むち打ち損傷ってどういう病気ですか。
1. むち打ち損傷の定義
「加速、減速メカニズムによる外力のエネルギーが首にかかる機序で、これは後方から、側方からの自動車の衝突の結果起こることもあれば、水泳の飛び込みや他の事故に際しても起こりうる。衝撃は骨性あるいは、軟部組織損傷(むち打ち損傷)を引き起こし、これが次第に多彩な臨床症状となることがある」とされています。簡単には、「頚部が振られたことによって生じた頭頚部の衝撃によって生じる様々な、外傷性頭頚部症状」ということができます。
2. どんなものがあるか
(1)頚椎捻挫型
頚部の筋の過度の伸張、一部断裂により頸部の運動制限、痛みが現れている症状。神経根症状がない。時間が経って軽快します。最も多いタイプ。
(2)根症状型
神経根症状がみられ((神経支配領域と整合した腕の疼痛)、(1)の症状に加え、知覚障害、放散痛、反射異常.筋力低下などの神経症状を伴います。
(3)バレー・リュー症状型
自律神経症状や脳幹症状が出現する。頭痛、めまい、耳鳴、眼の疲労、吐き気を伴います。交通外傷後のバレー・リュー症候群はいくつかの発症機序が考えられています。
頚部の軟部組織にある深部受容器の異常興奮と、それに関連する脳幹の機能障害、椎骨動脈周囲の交感神経刺激症状、椎骨動脈の血流不全による脳幹の血行不全、そして頚部骨格筋の過緊張といったものです。
精神心理的要因が大きいとの見解もあります。しかし、発症機序はよくわかっていません。
(4)根症状+バレー・リュー症状型
(2)の根症状型の症状に加えて、バレー・リュー症状が見られるもの。
(5)脊髄症状型
深部腱反射の克進、病的反射の出現などの脊髄症状を伴うもの。この型は、むち打ち損傷の範疇に含まれないとされています。
(6)胸郭出口症候群
腕神経叢と鎖骨下動脈は、前斜角筋と中斜角筋の間、鎖骨と肋骨の間、小胸筋の下層を解剖学上走行しますが、それぞれの部で神経が圧迫を受ける可能性があります。
神経の圧迫と、血管の圧迫が、各々の部で生じると、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群と称しますが、これらをまとめて、胸郭出口症候群と総称します。
頸椎の過伸展、過屈曲により、胸郭出口での斜角筋の瘢痕性線維化などにより、腕神経叢が、複数部位で圧迫を受け、首から肩、腕の痛みが出現します。
本症は首が長く、なで肩の女性に多いのが特徴です(男性の2~3倍)。抗炎症薬の投与で症状を悪化させないよう指導されます。重症例は、肋骨切除がされますが、多くは保存療法で治癒すると言われています。
3. 2(2)の場合に見られる椎間板ヘルニア(2(1)と区別される他覚所見、治療)
(1)意義と症状
椎間板の退行変性に基づく線維軟骨の吐出により、脊髄ないし神経根が圧迫されている状態。後方正中ヘルニアでは、脊髄を圧迫し、圧迫性脊髄障害を生じます。
後側方のヘルニアでは、神経根が圧迫され、神経根刺激・麻痺症状を生じ、片側上肢の疼痛と感覚・運動障害を訴えます。
(2)検査
①自覚症状
頚椎症状 | 後頭頚部から肩甲背部のこり、不快感、疼痛などと頚椎運動制限。 通常、頚椎の伸展強制で増悪し、安静にて軽快します。 外傷発症の場合、受傷直後のほか数時間あるいは、一両日経って亜急性に発症することもあります。 |
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経根症状(←後側方ヘルニア) | 片側(稀に両側)の肩甲骨周辺の疼痛、上肢へ放散痛、前腕や手指のしびれと感覚障害、脱力、筋萎縮などを認めます。 |
脊髄症状(←後方正中ヘルニア) | 感覚障害は、手指、手掌全体に及ぶしびれ感が主体で、さらに体幹、下肢に広がります。運動系では書字、更衣、食事動作時の手指巧緻運動不全を訴えます。 また、下肢麻痺では、階段下降時に手すりを必要とする、走れない、ジャンプできない、などが特徴的です。排尿不全、頻尿を自覚することも少なくありません。 |
②他覚所見
握力検査 | |
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徒手筋力テスト | 医師が、様々な方向から患者と腕の押し合い運動をすることで測定します。 0~5(正常)で判定。 筋力だけでなく、筋肉の支払領域から、障害部位を特定することができます。 |
筋力検査 | 左右の腕の周径を計測。 |
反射テスト | 神経根刺激症状がある時、スパーリングテスト、ジャクソンテストが陽性となります。神経根症では、神経障害位に一致して、上肢の疼痛、脱力、筋萎縮、感覚障害、腱反射が減退します。 |
X線検査 | 脊柱管の広さ(12mm以下で狭窄)、椎間板腔の狭窄、骨棘形成。 |
MRI | 脱出髄核、椎間板変性、脊髄、神経根圧迫。 |
ミエログラフィ(XP) | 脳脊髄液の所に、レントゲンに写る造影剤を入れて、形の変化を調べます。 |
ディスコグラフィ(CT) | 造影剤を椎間板の内部に注入して撮影します。 正常であれば、椎間板内に造影剤が丸くとどまって観察されますが、損傷があるとヘルニアに沿って周囲に漏れ出し、神経根を圧迫したり、後方に漏れて脊髄や馬尾神経を圧迫します。 |
EMG検査(画像で所見が取れないとき) |
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(3)治療
- 安静
- 物理療法(牽引、マッサージ等)
- 薬物療法…ブロック注射(星状神経節、神経根)
- 手術療法