なくとも車体を1メートルほど車線内にはみ出させて駐車しており、本件現場には大型貨物自動車が多く往来していること(弁論の全趣旨により認められる。)に照らし、衝突事故を誘発する具体的な危険を伴う駐車態様である。戊田が、駐停車禁止路側帯に敢えて駐車するならば、さらに前進するなどして、後続車両の進路の安全を確保すべきであり、戊田の過失も重い。
したがって、本件事故は、被告車に事故発生の直接的原因が認められる一方で、原告車も、上記のとおり事故発生の具体的危険を伴う不適切な方法で違法駐車しており、衝突事故の発生を予見して回避することが容易だったのは原告車の方であるともいうべき状況であり、追突車の責任が被追突車の責任を上回ることが明らかであるとは言い難い。なお、被告らは、原告車の駐車位置が曲がり角から5㍍以内の駐車禁止場所であるとも主張するが、厳密に5メートル以内であるかは不明確である。ただし、駐車禁止路側帯への違法駐車であり、駐車態様の危険性は別に考慮している本件において、当該事情は双方の過失割合を左右しない。
以上によれば、過失割合は、原告車50、被告車50とするのが相当である。
2 争点(2)について
証拠(略)によれば、本件事故による原告車の修理費用は345万0,405円であったことが認められ、同金額を損害と認める。
これに50%の過失相殺をすると、172万5,202円(小数点以下切り捨て)となる。
上記認容額、事案の難易等に鑑み、弁護士費用は17万3,000円とするのが相当である。
したがって、原告の損害は、合計189万8,202円である。
3 争点(3)について
証拠(略)によれば、本件事故による被告車の修理費用は59万9,246円であったことが認められ、同金額を損害と認める。
これに50%の過失相殺をすると、29万9,623円となる。
上記認容額、事案の難易等に鑑み、弁護士費用は3万円とするのが相当である。
したがって、被告の損害は、合計32万9,623円である。
第四 結論
よって、原告の本訴請求は、被告らに対し、第三の2の金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告会社の反訴請求は、原告に対し、第三の3の金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれも棄却することにして、主文のとおり判決する。仮執行免脱宣言は相当でないから付さない。
(口頭弁論終結日 平成26年11月12日)
東京地方裁判所民事第27部
裁判官 松川まゆみ